JK——太宰治「女生徒」令和リライト

渡貫 可那太

1.朝 → 通学中

 朝、スマホのアラームで目を覚ます。

 目を覚ますときの気持ちは、マジでアタオカ。

 スヌーズボタン押して音止めたら、布団が急に優しすぎて笑った。

 病気の時の看護師さんかよw。

 二度寝の誘惑、えぐい。

 そうして意識はまどろんで、とろける。

 三度目のアラーム音で、しぶしぶ通知チェック。

 0件。

 いや、無いのにホッとするし、胸キュンするの何??

 変な夢の断片が蘇って、ふと笑う。

 で、秒でイラつく。

 思い出せないの、怖すぎワロタ。

 なんか、延々とショート動画をスワイプしていって、最後広告出た時のあの感じに似てる。

 空っぽなのに、時間だけが溶けていった虚無感、マジそれ。

「健康な朝」なんてウソだ。

 また看護師さんが寝かせに来る。

 しつこいっつーのww。

 私はベッドの中で、もう一度スワイプしたくなる。

 ふとんを? スマホを? あたし自身を?

 でも学校行かんと。

 いろいろな感情がごちゃっとして胸パンパン、切な。

 朝ってほんとイジワル。

 ——トイレ行こ。

(しばらくお待ちください)

 軽くベッドを整えて朝食作る。

 作るってほどの物でもないけど、お母さんも夜勤明けで、ご飯あったら喜ぶかなーって。

 ベーコンをカリカリに焼くために湯を張る。

 これ、昨日、ショート動画で流れてきたやつ試すw

 ベーコン茹でてから焼くとカリカリになるらしい。

 お湯ごとベーコン逃げそうで焦る。

 よくわからんから、卵おとして一緒に焼いたw

 キュウリをスライスして添えておく。

 五月のキュウリの香りには、胸がカラッポになるような、

 うずくような、くすぐったいような悲しさ。なんか切ない。

 ——なんだかエモい。

 インスタントのスープとトーストをつける。

 つけるっつーか、こっちがメイン。

 独りで食べてると、無性に旅行にいきたくなる。

 新幹線に乗りたい。

 朝食ビュッフェが食べたい。

 朝食にフルーツとヨーグルト。

 ——なんて贅沢。

 洗い物をしなくていいのがガチ贅沢☆。

 昨日のショート動画保存すればよかったな~。

 ダメもとで開いたら、にゃーちゃん(はぁと)。

 ——時間とけるww。


 洗い物はお母さんに残してあ・げ・る。水にだけつけておく。

 仏壇に手を合わせて鐘を鳴らす。

 火事が怖いから線香はなし。

 ごめんね、お父さん。

「よっ」

 立ち上がるとき、声出て笑う。

 いやババアか、あたしw

 中にバアさんが住んでる説。

 もっと後、子供産んだら出てくると思ってた。

 なんか自信が無くなる。

 歯磨きを済ませて、自信回復を図る。

 今日は可愛く盛れるかな?

「マジ、肌くすんでんな」って思いながら、化粧水をぴちょっ。

 ほんの少しだけ透明感が戻って、「ワンチャンある」って思う自分おる。

 次に化粧下地をさっと広げて、「この肌なら行けるっしょ」ってニヤリ。

 目の下のクマには、コンシーラー、昨日よりマシな私に期待。

 シャドウはベージュで、ラインはちょい。

 ビューラーでまつ毛ちょん、「おはよー」って言える目になった感。

 マスカラ盛りすぎはNG。リア充感は“軽さ”が命。

 チーク桜色ぽん。ここで勝負。

 最後にリップして、鏡のあたしにグッ。

「盛れた」って確信。

 メイクは、ただ飾るんじゃなくて、欠けた自分を補う儀式。

 絆創膏で傷を隠すみたいに。みんなと一緒の生き物になる為の。

 そして、制服に手を伸ばす。

 これで制服も可愛ければ、サイコーなのに。

 そのちょっとした達成感も共に背負って、朝のドアを開ける。

「行ってきます」

 返事がないのも、もう慣れた。

 出がけにアパート前の草むしり。プチ勤労奉仕。

 今日はなんか良いことある予感。

 同じ草でも、むしりたい草と残したい草があるのエモい。

 むしり採りたい草と、そっと残して置きたい草と。

 形はなんにもかわっていないのに。

 いじらしい草とずうずうしい草とに、わかれちゃうのか。

 理屈じゃないんよ、これ。

 人の好き嫌いなんて、ホント適当。

 3分間の勤労奉仕をすませて駅へ向かう。

 駅近く、サラリーマン集団と歩調かぶる。

 スーツなのか、整髪料なのか。ニオイ、マジ無理。

 追い抜きたい。

 でも抜くには、あの人たちの間をスルスル抜けなきゃでしょ?

 無理ゲーw

 かと言って、立ち止まって距離あけるのも、それはそれで勇気いるんよ。

 変に思われるかもしれないから。

 あたしは泣きそうになる。

 泣きそうになる自分が恥ずかしい。

 結局、ゆっくりと、その背中のあとを歩くしかなかった。

 このくやしさ、電車乗っても消えん。

 くだらんことにメンタル持ってかれるの、ダルすぎ。

 こんなんで動じない、強くて清らかな女になりたい。

 てか、鋼メンタルJKになりたいw

 電車で席は、いつも通りに座れん。

 みんな、お疲れ様です。

 実際、あたしもよくやっているなーって思う。

 吊り革にぶらさがって、いつも通り、スマホを取り出す。

 顔認証でロックが解除された瞬間、変なことを思った。

 これ取られたら、あたし終わるんだが?

 それほどスマホ依存。

 アプリを立ち上げては夢中になり、信頼し、同化し、共鳴し、生活まるごと接続。

 不意に怖くなったけど、みんなスマホ見てて安心w

 みんな、ホントにお疲れ様です。

 スマホに戻り、まとめ記事なんかを眺める。

 記事読んで「わかった気」になるのは私の才能(笑)

 でも、読む記事がなくなって、真似するモノがなんもなくなったら?

 その時、あたしどうすれば?

 電車の中で、毎日同じこと考えてるだけじゃ詰み。

 やりきれない。

 なんかせな。

 どうしたら、自分をはっきり掴める?

 自己批判してもなんて、全然意味ない。

 嫌な、弱いところに気づくと、すぐ労わって、甘やかす。

 むしろ何も考えない方が良心的まである。 

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