第4話

「なんか硬てぇ石でも当たったか?」


「失礼ね、私の顎ひょ! ……よ。か、噛んだわよ? それがなに? 文句ある!?」


「え? 悪い。大丈夫か?」


背の高いフレイがクロハを見下げるこの位置関係。どこか間の抜けた少年に見下されてると思うと、無性に腹が立ってくる。


――もういい。同情してやるつもりなんてさらさら無い。力尽くでも魔王の居場所を聞き出してやる!


故郷で魔物と戦い培ったクロハの短剣裁きが踊った。煌めきは空を裂き、逃げる塵が砂の匂いを漂わす。


「魔王について知ってることを洗いざらい話しなさい!」


フレイもまた踊るように半身を交互に後退させて身を躱す。緊迫感のない表情でクロハの足元をぼんやりと見ている。

……まさか、安全な距離感を測っているの?


「なあ、一旦落ち着かないか? お前、賊ってわけじゃなさそうだけど」


互いの時が止まる。


「賊に落ちるくらいなら――死ぬわ。あなたこそ何者なの? 妖しい光を操る術といい、ただの旅人には見えないけど」


フレイはふと真面目な顔になり、肩越しに視線を滑らせて空を見上げた。


「あぁ……。俺はフレイ。あるものを探してる。シマセキっていう、魔物をこの世から根絶できるかもしれない特殊な石だ」


戦闘で早まった鼓動が落ち着かない。それどころか……。寒気がする。

この嫌にじっとりとした感覚、思い出したくもなかった。


「嫌な予感がする。私、こういう時に限って当たるのよね」


「また舌を噛みそうなのか?」


萎れていた金髪少女の体に、渾身の力がこもる。

「ちっがうわよ!」


クロハが地団駄を踏んでいると、空が陰った。

ぞわり、と背中を冷たい風が走る。振り仰いだ先に、巨大な影が翼を広げていた。


「なら、今にも接敵しそうなドライバーンのことか? もうこんなデカい魔物まで平気で現れるようになったのか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る