円城プロ 躍進

 円城プロの事務所に所属芸人が勢ぞろいしていた。

「いよいよですね」

「ああ。ネタを磨いてここまで来たからな」

 悟が深川ジンに話しかける。

 深川ジンは気合十分の様子だ。

 カニカマ工場とラブソングバラードの二組が賞レースであるNBC(ネクストバッターズサークル)の一次、二次選考会を突破し準決勝へと駒を進めた。

 昨年まで箸にも棒にもかからなかった二組がこうして順当に勝ち上がっているということは、彼らが力をつけたからか、はたまたライブでの露出が功を制したからだろうか。

 いずれにしても、彼らがそれだけのコンビになったことは間違いない。

「こういう大会ってのはいいねえ。見ているおいらも手に汗握っちまう」

「そうですなあ。わてもドキドキですわあ」

 マルコス友蔵が呟いているのを聞いて、ラブソング糸川がぼそっと呟く。

「その割には表情から全く緊張感を感じないんだが……」

「東田はん、ガチで緊張しとったらあかんやろ」

「お前はもうちょい緊張感を持ってくれ!」


 飄々とし過ぎているラブソング糸川を見て、バラード東田が思わずツッコミを入れている。

 それにラブソング糸川から思わぬ正論が返ってきた。

 確かに緊張しすぎてネタを飛ばしたりしては、満足に力を発揮することが出来ないだろう。

「どこが来ようと、俺たちは俺たちのお笑いをするだけだ」

「そうだよな。今になって変えられそうにないし……」

 一方、カニカマ工場の二人は腹をくくっているように見受けられた。

 そんな中、円城社長が姿を現した。

 そしてそのまま、壮行式を始めた。

「本日は皆様お集り頂きありがとうございます。今回のNBCでカニカマ工場のお二人とラブソングバラードのお二人が初の準決勝戦進出を決めました。事務所の皆様が着実に賞レースで成果を出していること、大変誇りに思っている次第です。また、腹筋BREAKERに陰ノ者のお二人がエントリーしています。結果次第では両方の賞レースからファイナリストが選出される可能性も秘めています。皆さま、どうか悔いの無いよう全力を尽くして頂けたら幸いです」

 円城社長の激励の言葉がみんなの心に染み渡る。

 それは、現在賞レース参加予定のないマルコス友蔵、シタミデミタシも同じだった。

 そして、ついにカニカマ工場とラブソングバラードの二組がNBCの会場へと向かったのだった。



 そして、ほぼ時を同じくして陰ノ者の腹筋BREAKER準決勝の壮行式が行われた。

 円城社長と円城プロのメンバーが揃っている。

 そしてそのまま、壮行式が行われた。

「皆様、先日と同じくお集まり頂きありがとうございます。陰ノ者の二人が腹筋BREAKERの準決勝戦に向かいます。前回決勝戦三位と活躍したお二人ですので、要求されているものは多々あるとは思います。しかし、お二人の実力があればそれを跳ね除けることが出来ると思っています。皆様もどうぞお二人に温かい声援をお願い致します」

 円城社長の温かい言葉に、その場にいた全員が包まれた。

 陰ノ者の二人が心なしか落ち着いた表情を見せている。

「ここを突破すれば腹筋BREAKER決勝戦三回連続出場か。こりゃすげえや」

「まだこれからなので、油断しないつもりです」

 三橋ジロウが陰ノ者の二人に声をかける。

 それに対して白井が答えてみせた。

 彼らは決して余裕をかますことはなさそうだ。

「ほんま、わてらも皆さんみたいになりたいわあ」

「やめろって、こんな時に」

「せやけどなあ……」


 ラブソング糸川が少々変な様子を見せているので、バラード東田がなだめた。

「何かあったのか?」

「NBCの準決勝戦でとちってしまってなあ。それを気にしてるんだよ」

 深川ジンが尋ねると、バラード東田が正直に答えた。

 大事な大会でとちってしまうことの後悔は半端なものではない。

「結果発表はまだですし、諦めるのは早いんじゃ」

「く、くがっちはあああああん」

 くがっちの何気ない一言で、ラブソング糸川の感情が決壊したのだろう。

 ラブソング糸川がくがっちに抱きついてしまった。

「やめてくれ、いい年したおっさんが……」

「き、気にしないで下さい」

「糸川さんが落ち着いて下さるなら。なあ、くがっち?」

 バラード東田が申し訳なさそうにシタミデミタシの二人に頭を下げた。

 くがっちも悟も少々気を使っているようだ。

「そういやあ、NBCの結果発表ってそろそろだよな」

「ああ、そろそろだな。おい、いつまでもしょげてる場合じゃねえぞ」

 三橋ジロウが思い出したように呟く。

 そして、深川ジンがラブソング糸川を励ます。

 そして、腹筋BREAKERの決勝進出者もすぐに発表される。

 結果がどうなるか気になるところだ。



 次の週、シタミデミタシの二人が円城プロの事務所に行くと、カニカマ工場、ラブソングバラード、陰ノ者の三組が揃っていた。

 結果がどうなっているのかは、彼らの表情を見れば察しが付くというものだ。

 カニカマ工場がNBC決勝戦進出、陰ノ者が腹筋BREAKERの決勝戦進出を果たした。

 ラブソングバラードは残念ながら決勝戦には行けなかった。

「ああっ、なんちゅうこっちゃ」

「しゃあねえだろ、まだ次があるから。あんまり気にすんなよ」

 落ち込むラブソング糸川をバラード東田が励ます。

 結構な落ち込み具合なので、すぐには立ち直れないかもしれない。

「そうだぞ。ネタ飛ばしたみたいだけど、ちゃんとウケてたんだから」

「決勝行った俺たちが言っても嫌味にしかなんねえか」

 三橋ジロウがラブソング糸川を諭していた。

 その隣で深川ジンがぼそっと呟く。

 確かにこの状況では嫌味にしかならないだろう。


「おめでとうございます」

 ラブソングバラードに近寄り難かったので、悟が陰ノ者の二人に近づき祝福する。

「ありがとう」

「おめでとうございます。流石ですね」

 白井がお礼を言うと、くがっちも悟に便乗して陰ノ者を祝福した。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど……」

「どうしたんですか?」

「ルールで腹筋BREAKERのチャンピオンになったコンビはエントリー出来ないけど、もし連覇を目指せるとしたらどうする?」

「チャレンジしてたと思います」

「君たちなら言ってくれると思ったよ」

 坂巻の質問に悟がよどみなく答えた。

 彼の中でその答えは決まっていたのだろう。

 それを聞いた坂巻が流石だと言わんばかりの表情をしている。

 こうして円城プロは、二つの賞レースにそれぞれ一人ずつファイナリストを輩出することとなった。

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