エピソード7-1 オレはてめぇを親とは認めねぇ(警察官編:大小コンビ)(前編)

「お、本庁・所轄ともに同時とうちゃーく。遅えよ」


「連続で発生していた事件の容疑者を捕まえた連絡が入ったのに現着まで10分以上、か。やる気がねぇのか、嘘の通報だとでも思ったか。いや、やる気あっても動けと言えない上に止められでもしたんだろう、捜一はそういうところだ。昔も今もな」


 児童誘拐事件の犯人を捕え、刑事達の到着を待っていた身長160cmの警察官「香川真人かがわまさひと」と身長195cmの刑事「北道海きたみちかい」は通報から10分後、現場に到着した本庁並びに警察署の一課所属の刑事達に対して、そう言い放った。



 まず、北道海は「刑事」ではある。

 だが、北道が所属しているのは警察署。所謂、所轄の組織犯罪対策課に所属してる刑事だ。捜査一課とは捜査の手法も考え方も、事件に対しての取り組み方さえ違う。


 そして、北道の現在の捜査一課に対しての評価はいくつもの要因(例えばソタイに対して高圧的な人間がいた、とある事件への取り組みがガサツだった、態度がデカい等)が重なり、低い。彼なりにフォローはして発言をしてはいる。が、それでもカバーできないほど、捜査一課に対しての評価・信頼は低い。


 そんな彼の言葉は現場に到着した刑事達の様々な心の傷やプライドを傷付ける。



「おーおー、ソタイは厳しいこった。しっかし、捜一も北道刑事の言う通りの状況だったら桜の代紋を背負う者として、恥じるしかねぇな」


 ちなみに生活安全部所属の香川真人は「警察官」であって「刑事」ではない。

 だが、刑事部に所属している刑事達同様、警察官である。警察官としてのプライド、人としての情はある。


 しかしながら、そんな彼の現在の刑事部に対しての評価はいくつもの要因(例えば生活安全部を馬鹿にされた、とある事件解決後の対応がガサツだった、身長が低いからと見下してくる等)が重なり、あまり高くない。


 そんな彼の言葉は幾分か、マイルドなものになったとしても北道に傷やらプライドを傷付けられた刑事達の傷をさらに深めていく。



「「ま、来ねぇよりはましか」」

 なお、二人がそう発した瞬間、児童誘拐事件最後の被害者になるはずであった少女は北道海の膝の上で目を覚ました。




「・・・・・・おわー、すげぇな。ある意味では爽快だわ」

「生活安全部に所属していれば、見ることはない光景だろうな」


 次々に現場に到着する刑事達。

 最初に現場に到着した一人の警察官は運良く、二人の恐怖の顔面を見るだけで事が済んだ。

 その後に到着した数人は北道と香川に精神をへし折られた。

 さらにその数分後に到着した十数人は現場の状況を理解すると、まず、3、4人が児童誘拐事件の犯人である若いお巡りさんを連行した。

 次の3、4人は周囲の規制を開始した。

 その次の2、3人は北道と香川から事情と状況を聞いた。

 2人は少女への聞き取りを行い始めた。別の2人は応援の要請をした。

 そう、現場にはそれなりの数の刑事達がいた。いや、そこまでいるのかと問いたくなるほどの人数の刑事達がいた。


「そういや、あんたはソタイだったな」

「そうだな」

「だから、その顔面で刑事やれてんのね」

「お前喧嘩売ってんのか? あ?」

「褒め言葉ですって、先輩殿ぉ」

「どこが褒め言葉だどこが」


 刑事達が次から次へと集まってくる現場で北道と香川は事件に何ら関係のない話を繰り広げる。

 ただ、現場を混乱させるためだけに関係のない話をしているわけではない。流石に捜査一課の刑事達への言葉が酷かったと反省して柔らかい雰囲気にしようと考えたうえでの事件に関係ない内容の会話だった。


「ってか、ヤクザのところに押し入ったりすんの見てみてぇ」

「見たけりゃ、自分で見に来い。面倒は見ねぇ」

 そして、北道と香川も分かっていた。話のチョイスを間違ったと。


「お、あれ、嬢ちゃんの親じゃねぇですかい、北道刑事ぃ」

「話を露骨に逸らすな。・・・・・・あいつ、か。確かにそうらしいな」


 明らかに間違った話題だったな、と香川は内心、溜息を付きながら周囲を見渡した。


そこら中に刑事刑事刑事。


 それも、そのほとんどが男。しかし、その視覚の片隅に見知らぬ、刑事というにはあまりにも身なりの整い過ぎている男がいる姿が入った。そして、その男の側には2人が保護した少女の姿があった。


 少女は二人から離れ、優しげな刑事達から聞き取りをされていた。その顔は不安に満ちていて、香川達の方をちょくちょく見ていたが香川達は少女のところに行かなかった。

 少女の目の前で聞き取りすらできない捜査一課の刑事達を罵倒してしまいそうだったからだ。


 だからこそ、少女の側にいた身なりの整いすぎている男に違和感を持った。刑事達と雰囲気が違い過ぎたのだ。


 少女の周囲の刑事達が男に気付いたのか、何やらを男に言っていた。香川はその様子を見て、その人物が刑事でないと察した。そして、その男から不穏な気配を感じ取った。


 だが、男は聞く耳を持っていないのか、少女の姿を見つけると少女の腕を掴む。


「おい、かが」


 香川同じく、少女と男の様子を見ていた北道がその様子に堪らず、香川にも声を掛けようと香川がいたはずの場所に視線を向ける。だが、そこには既に誰の姿もなかった。

「は?」


「いやあ、何してんのあんた。この子あんた親だろ」


 視界の隅、即ち、少女と男のいる方向から聞こえてくる香川の声。


「あ? あなた何ですか。あなたに関係ないでしょう」

「関係あんの。俺ら警察官。この子保護した人間。話聞かなくちゃあかんっての。それに今のあんた、明らかにこの子に怯えられてんだろ」


 北道が視線を男と少女の方へと戻せば、そこには少女の腕を掴む男とその男にガンを付けている香川の姿があった。

 香川は少女の腕を掴む男の手を捻り上げるかのような勢いで振り払い、少女を自分の後ろへ隠した。


「話はもう、他の方が聞いていたでしょう」

「つってもですね、流石に子ども相手に手荒じゃねぇっすかって話ですよ。この子、嫌がってるでしょ」

「は? それ、誰に言ってるか分かってるのですが。私は弁護士ですよ? あなたのことなんて簡単に訴えて、辞めさせられますよ」

「いや、それとこれとは関係ねぇっての。辞めさせてぇならやってみろや。逆にあんたのこと訴えてやる」


 人懐っこい笑みなど、その顔にはなかった。香川の顔は今、真顔よりもタチが悪かった。警察官としては許されないような形相になりかけていた。明らかに不機嫌があからさまになっていた。


 だが、それも当然のこと。男が少女を無理矢理、連れて帰ろうとしていると香川は即座に察したのだから。


「はっ! 国家権力の犬のくせに弁護士の私に喧嘩を売るのか?」

「売るぞ。あんたが俺に喧嘩売りてぇなら買ってやってもいい」

「よく吠える国家の犬ですね、あなたは」

「おーおー、国家の犬で結構。公務員だからな。しっかし、そういうあんたは子どもを支配下にするしか能がねぇ親だろ。親とは思えねぇ親だな」

「黙れっ!! 私はこの子の親だ!! この子には私しかいないんだっ。あなた達が私達の関係に口を挟む余地はない!!」


 そして、その男の言葉はとある身長195cmの刑事の最後の砦でもあった逆鱗に触れた。


「・・・・・・おい」


 その刑事にとって血の繋がりが親と子を証明するものというものではなかった。それを身を以て知っていた。


「あ? あなたも私に口答えを」



「オレはてめぇをこいつの親とは認めねぇ。てめぇはクソ親だ。オレの親よりも、この場にいる誰よりもクソ親だ。こいつをてめぇに任せるくらいならオレが面倒見てやる」


 彼、北道海にとって家族とは少なくとも血が繋がっている必要はなかったのだ。



「は? そんなこと、許されるわけないでしょう。というか、あなたは一体」

「てめぇの目は節穴か?」

「はい?」


 北道をバカにするように笑う男。

 そんな男を余所に北道は男と香川の間に割って入る。香川を、少女を庇うように男の前へと立つ。



 北道海という人物は組織犯罪対策課に配属されて一年も経っていない。だが、異常に腕っ節は良く、武術が得意だ。

 地方組、全国区組なんて仲の良かった者達と纏めて呼ばれて、他の世代の者に語り継がれていくほどには優秀な問題児。

 即現場に投入されてもおかしくない人材。

 ヤクザの数人なんて苦にもならずに薙ぎ払える人材。



「〇〇警察署組織犯罪対策課所属、北道海。通称、北海道。聞き覚えがねぇとは言わせねぇぞ、脱税が趣味のオタル組の弁護士さんよ」


「北海道って、お前もしかして一ヶ月前に組員20人を病院送りにしやがったあのっ!」

「そこに「あの」っていうほどの身に覚えがあるの黒じゃん。ってか、脱税?」

 何も状況を知らない、人が良い警察官、香川はとある言葉を聞き漏らさない。常識人である彼にとって「脱税」なんて言葉は普通、聞かない言葉だ。

 それこそ、捜査二課に所属していなければ、聞くことはない言葉。


「え」

 ニヤリと北道は笑みを浮かべる。

 その顔を見て香川は合点がいった。少女の親である男の存在を北道に言った際、北道からの反応が遅れた理由。彼が何かを言い淀んだ理由。


「丁度、本庁二課がてめぇの脱税容疑を固めるためにオタル組のこと探ってたこっちに協力要請をかけてきやがってな。それを呑んで探りかけて、喧嘩売ってきやがった奴らボコした。そんで一段落ついて街歩いてりゃあ、ガキ見つけて。そのガキの親がてめぇだと。偶然だなぁ」


 少女の親である男は捜査二課が追っていた脱税犯であり、組織犯罪対策課が追っていた暴力団の弁護士だからだ。容易にそのことを口にしていいわけがなかったのだ。

 だからこそ、北道は男を見た瞬間、どう言うべきか言い淀んだのだ。


「んじゃ、遠慮なく、ご同行お願いしてもいいわけだ。ってなわけで、捜査一課の皆様、よろしくお願いしまーす!」

 その場の緊張感に合わないテンションで香川はそう口にした。

 これ以上、北道に喋らせれば、少女にとって悪影響となりそうな暴言が次々とその口から出そうだと察したから、そう言ったというのもあった。が、そう言った方が北道に気圧され、動けなくなっていた刑事達に発破を掛けられるという理由もあって、そう言った。


 刑事達は香川の発言でようやく、男を取り押さえることができたのだった。


「来い、ガキ」

 そういうわけで、北道は男が取り押さえられたことを確認すると、少女に嫌々ながらも手を差し出した。

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