第10話
優が書いた記事のタイトルはシンプルだった。「『課金沼』は個人の弱さではない──緻密に設計された依存のメカニズム」。Web版が先にリリースされ、紙媒体の双方で公開された。
Web版の公開を待っていたかのように、Webメディア、ネットニュース、そして個人ブログのアフィリエイターたちが群がってくる。
神谷レン、御玄無明の記事によって優の記事は「バズる」ことが予想されていたからだ。
さらに、SNSでシェアされ始めると、その勢いは一気に加速する。
「ソシャゲはギャンブルってことか」
「この記事、怖い」
「自分も、もしかしたら……」
拡散された記事は、多くの読者に衝撃を与えた。
特に、ガチャの確率や、ユーザーを誘導するための心理的仕掛けが具体的に書かれていた点が、共感を呼んだのだ。
優と由佳は、SNSなどに書かれたコメントを随時抽出し、読者たちの生の声を拾う。
「この記事を読んで、ガチャを引く手が止まった」
「『やめ時を消す』っていう言葉に、心臓を掴まれた気がした。まさにそれだった」
その反応は記事が、数多の人々の心に深く刺さったことを示していた。特にソシャゲに課金をしているであろう当事者たちの発言は、単なる批判や非難ではなく、経験から出た言葉だった。
そして、その拡散は現実に火を付けた。オルトメディア社の株価がストップ安手前まで売り込まれたのだ。記事内で社名は一切出してはいない。しかし、いくつか上場しているソシャゲ会社の中で知名度が高く、なおかつ「ソシャゲ一本足打法」だったことが災いした。
投資家たちは、同社の収益構造が、ギャンブル的な要素に大きく依存していると判断し、今後の事業リスクを警戒した。「ビジネスモデル、そのものに対する懸念」を引き起こしたことは、株式市場で大きなマイナスとなる。売りが殺到した。
優は、株価が急降下しているのを見て、胸の奥がゾクッとするのを感じた。「自分の記事が、人を動かし、企業の株価にまで影響を与えた」という現実は、これまでに味わったことのない感覚を優にもたらした。
そんなとき、スマホが鳴った。仕事用で使っているメールへの着信だ。記事の末尾に「取材協力の窓口・問い合わせ」を用意しており、そのフォームから転送されてきたものだ。仕事柄、業務用のSNSのDMは即チェックし、内容によっては即レスするクセがついている。
画面を覗くと、最初に飛び込んできたのは『ありがとうと言わせてください』という件名だった。そのシンプルなタイトルのメールを開くと、びっしりと文字が詰まっていた。
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