小さな街で ― 収録:「さびしいです」「夢」
まい
1.さびしいです
こうじが道具を片づけながら、ぽつりと告げる。
「……数日、外の仕事に出ます」
かえでは、動きを止めてこうじを見た。
「……え、さびしいです」
「…………!」
こうじは思わず視線をそらす。
こんなに真っ直ぐな言葉は予想してなかった。
「……そうですか?」
「こうじさんが居ないと、さびしいし、心細いので……。だから、早く帰ってきてほしいです」
“かえでが自分の不在をさびしいと感じてる”という事実に、平静を装ったが、心が大きく揺れる。
不意に懐いてるって気配を見せるから、余計に愛おしい。
心の中の波を必死に抑えながら、こうじは短く答えた。
「終わったら、すぐ帰ってきます」
かえでが目を瞬かせ、それからにっこり笑う。
「約束ですよ」
そのやり取りは、まだ言葉にしていないだけで――
まるで恋人同士の会話そのものだった。
◇◇◇
いつも通りの作業。
ひとりでもできる。
今日中には片付くだろう。
一人きりの工房に、一人分の作業音。
やけに大きく響く気がして、少し落ち着かない。
作業が一段落してお茶を飲む。
ふと、こうじさんがいつも座っている椅子を見つめる。
「……ここにこうじさんがいると、なんか違うんだな。」
指先で椅子の背もたれをそっとなぞる。
こうじのことを思い浮かべるだけで、知らず知らずのうちに心がほどけ、触れた感触に肩の力も抜けていく。
そのまま椅子に座って、机にふせて仮眠をとる。
普段は気づかない温もりの記憶だけが残っている。
(こんなに静か。同じ静かでもこうじさんがいるときの空気は、暖かくて落ち着く。)
まどろみながら思う。
(………早く、帰ってきてほしいな…)
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