第109話ローニャの研究と騎士の怪我

『流石ローニャね。凄いとしか言いようがないわ。自慢の妹ね』

『お姉ちゃんに褒めてもらえるのが一番嬉しいっ! でも、お姉ちゃんの協力がなければできなかった指輪なの』

『そうなの?』


『だって、この指輪。よく見て? いつもの金属に加えて魔獣の小さな玉も散らばっているでしょう? 玉や素材が使えると知らなかったら成功しなかったの。

 この極小の玉は王都周辺の小さな魔獣を何十匹も狩って集めて作ったんだよ! これにも時間が掛かったんだよね』

『ローニャが狩ったの?』


『そうだよ! もちろん騎士団に付いていって一緒に狩って玉の有無を調べたりしたよ』

『とても大変だったんじゃない?凄いわ』

『もっと褒めて~! あ、そうだ。この指輪ね、試弾してみたんだけど、空間が無いから効果は分からなかったんだよね。でも爆発したりしないから大丈夫だよ』


『そうよね。分かった。こっちで確認してみるわ』

『あと、ガーナントの街の報告書をマートス長官と読んだよ! 研究員の人たちが俄然張り切っちゃって昼夜問わずに魔法の教科書を作ったり、指輪や指導の仕方を一つずつ本にしたりしているの』


『教科書があれば教えやすいものね。カシュール君たちはどう?』

『カシュール君の封印を来月にも解くって話になってるみたい。お父様とグリークス神官長が話し合ってたわ。


 フェゼットさんは順調に魔法の知識が付いてきた感じなんだ。今は、指輪で少しずつ魔法の練習をしているけれど、ヒエロスを使いこなすには至ってないかな。


 でもファール(手紙)やファッジ(小包)の魔法は少しずつ使えるようになったよ。練習していけば重たい物も送れるようになりそう。フェゼットさんは魔力循環が上手くないから魔法が途切れちゃうんだよね。


 まだ指輪無しでは小さな火や水しか出せないのもそれが関係してそうだってマートス長官は言ってたよ』


『そっか。カシュール君、グリークス神官長の下で頑張ってるんだね』

『うん! そうそう、ガーナントの街の人たちはどういう感じ?』


『それがノーヨゥルの街の人たちは多少使える自覚はあったでしょう? ガーナントの街の人たちは今まで自覚したことは一度もないみたい。


 自分に魔力があると聞いて驚く人ばっかりだったわ。でもね、全然魔法を使っていないのにノーヨゥルの街の人たちより魔力がありそうなんだ。


 ここの街の人たちは保守的だけど、商業地区の人たちは商売上有益な話だし喜んで覚えてくれそうな気がするわ』

『そっか。これからが楽しみだね』

『えぇ、そうね』


 久々にローニャと長く話をしたわ。そこから約一週間は巡視も魔力量の調査も問題なく進めることができたの。


 けれど、恐れていたことが起こった。



「エサイアス様、お帰りなさい。……その傷。すぐに治療しますね」

「あぁ。頼む。他の騎士たちも怪我人が多く出ている。すまないが治療をすぐにして欲しい」


 ここ最近、怪我することが無かったのに。


 嫌な予感がしてバクバクと心臓が鳴っているのが分かる。


 エサイアス様の治療を終えた後、騎士たちを見るとどの人も負傷しているように見える。


「みなさん、すぐに治療しますね」


 私はすぐに範囲魔法のヒエストロを唱えた。重傷者はいないようだが、支えられている人は何人かいた。


 数回掛けてようやく軽傷者はいなくなり、中傷の人は軽傷までになっている。あとはヒエロスで一人ずつ回復させていった。


「ナーニョ様、ありがとうございます。あの場にナーニョ様がいなくて良かった」


 騎士たちは口々にそう言っている。


 私も危険な目に遭っていたかもしれない?

 いや、きっと私がいた方が彼らの助けになったはずだ。


 彼らはそう言っていたけれど、付いて行かなかった私は非常に後悔した。そして言葉に詰まりながら最悪の事を口にする。


「……もし、かして、空間が開いた、のですか?」


 騎士たちの顔色は暗く反応は良くない。やはり異次元の空間が開いたのだろう。


「……あぁ。ナーニョ様のいう通りだと思う。だが、まだ空間の場所は特定できていないんだ」

「……そうなのですね。これからどうするのですか?」

「すぐにオリヒスに連絡を取り、街の人たちの避難を開始する。巡視の騎士団だけでは足りない。ナーニョ様は公爵へ連絡を。あと、王宮にも異次元の空間が開いたと知らせて欲しい」

「分かりました。すぐに知らせます」


 私はエサイアス様の言葉を聞いて怖かった。


 今までとは違う緊張感。


 けれど、今、私ができる事をすぐにしなければならない。緊急の呼び出しに伝言魔法を使い、ローニャに連絡を取る。


『ローニャ!! 至急返事して!! 緊急事態発生』


 するとすぐにローニャから返事が返ってきた。


『お姉ちゃんっ。どうしたの? 緊急事態って?』

『異次元の空間が開いたみたい。まだ場所が特定できていないわ。すぐにお父様に伝えて欲しいの』

『わかった。今すぐお父様たちに知らせるわ!!』


 私は公爵の所へすぐに手紙を書いて王女の印を押した手紙を小包魔法で送った。


 緊急用として王国から数字の書いてある魔法円が各街に配布されたのだ。


 巡視を行っていない地域にどれだけ行き渡っているかはわからないけれど、公爵のいる領地は今まで魔獣に対処できていたのだし、問題なく設置されているはずだ。


 この小包用の魔法円は届くと音がなるようになっている。


 そうして公爵には空間が開いて魔獣が出てきている事を知らせた。向こうから連絡を取る手段がまだないのがもどかしい。


 確か、今日の巡視は南側の街道を外れた場所で行っていたはず。

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