33話 掘り起こすもの
土砂崩れの影響で道路づくりは一時中断されていたが、雨季が明けると約束どおり――
「アメリアの宝探しのため」という名目で、鉱山から三人の熟練採掘師と、道路作業員の半数が派遣された。
彼らは王女の指示を忠実に守り、希望どおりの場所に足場を築き、安全を確保しながら山腹に新たな坑道を掘り進めていく。
「はぁああ、これでアメリア様の努力がついに結ばれるのですね!」
作業員たちの手際を眺めながら、テティが歓喜の声を上げた。
「それにしても、よく団長がお許しになられましたね」
リンクが不思議そうに言うと、アメリアは微笑んで答えた。
「あなたのおかげよ」
彼は小首をかしげたが、アメリアの胸の内は嬉しさで満たされていた。
正直、ここまで人員を送ってくれるとは思っていなかった。
土砂崩れで埋もれた資材を運び出す班を除けば、ほとんどをこちらに回してくれたのだ。
――彼も、この道を信じてくれている。
そう感じるだけで、胸の奥がぽうっと温かくなった。
そんな三人の様子を遠くから見ていた採掘師のひとりが、アメリアの前に進み出る。
「王女さま、このたびは我々をお呼びいただき、ありがとうございます」
「まあ、こちらこそ助かりました。皆さま、他の鉱山で働いていると伺っていたので……お仕事を置いて来られたのでは?」
「いえいえ、今の鉱山は鉄鉱石ばかりで、正直飽き飽きしてましてね!
採掘師ってのは、みんなアメリア様と同じで“宝を掘り当てたい”って気持ちで生きてるんです。
どうかお気になさらず! 必ず良い成果を出しますよ!」
(……宝を掘り当てたいわけじゃないのだけれど)
そう思いながらも、“宝探し”という名目は都合がよく、彼らの士気も高い。
毎日現場に顔を出すアメリアのおかげで、作業は驚くほど順調だった。
それだけでも十分嬉しい。
けれど、胸が高鳴る理由はそれだけではない。
「アメリア様、今日はヴァルク様は来られますかね?」
アメリアの後ろに回り、テティがこそっと囁いた。
唇の端がにやりと上がっている。
「そ、そうね……どうかしら。朝は何もおっしゃってなかったけど……」
「そうでしたか。でも最近、おふたりは本当に仲がよろしいですね。
毎日、一食はご一緒されてますし」
「……まあ、そうね。これまであまり時間をとっていなかったから。うん、そうよ! これが普通なのよね!」
思わず言い訳のように早口になる。
けれど、婚約者として、そして遠くノルディアまで同行しているのだ。
これが自然なこと――そう思い直した。
「はい、おふたりが仲良くなられて、私もとても嬉しいです!」
テティがにこりと笑う。
頼りないように見えて、恋愛のことになると妙に勘が鋭い。
王宮の侍女には、貴族とはいかなくとも良い家柄の娘で自立した者も多く、恋に積極的な者が少なくない。
カリナのように幼い頃から働いてきた者を除けば、きっとテティも恋に関してはずっと先輩なのだろう。
「そういうあなたは、メルディ卿とどうなの?」
そう言うと、テティは待ってましたとばかりにアメリアの隣にぴたりと寄り添った。
「実はですね、今度のリンク様の休息日に街を案内してくださることになったんです!
なので、お休みいただいてもいいですか?」
「ええっ、いつの間にそんな話に?!」
「しぃー! ダメですか?」
「ダメではないけど……ねえ、テティ。
あなた、これまでも恋人っていたの?」
好奇心を込めた問いに、テティの顔が一瞬だけ曇った。
「……そう、見えますか?」
「え、ああ、そうね。だってあなたは可愛いもの。歳も私より上でしょう?
マリアお義姉さまの侍女として入ったと聞いたから、王宮に来てまだ二年くらいだし……」
「そうですね。今年で二十三になります」
「……どうして、ノルディアに来たの?」
「え?」
ずっと疑問だった。
侍女頭のローラは王宮で他の侍女の管理があるため同行できないのはわかる。
だが、アメリア付きの侍女は他にも大勢いる。
義姉マリアの宮に仕える侍女が同行するのは、やはり不思議だった。
カリナとして生きていた頃も、彼女と接点はなかった。
なぜ彼女が選ばれたのか――。
「アメリア様って、本当に勘が良いんですね」
テティの目つきが一瞬だけ変わった。
けれど、すぐに柔らかな笑みに戻る。
「そうなんです……実は、王宮に出入りしていた方とお付き合いしていたんですが、振られてしまって。
あまりにも私が嘆くものだから、マリア様が“気分転換になるように”と、ローラ様に進言してくださったんです」
「そうだったの……マリアお義姉さまは、随分お優しいのね」
「はい。私はマリア様の乳母の娘でして、幼い頃からずっとご一緒だったんです!」
嬉しそうに笑う彼女の姿が、ふとカリナとアメリア王女の関係を思い出させた。
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