2.就活イベントじゃないんですか!?
「お見合い回転ずし、スタ~~~~~ット!!」
高らかに司会者が叫んでから、俺は目の前に座る男の人に恐る恐る視線を向ける。
タンクトップの胸元が筋肉で盛り上がった、ゴリッゴリにマッチョな人。俺に白い歯を見せて笑いかけてきたから、悲しき国民性の習性で曖昧な笑顔になってしまう。
いやあ、だって――こんなつもりじゃなかったですし。
「あ……えっと、この世界にも回転寿司ってあるんですね?」
タンクトップゴリマッチョさんはうんうんと頷いてから、笑顔で「知らん!!」と叫んだ。
「回転寿司とはなんだ!?」
ああ……拝啓、親愛なるオウル様。
あなたに騙された俺は今、花嫁大作戦とやらに参加していますーー……。
「就活イベントですか?」
「そうだ。弟……次男の隊がいる海街で働き手を募集しているらしい」
優しいオウル様は、落ち込む俺を背に負ぶって砦まで連れ帰ってくれた。
温かい薬草茶まで慣れない手つきで出してくれて(ちょっと、いやかなり苦かった)、砦の兵士に家を雪から掘り返すように命じてくれまでした。
このままオウル様のお側で働いて、秘書みたいになっていつかは――なんて。ありもしない妄想をしていたら、本物の秘書官が来て「弟さんからの手紙です」とオウル様に手紙を渡したんだ。
それを読んだオウル様が俺に仕事先を紹介してくれた。
「港町、ウルティマ・カラフォートですか」
正直なところ、港町なんてこりごりだった。
俺は南部の港町で生まれた。両親は漁をして稼いでいた。
魔物だ、王政反対だって争いとは無縁の生活だった。子どもの頃までは。
だけど、南部は昔から王政反対、国軍は民を守ってくれないっていう反抗気質が強くて、軍と真っ向からやり合っている”反軍”っていう組織もあってさ。
軍の偉い人の訃報が届いてから南部はさらに荒れた。
ついにうちの村にも反軍の奴らが来るって噂が広まって、危ないから引っ越そうって俺は親父を何度も説得しようとしたんだ。なのに、おじいちゃんの代からここに住んでる、そんな弱虫なことができるかって親父は聞き入れなかった。
だから俺だけが北部に来たんだ。
北国での生活に憧れてたから。なんか雪ってキレイじゃん。
こんな家が壊れるようなことになると思ってなかったけど。
ここらじゃ珍しい薬草調合師の俺に砦の人たちは優しかったし、彼らに薬を売ったり食堂で働いたりしてれば細々とでも暮らせてた。
だから今更嫌な思い出のある港町になんて行きたくないんだけど……。
「北部では大きな港町だ。首都アリステラには遠いが、ドラゴンを使えば行き来もできるだろう」
ここよりは便利だぞと言うオウル様の顔に泥を塗ることになるんじゃないか。俺はそう考えた。
「分かりました。でも、どんな人を捜しているんですか?」
条件次第じゃ断れるかもしれない。そう期待しての発言だったんだけど、オウル様に「カノアならば十分条件を満たしているぞ」と太鼓判を押されてしまった。
「料理が上手、掃除洗濯が得意、気立てのいい子だそうだ」
「つまりは家事代行員を求めていると。確かにそれなら俺でもできますね」
「ああ。私から弟には知らせを送っておく」
……くっ、断り辛いじゃないか!
手が伸びてきて「アイツを頼んだぞ」って、ごくごく微かに、ほんっの少しだけ目尻を和らげて口の端を上げたオウル様の微笑みに――「任せてください!」なんて叫んだ俺が馬鹿だったんだ。
あ~~……空が青い。
オウル様のいるタラン・クラウ砦よりも温暖気候の西部に近いからか、こっちではまだ雪が降っていなかった。
婚活パーティーだって知った俺は、オウル様が書いてくれた紹介状を回収すべく動いた。だけど、主催者側のお姉さんに折角だからと断られたんだよね。
「これって花嫁さん探しってことですよね。じゃあ男の俺が参加するのはおかしいんじゃ」
「いえ、法律上なんの問題もありませんので」
そうだった~~って膝から力が抜けそうになった。この国、同性婚が禁止されてないんだよ。
なんでかって? 今の王様の最初の王妃様が性別を変える魔法を編み出したから! TSもカントボーイも元に戻るも選び放題!!
元王妃様がTSもの好きの爆美女(おそらく腐女子)ってどういう設定!?
この人も失踪説と死亡説が流れてるし、やっぱり王族には近づかない方がいいな。死亡フラグの気配が近づいてくる気がする。
「参加者足りてませんし、ぜひ! 存分にお楽しみくださいね」
お姉さんに押し切られてしまって、テレビで見たようなお祭に参加することになってしまった。
でも、流石港町って感じに筋骨隆々とした浅黒い肌の男の人ばかりで、どうしても反軍が頭をちらつく。そのせいでどの参加者の前でも尻込みして、上手く話せなかった。
とうとう誰にも相手をされなくなって、こんな隅っこのベンチに一人でぼーっと座っている。
「紹介状を書いた人の名前とか発表されてないよね……」
オウル様の名声に傷をつけていたらどうしよう。不安になってきた俺は両手を握って、額に押し付ける。
「大丈夫。兄貴の名前は知られてないよ」
えっ!? と聞こえてきた声に驚いて顔を上げた。いつの間にか隣に知らない人が座っていた。
「あ、あの……?」
俺と目が合ったその人は、にこっと華やかな笑顔を見せた。
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