第7話──命懸けの魔法の影
戦火は大地を呑み込み、空を赤黒く焦がしていた。
人々は疲弊し、兵士でさえ剣を握る手を震わせていた。
それでも戦は止まらない。なぜなら、大国の背後には「魔女たち」が囚われていたからだ。
ゼロの氷嵐が軍を凍てつかせ、エレノアの雷が街を焦がした。
アイリスの大地は砲台のように隆起し、フィーナの視界は矢のごとく空を裂いた。
クロエは未来を強制的に吐き出させられ、将軍の命令は勝利へと収束していく。
その地獄の只中で、アリアは傷ついた兵士のそばに膝をついていた。
癒しの旋律を紡ぎ、光を流す。
それは戦場の片隅に、かろうじて人間らしさを取り戻す唯一の音だった。
だが兵士たちが彼女を「聖女様」と呼ぶたび、胸が締め付けられる。
「……違う。私は女神じゃない。私は──魔女よ。」
◇
その夜。
焚き火のそばでひとり瞳を閉じ、アリアは自分の胸に手を当てた。
指先は冷たく震え、胸の奥から重苦しい感覚が広がる。
──命懸けの魔法。
魔女の間で知られていたのは、歌による「心と意思の浄化と洗脳」。
だが、アリアはもう一つの可能性を感じていた。
「……癒し続けたこの声が、もうひとつの奇跡を呼ぶ……。
それが、私に託された本当の最後の魔法。」
その声はかすかに震えていたが、瞳は凛として揺らがなかった。
◇
そこへフレアが現れ、赤髪を揺らして焚き火の光に照らされた。
「……アリア。あんた、命を捨てる気じゃないだろうね。」
アリアは迷わず答えた。
「私は選んだの。
この争いを終わらせるためなら、命だって惜しくない。
バカげている? ええ、そうね。
でも……バカでいい。私は魔女だから。」
フレアは拳を握りしめ、苦笑を浮かべた。
「……ほんと、どうしようもない奴だよ。
でも……そんなあんたを、放ってはおけない。」
◇
その瞬間、風が吹き抜け、どこからともなくパイプオルガンとハープの調べが聞こえた。
それは幻聴だったのかもしれない。
だがアリアには、未来からの呼び声のように聞こえていた。
──歌え。
この世界を癒し、終わらせるために。
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