アルシノエ四世の生涯
✿モンテ✣クリスト✿
アルシノエ四世の生涯
第一章:王宮の影
アレクサンドリアの王宮は、地中海に突き出たファロス島と本土を結ぶヘプタスタディオン(七つのスタジアム長の堤防)に隣接する、壮麗な建築群だった。紀元前48年、夕暮れの光が大理石の柱に映り、金色の輝きを放つ中、アルシノエ4世は王宮の回廊に立っていた。
彼女の目は、港に停泊する無数の船と、遠くにそびえるファロス島の灯台を見つめていた。17歳のプトレマイオス王家の王女は、姉クレオパトラ7世と兄プトレマイオス13世の権力争いの中で、自分の運命を模索していた。彼女はプトレマイオス12世アウレテスと、おそらくクレオパトラ5世トリュファイナの娘であり、クレオパトラ7世とは異母姉妹である可能性もあったが、彼女の野心は姉に引けを取らなかった。
「アルシノエ様、危険です。今は静かにしていてください」侍女の声が背後から響く。だが、アルシノエ4世の心は静かではなかった。ローマの将軍ジュリアス・シーザーがアレクサンドリアに到着したばかりだった。
彼は内戦の敵であるグナエウス・ポンペイウスを追ってエジプトに来たが、到着直後にポンペイウスの首がプトレマイオス13世の側近、宦官ポティヌスと将軍アキラスによって送られてきた。ポンペイウスはペルシウムでガレー船から小舟に誘い出され、裏切られて殺害された。
この卑劣な行為にシーザーは激怒し、首を受け取るのを拒否したと王宮内で噂が広がっていた。シーザーはクレオパトラ7世を支持し、プトレマイオス13世を牽制していた。アルシノエ4世は王宮の豪華な部屋に閉じ込められ、シーザーの兵士による監視の目が彼女を縛っていた。
彼女の家庭教師であり、プトレマイオス朝の廷臣である宦官ガニュメデスが、密かに部屋に入ってきた。「殿下、時は来ました。シーザーの目は我々から離れています。今夜、王宮を脱出するのです」彼の声は低く、決意に満ちていた。アルシノエ4世の胸は高鳴った。彼女は姉クレオパトラ7世に負けるつもりはなかった。プトレマイオス朝の王位は、彼女にもふさわしいものだった。
その夜、アルシノエ4世はガニュメデスと共に王宮の地下通路を抜け、ヘプタスタディオンの近くの港へ向かった。闇に紛れ、漁船に乗り込んだ彼女は、プトレマイオス13世の軍が待つアレクサンドリア郊外の陣営へと急いだ。彼女の心には、野心と恐怖が交錯していた。「私は女王になる。エジプトは私の手で導かれるべきだ」彼女は自分に言い聞かせた。
第二章:反乱の旗
アレクサンドリアの大港(Great Harbor)は、戦火に包まれていた。プトレマイオス13世の軍は、シーザーのローマ軍を港と王宮地区に閉じ込め、アレクサンドリア戦争を繰り広げていた。アルシノエ4世は郊外の陣営に到着すると、将軍アキラスと宦官ポティヌスに迎えられた。
彼らは彼女をプトレマイオス王家の象徴として担ぎ上げ、兵士たちの士気を高めた。エジプトの民衆は、クレオパトラ7世がローマと結託したことに強い反発を抱いており、アルシノエ4世は彼らの支持を得て自らを「アルシノエ4世、女王」として宣言し、プトレマイオス13世を脇に押しやった。
「我々はクレオパトラ7世とシーザーを倒す!」
アルシノエ4世は陣営の中央、ナイル河口近くの野営地で叫んだ。彼女の声は若々しくも力強く、兵士たちの心を掴んだ。ガニュメデスは彼女の側で戦略を練った。彼はシーザーの艦隊を封鎖するために大港の水路を閉じ、飲料水に塩水を混ぜる狡猾な戦術を展開した。
シーザーはこれに対抗し、街の下の多孔質の石灰岩に井戸を掘って淡水を確保したが、状況は依然として厳しかった。アルシノエ4世はガニュメデスの知恵を頼りに、軍を指揮した。彼女は戦場に立つ姿で兵士たちを鼓舞し、ファロス島の灯台を奪おうとするシーザーの攻撃を撃退した。
シーザーは自ら兵を率いて灯台を奪取しようとしたが、アルシノエ4世の指揮下のエジプト兵は猛反撃を加え、シーザーを海に追い落とした。シーザーは紫のマントと鎧を脱ぎ捨て、泳いで安全な場所へ逃げなければならなかった。この勝利はアルシノエ4世の名を高め、兵士たちは彼女を「ファロスの守護者」と呼んだ。
しかし、軍内の対立が彼女の計画を揺さぶった。アキラスはガニュメデスの権力を妬み、軍の統制を巡って衝突した。アルシノエ4世は決断を迫られた。
「アキラスは危険だ。彼を排除しなければ、軍はまとまらない」
ガニュメデスの進言に従い、彼女はアキラスを暗殺させた。この大胆な行動は、彼女の権威を強めたが、同時に軍内の不協和音を増幅させた。ガニュメデスを軍の第二の指揮官に任命し、アルシノエ4世は自ら最高司令官として振る舞った。彼女はナイル河口の湿地帯で陣を張り、シーザーの補給線を断つ作戦を立てた。彼女の軍は街の通りを封鎖し、シーザーを閉じ込めたが、シーザーは海岸沿いに船を送り、淡水の確保を試みた。
勝利の希望はつかの間だった。エジプトの将校たちはガニュメデスの戦術に失望し、シーザーと密かに交渉を始めた。彼らは平和の名目でアルシノエ4世をプトレマイオス13世と交換することを提案した。アルシノエ4世はこの裏切りを知り、激怒したが、軍の統制が崩れ始めていた。
紀元前47年、シーザーはペルガモン王国のミトリダテス率いる援軍を得て反撃に転じ、ナイルの戦いでエジプト軍を壊滅させた。戦場はナイル河口の湿地帯で、泥濘とした土地が兵士たちの足を絡め、混乱を増幅させた。
アルシノエ4世は馬上で指揮を執っていたが、シーザーの軍勢に包囲され、捕らえられた。プトレマイオス13世は戦いで溺死し、アルシノエ4世の夢は砕け散った。彼女の心は絶望に沈んだが、同時に姉クレオパトラ7世への憎しみが燃え上がった。
「なぜ彼女が王位を手にし、私はこうなるのか?」
第三章:囚われの王女
ナイルの戦いの後、アルシノエ4世はアレクサンドリアの王宮地区に連れ戻された。シーザーの兵士たちは、彼女を王宮の東翼、ヘプタスタディオン(大灯台のあるファロス島と本土の海岸を結ぶために建設された巨大な堤防でその長さからこの名が名付けられた。王宮の対岸に位置する)を望む部屋に閉じ込めた。窓には鉄格子がはめられ、かつての豪華なタペストリーや金箔の装飾は剥ぎ取られ、冷たい石の床が広がっていた。
シーザーはクレオパトラ七世とプトレマイオス13世の共同統治を宣言していたが、プトレマイオス13世の死により、クレオパトラ7世が実権を握っていた。アルシノエ4世は厳重に監視され、侍女たちも離れ、孤独な日々を送った。彼女の食事は粗末で、パンと薄いスープだけが与えられた。夜になると、兵士たちの足音と、遠くで響く地中海の波音だけが彼女を慰めた。
「これが私の運命なのか?」
アルシノエ四世は自問した。彼女の家庭教師で、宦官の廷臣として彼女の参謀役を務めたガニュメデスの行方は知れず、おそらく戦場で死んだか捕らえられたのだろう。彼女は王宮の窓から見えるファロス島の灯台を見つめ、かつての勝利の日々を思い出した。
シーザーは彼女をローマに連行することを決め、紀元前47年の夏、準備が始まった。アルシノエ4世は鎖に繋がれ、アレクサンドリアの大港からローマの商船に押し込まれた。船はコルピタ船で、貨物スペースが大部分を占め、彼女は甲板の片隅に簡易な帆布の下で過ごした。地中海を渡る長い旅は、彼女にとって屈辱の連続だった。船倉は湿気と塩の匂いに満ち、揺れる船体が彼女の体を苛んだ。ローマ兵の監視は厳しく、彼女は簡素なパンと水を与えられ、鎖の音が絶えず響いた。
航海中、アルシノエ4世は過去を振り返った。姉クレオパトラ7世の陰謀、シーザーの介入、そして自分の野心がもたらした敗北。船は地中海を横断し、嵐に遭遇することもあった。波が甲板を洗い、彼女は帆布の下で濡れそぼった。
ローマ兵たちは彼女を嘲笑し、「エジプトの偽女王」と呼んだ。旅は数週間続き、ようやくローマのオスティア港に到着した時、アルシノエ4世の心は鋼のように硬くなっていた。彼女は牢獄に移され、シーザーの凱旋式の準備が進められた。牢獄は暗く、湿った石壁に囲まれ、わずかな藁のベッドが彼女の休息の場だった。彼女はクレオパトラ7世がローマに滞在し、シーザーの邸宅で豪華な生活を送っていることを知り、憎しみがさらに深まった。
第四章:凱旋式の屈辱
紀元前46年、ローマのフォルムとカピトリヌスの丘を結ぶ通りは、シーザーの凱旋式で沸き立っていた。シーザーはガリア、エジプト、ポントス、アフリカの勝利を祝う四日間の大凱旋式を開催した。群衆が通りを埋め尽くし、戦勝の将軍を讃える声が響いた。アルシノエ4世は鎖に繋がれ、戦車に引かれてローマの石畳の道を進んだ。
彼女の金色の髪は埃にまみれ、かつての王女の威厳は失われていた。彼女の前には、ファロス島の灯台の燃える人形が置かれ、彼女の過去の勝利を象徴していた。群衆の目は好奇と嘲笑に満ち、彼女を「エジプトの反逆者」として見つめたが、一部の人々は彼女の若さと美しさに同情を寄せた。ヌミディアの王子ジュバ2世のような他の捕虜と共にパレードされ、観衆の叫び声が耳を劈いた。
「これがシーザーの勝利か」
アルシノエ4世は唇を噛んだ。彼女の目は、観衆の中にクレオパトラ7世の姿を探したが、姉はそこにいなかった。クレオパトラ7世はシーザーの庇護の下、ローマの豪華な邸宅で生活を送っていたのだ。
アルシノエ4世の胸に、姉への憎悪が再び燃え上がった。凱旋式の伝統では、重要な捕虜は式の終わりに絞首刑に処されるはずだったが、群衆の同情とシーザーの政治的判断により、アルシノエ4世は死を免れた。
シーザーは彼女をエフェソスのアルテミス神殿に追放することを決めた。この決定はローマの貴族たちを驚かせたが、シーザーの権威とクレオパトラ7世との関係を考慮したものだった。
パレードの後、アルシノエ4世は一時的にカルケルの牢獄に移され、追放の準備が整えられた。牢獄はローマのフォルム近くにあり、冷たく暗い地下室だった。彼女は藁のベッドに横たわり、鎖の重さに耐えながら、復讐の誓いを立てた。「いつか、クレオパトラ7世に報いを」彼女の心は屈辱と憎しみで満たされていたが、生き延びる道が残されたことに一抹の安堵を感じた。
第五章:エフェソスの亡魂
エフェソスのアルテミス神殿は、イオニア地方の丘陵にそびえる壮麗な大理石の神殿だった。世界の七不思議の一つに数えられるこの神殿は、112本の柱に囲まれ、祭壇の煙が空に立ち上る聖なる場所だった。アルシノエ4世は神殿の聖域に保護され、司祭たちのもとで静かな生活を送ることになった。
彼女は「女王」として迎え入れられ、メガビゾスと呼ばれる宦官の司祭が彼女を丁重に扱った。神殿内の部屋は簡素だが清潔で、大理石の床とエーゲ海を見下ろす窓があった。彼女は白いリネンの衣をまとい、司祭たちと共にアルテミスの儀式に参加したが、彼女の心は静かではなかった。エジプトの王位を失い、姉に裏切られたという思いが、彼女を夜ごと苛んだ。
神殿の庭で、彼女はエーゲ海を眺めながら過去を振り返った。「私は女王だった。エジプトを導くはずだった」彼女の声は風に消えた。司祭たちは彼女に敬意を払い、侍女を付け、祈りと瞑想の日々を送らせたが、彼女は自由ではなかった。
ローマの監視者が常に近くにおり、クレオパトラ7世の影が彼女を脅かしていた。彼女は神殿の図書館でギリシャ語の哲学や詩を読み、かつてのアレクサンドリアでの教育を思い出した。ガニュメデスから学んだ政治と戦略の知識が、彼女の心に生き続けていた。
数年が過ぎ、紀元前41年、クレオパトラ7世はマルクス・アントニウスとの同盟を固め、アルシノエ4世を潜在的な脅威と見なした。クレオパトラ7世はタソスでアントニウスと会い、豪華な宴の後、アルシノエ4世の処刑を要求した。
アントニウスはクレオパトラ7世の影響下でこの命令を受け入れ、暗殺者をエフェソスに送った。ある夜、月光が神殿の階段に差し込む中、アルシノエ4世は神殿の奥の部屋で休息を取っていた。暗殺者たちが忍び寄り、彼女を神殿の階段に引きずり出した。彼女は抵抗したが、力及ばず、階段上で刺殺された。血が大理石を染め、神殿の聖域を汚した。この行為はローマを震撼させ、アントニウスとクレオパトラ7世の評判を落とした。メガビゾスは赦免を求めてクレオパトラ7世に使者を送り、ようやく許された。アルシノエ4世の最期は、誰にも知られず、歴史の片隅に埋もれた。
エピローグ
アルシノエ4世の生涯は、プトレマイオス朝の権力争いの中で輝き、そして消えた一瞬の星だった。彼女は姉クレオパトラ7世の影に隠れ、歴史の表舞台から姿を消したが、その野心と勇気は、アレクサンドリアの港とエフェソスの神殿に刻まれている。
登場人物
アルシノエ4世
プトレマイオス朝の王女、アルシノエ4世は、紀元前63年から59年頃に生まれ、紀元前48年、17歳でアレクサンドリアの王宮に立った。プトレマイオス12世アウレテスの娘で、クレオパトラ7世の異母妹か全妹とされる彼女は、姉と兄プトレマイオス13世の権力争いの中で、野心を燃やした。
ガニュメデスの助けで王宮を脱出し、郊外の陣営で自らを女王と宣言。エジプト軍を指揮し、シーザーの艦隊を封じる戦術でファロス島を防衛、「ファロスの守護者」と称賛された。アキラスを暗殺して権力を固めたが、軍内の裏切りでナイルの戦いに敗北、捕らえられる。
ローマに連行され、紀元前46年のシーザーの凱旋式で鎖に繋がれパレードされたが、群衆の同情で命を助けられ、エフェソスのアルテミス神殿に追放。神殿で静かな生活を送るが、紀元前41年、クレオパトラ7世の要請を受けたマルクス・アントニウスにより暗殺された。彼女の生涯は、権力の渦中で輝き、消えた野心の象徴であり、姉の影に隠れた勇気と悲劇を今に伝える。歴史家ディオ・カッシウスによると、彼女の処刑は神殿の聖域を汚し、ローマの評判を落としたという。
クレオパトラ7世
クレオパトラ7世は、プトレマイオス朝最後の女王で、アルシノエ4世の姉。紀元前69年に生まれ、美貌と知性で知られる。紀元前51年から兄プトレマイオス13世と共同統治を開始したが、権力争いが激化。シーザーの到着後、彼を魅了し支持を得て実権を握った。
アルシノエの反乱を脅威とみなし、シーザーに彼女の捕縛を促す。ナイルの戦い後、プトレマイオス13世の死により単独統治に近づき、シーザーとの間にカエサリオンを生む。
シーザー暗殺後、マルクス・アントニウスと同盟を結び、紀元前41年、タソスで彼にアルシノエの処刑を命じた。この冷酷な決断は、潜在的な脅威を排除するためのもので、彼女の権力維持への執着を示す。
クレオパトラの策略はエジプトを一時繁栄させたが、妹への非情さは家族内の暗い側面を露呈。紀元前30年、オクタウィアヌスに敗北し、自殺。彼女の生涯はローマとの外交と恋愛で彩られ、アルシノエの悲劇の背景として常に存在した。プルタルコスによると、彼女の魅力は会話の才にあったという。
プトレマイオス13世
プトレマイオス13世は、アルシノエ4世の兄で、プトレマイオス朝の王。紀元前62年頃生まれ、紀元前51年から姉クレオパトラ7世と共同統治。未熟な少年王は、宦官ポティヌスや将軍アキラスなどの側近に操られ、紀元前48年、シーザーの敵ポンペイウスをペルシウムで殺害。
この行為はシーザーの怒りを買い、アレクサンドリア戦争を引き起こした。アルシノエの到着後、彼女に実権を奪われ、脇役に追いやられる。シーザーにより一時解放されたが、ナイル河口の湿地帯での戦いで敗北、溺死したとされる。カッシウス・ディオによると、19歳の若さで没した彼の死は、プトレマイオス朝の内紛を象徴。ローマの介入を招き、エジプトの独立を脅かした。彼の治世は家族間の権力争いと外部勢力の影に覆われ、アルシノエの野心を間接的に助長した存在だった。
ポティヌス
ポティヌスは、プトレマイオス13世の宦官で、廷臣として権謀術数を巡らせた。プトレマイオス朝の宮廷で影響力を持ち、紀元前48年、アキラスと共にポンペイウスの殺害を画策。シーザーを喜ばせようとしたが、逆に怒りを買い戦争を誘発した。アルシノエ4世の反乱では彼女を担ぎ上げ、反クレオパトラ勢力の中心となったが、ガニュメデスとの対立で影響力を失う。
アルシノエの決断によるアキラスの排除後、さらに影が薄れ、歴史の記録から詳細な最期は不明。カッシウス・ディオの記述では、彼はシーザーにより処刑された可能性がある。ポティヌスの狡猾な策謀は一時的にプトレマイオス13世の軍を支えたが、内部の不和を増幅させ、アルシノエの計画を複雑化した。宦官として王族の教育や政治に関与した彼は、プトレマイオス朝の腐敗を体現する人物だ。
アキラス
アキラスは、プトレマイオス13世の将軍で、アルシノエ4世の反乱を軍事的に支えた武人。エジプト軍の指揮官として、紀元前48年、ポティヌスと共にポンペイウスの殺害を実行し、シーザーの敵意を招いた。アレクサンドリア戦争でアルシノエを支持、兵士たちを鼓舞したが、ガニュメデスとの権力争いで軍の統制を乱した。
ガニュメデスの進言を受けたアルシノエにより暗殺され、その死は彼女の権威を一時的に高めたが、軍内の不協和音を深めた。歴史家によると、アキラスの排除はアルシノエの決断力を示すが、結果として軍の弱体化を招いた。アキラスの武勇はエジプト軍の士気を高めたが、内部対立が彼の運命を閉ざした。プトレマイオス朝の軍事指導者として、ローマとの戦いで活躍した彼は、権力闘争の犠牲者となった。
ガニュメデス
ガニュメデスは、アルシノエ4世の家庭教師で、宦官の廷臣として彼女の参謀役を務めた。紀元前48年、アルシノエの王宮脱出を密かに助け、アレクサンドリア戦争でシーザーの艦隊を封じる巧妙な戦術を立案。大港の水路を閉鎖し、飲料水に塩水を混ぜる策でシーザーを苦しめた。ファロス島の防衛戦ではシーザーを海に追い落とし、アルシノエを「ファロスの守護者」と呼ばせた。
アキラスとの対立で彼を排除させたが、軍内の裏切りで失脚。ナイルの戦いで消息を絶ち、おそらく処刑されたとされる。カッシウス・ディオによると、ガニュメデスはシーザーにより処刑された。彼の知恵と戦略はアルシノエの反乱を支え、プトレマイオス朝の抵抗を象徴したが、運命に抗えなかった。宦官として王女の教育に携わった彼は、忠誠と智謀の体現者だ。
ジュリアス・シーザー
ジュリアス・シーザーは、ローマの将軍・政治家で、アルシノエ4世の運命を大きく左右した覇者。紀元前100年生まれ、紀元前48年、内戦の敵ポンペイウスを追ってエジプトに到着。ポンペイウスの首を受け取った際の激怒は、プトレマイオス13世の側近の誤算を露呈した。クレオパトラ7世を支持し、アルシノエの反乱を鎮圧。
アレクサンドリア戦争で彼女を捕らえ、紀元前46年の凱旋式で鎖に繋がれパレードさせたが、群衆の同情で命を助け、エフェソスのアルテミス神殿へ追放。この決定は慈悲を示す政治的判断で、クレオパトラとの関係を考慮したもの。シーザーのエジプト介入はローマの影響力を拡大し、プトレマイオス朝の終焉を予感させた。紀元前44年、暗殺されるまで、彼の野心はローマ史を変えた。
マルクス・アントニウス
マルクス・アントニウスは、ローマの将軍・政治家で、クレオパトラ7世の盟友。紀元前83年生まれ、シーザーの部下として活躍。シーザー暗殺後、三頭政治で権力を握り、紀元前41年、タソスでクレオパトラと出会い、彼女の影響下でアルシノエ4世の処刑を命じた。
この命令はエフェソスのアルテミス神殿で実行され、神聖な場所を汚したとしてローマの評判を落とした。アントニウスのクレオパトラへの忠誠は、東方支配の野心と結びつき、オクタウィアヌスとの対立を招いた。紀元前31年のアクティウムの海戦で敗北し、自殺。アルシノエの最期における役割は、彼の冷酷さと恋愛の影響力を示す。プルタルコスの伝記では、彼の豪奢な生活が描かれる。
メガビゾス
メガビゾスは、エフェソスのアルテミス神殿の宦官司祭で、アルシノエ4世を保護した人物。紀元前46年、シーザーにより追放されたアルシノエを「女王」として迎え入れ、丁重に扱い、神殿内の部屋を提供。彼女の祈りと瞑想の日々を支えたが、ローマの監視下にあった。
紀元前41年、アルシノエの暗殺後、神殿の汚れを理由にクレオパトラ7世に赦免を求め、許された。メガビゾスの役割は宗教的な聖域を守り、アルシノエに一時的な安息を与えたが、彼女の悲劇を防げなかった。彼の敬虔さと外交的対応は、アルシノエの最期に人間性を添え、歴史に残るエピソードとなった。
ミトリダテス
ミトリダテスは、ペルガモン王国の王で、シーザーの援軍として活躍。紀元前47年、ナイルの戦いに参加し、彼の軍勢がアルシノエ4世とプトレマイオス13世のエジプト軍を壊滅させた。この介入はシーザーの反撃を可能にし、アルシノエの捕縛とプトレマイオス朝の内紛終結を決定づけた。ミトリダテスの軍事力はローマのエジプト支配を強化する一歩となり、アルシノエの運命にとっては破滅の要因となった。彼はシーザーの同盟者として、アジアの王として知られる。
プトレマイオス14世
プトレマイオス14世は、アルシノエ4世の弟で、プトレマイオス朝の王。紀元前59年頃生まれ、作品では直接登場しないが、歴史的に紀元前47年、ナイルの戦い後、シーザーによりクレオパトラ7世の共同統治者に指名された。若く無力な彼は、クレオパトラの実権下で名目上の王に過ぎず、アルシノエの反乱や追放時には影響力を持たなかった。
紀元前44年頃、クレオパトラにより毒殺されたとされ、彼女の権力集中を助けた。彼の存在は、プトレマイオス朝の衰退と家族内の暗殺の伝統を背景に、アルシノエの悲劇と対比される。カッシウス・ディオによると、15歳で没した。
グナエウス・ポンペイウス
グナエウス・ポンペイウス・マグヌスは、ローマの将軍で、シーザーの政敵。紀元前106年生まれ、「大王」の異名を持ち、東方遠征で名を馳せた。紀元前48年、内戦でシーザーに敗北し、エジプトに逃亡。プトレマイオス13世の側近ポティヌスとアキラスによりペルシウムで殺害され、首がシーザーに送られた。
この卑劣な行為はシーザーの怒りを買い、アレクサンドリア戦争のきっかけとなった。ポンペイウスの死は共和派の象徴となり、アルシノエの反シーザー反乱に間接的に影響を与えた。彼の支持者たちは死後、カトーや息子たちにより派閥を維持したが、アルシノエとの直接関与はない。プルタルコスの伝記では、彼の栄光と転落が描かれる。
小カトー
マルクス・ポルキウス・カトー・ウティケンシスは、ローマの政治家で、ポンペイウス死後の共和派指導者。紀元前95年生まれ、厳格な道徳で知られ、シーザーの独裁に反対。ポンペイウス派の中心として、アフリカで抵抗したが、紀元前46年のタプソスの戦いで敗北、自殺。
アルシノエをシーザーから奪い返してポンペイウス派再興を目論んだ記録はないが、共和派の象徴として、アルシノエの反乱と精神的に連動する可能性がある。彼の死はシーザーの勝利を象徴し、プルタルコスにより「不屈の共和主義者」として描かれる。
クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウス・スキピオ
クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウス・スキピオは、ローマの貴族で、ポンペイウス死後の支持者。紀元前95年頃生まれ、ポンペイウスの義父として派閥を支え、アフリカでシーザーに対抗。紀元前46年のタプソスの戦いで敗北、自殺。アルシノエの救出を目論んだ具体的な記録はないが、ポンペイウス派の再興を目指した人物として関連。共和派の抵抗を体現した彼の生涯は、シーザー時代の混乱を反映する。
セクストゥス・ポンペイウス
セクストゥス・ポンペイウスは、ポンペイウスの息子で、死後の派閥継承者。紀元前67年生まれ、シーザー暗殺後、海賊戦でローマを脅かし、三頭政治に対抗。アルシノエの救出に関与した記録はないが、ポンペイウス派の再興を目論み、紀元前39年のミセヌム条約で一時勢力を得た。紀元前35年、オクタウィアヌスに敗北し処刑。彼の海軍力は共和派の最後の抵抗を象徴する。
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