第7話──命懸けの魔法の影



戦火は大地を呑み込み、空を赤黒く焦がしていた。

人々は疲弊し、兵士でさえ剣を握る手を震わせていた。

それでも戦は止まらない。なぜなら、大国の背後には「魔女たち」が囚われていたからだ。


ゼロの氷嵐が軍を凍てつかせ、エレノアの雷が街を焦がした。

アイリスの大地は砲台のように隆起し、フィーナの視界は矢のごとく空を裂いた。

クロエは未来を強制的に吐き出させられ、将軍の命令は勝利へと収束していく。


その地獄の只中で、アリアは傷ついた兵士のそばに膝をついていた。

癒しの旋律を紡ぎ、光を流す。

それは戦場の片隅に、かろうじて人間らしさを取り戻す唯一の音だった。


だが兵士たちが彼女を「聖女様」と呼ぶたび、胸が締め付けられる。

「……違う。私は女神じゃない。私は──魔女よ。」



その夜。

焚き火のそばでひとり瞳を閉じ、アリアは自分の胸に手を当てた。

指先は冷たく震え、胸の奥から重苦しい感覚が広がる。


──命懸けの魔法。


魔女の間で知られていたのは、歌による「心と意思の浄化と洗脳」。

だが、アリアはもう一つの可能性を感じていた。


「……癒し続けたこの声が、もうひとつの奇跡を呼ぶ……。

 それが、私に託された本当の最後の魔法。」


その声はかすかに震えていたが、瞳は凛として揺らがなかった。



そこへフレアが現れ、赤髪を揺らして焚き火の光に照らされた。

「……アリア。あんた、命を捨てる気じゃないだろうね。」


アリアは迷わず答えた。

「私は選んだの。

 この争いを終わらせるためなら、命だって惜しくない。

 バカげている? ええ、そうね。

 でも……バカでいい。私は魔女だから。」


フレアは拳を握りしめ、苦笑を浮かべた。

「……ほんと、どうしようもない奴だよ。

 でも……そんなあんたを、放ってはおけない。」



その瞬間、風が吹き抜け、どこからともなくパイプオルガンとハープの調べが聞こえた。

それは幻聴だったのかもしれない。

だがアリアには、未来からの呼び声のように聞こえていた。


──歌え。

この世界を癒し、終わらせるために。

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