禁断のダクネス

森崇寿乃

第一章:街の喧騒と内なる獣

おお、天にまします御方よ。このけがれた仔羊の告白を、どうかお聞き届けくださいませ。これから語りますのは、私の聖なる務めと、不浄なる悦楽の記録。私の罪と、そして祝福の物語なのでございます――。


我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ。陽の光を浴びて輝くべき血統に生まれながら、その魂は月影つきかげに濡れる。倒錯とうさくの蜜をすすって生き永らえる宿命を負った女なのだ。

アクセルの街、その心臓たる冒険者ギルドは、今日も欲望と活力の熱気に満ちていた。エール樽の転がる音、高らかな笑い声、武具を誇示する金属音。それらが混濁した喧騒の中、私はただ一人、窓から射す光の筋を虚ろに見つめていた。周囲から寄せられる視線は肌で感じている。畏敬いけい憧憬しょうけい、そして純粋な好奇心。王国屈指の貴族の娘が、何故このような場所に身を置くのか。彼らの目には、私はきっと、民のために己をなげうつ、気高くも風変わりな聖騎士と映っているのだろう。

演じている。私は、彼らが望む偶像を。

その視線が肌を這うたび、私の内なる獣は偽善を嘲笑い、鉄の鎧の下で身をもじるのだ。ああ、知られたい。この鋼鉄の下に隠された、醜くも熟れた本性を。暴かれ、蔑まれ、衆人環視の中で辱められたい。その渇望が、私の喉をく。

「おい、ダクネス。いつまでそこで腐った油みたいな顔してやがる! 今日の依頼に行くぞ、さっさと準備しろ、この変態女騎士が!」

その声は、私の白昼夢を無慈悲に引き裂いた。我が主、カズマ。 この男だけが、私に投げかけられる無数の視線を透過し、その奥にある真実の姿を、まるで汚れたガラス玉でも見るかのように侮蔑の眼差しで見つめてくる。彼の言葉のつぶては、私の心に的確に波紋を広げ、恥辱と歓喜の渦を巻く。ああ、この魂が粟立つような疼き。

努めて冷静な声を繕い、彼の待つ席へと向かう。そこには、いつもの混沌があった。

俗世の快楽に身をやつし、堕ちてなお神性の残り香を漂わせる女神アクア。彼女は新たな宴会芸の資金を得ようとカズマに泣きついている。そして、一日に一度きりの破滅の祝祭を前に、その紅き瞳を妖しく輝かせる魔導の少女、めぐみん。

彼らで構成されたこの歪な日常。それこそが、聖と俗の狭間で引き裂かれそうになる私を、かろうじてこの世に繋ぎ止めている。グロテスクで、しかし愛すべき縁なのである。

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