Carrying a heavy load
平山文人
第1話 プロローグ
わがこころのよくてころさぬにはあらず 歎異抄
プロローグ
早足に階段を駆け上り、2階にある自室に入った三上康太は、満腹になったお腹を押さえつつ勉強机に座り、しかし教科書を開いたりはせず、ノートパソコンを起動し、父親から送られたメールを少しだけ緊張しながら開いた。裁判官である父、慎は高校二年生になった一人息子に、自らが体験した裁判を小説として書いて送ったのだった。
「父さんは若い頃は本気で作家になりたいと思ってたんだよ、村上春樹とか好きだったんだ」
「ふーん、じゃあどうして裁判官になったの」
「文学の新人賞に何度応募してもまるで駄目だったんだよ。あはは。一方、暗記は物凄く得意だったし、父さんなりに正義感もあった。だから司法試験を受けてまず弁護士になってから裁判官になった。……なってみたら、想像とは全く違ったけどね」
居間のソファに二人並んで腰かけてテレビを見ながら慎はあごを撫でた。
「僕はなるのなら弁護士のほうがいいな。人を裁くより、人を守るほうがやりがいがありそう」
「そう思うだろう。でもな、現実には判決を下すのは裁判官なんだ。最終決定を下すもの、というか。父さんはそこにやりがいを見出しているんだ。……少しずつ教えていくよ」
これは康太が中学生になったばかりの会話だった。それ以来、慎は3作ほど自分が体験した裁判を小説として書きあげて読ませてくれた。窃盗をした生活保護のお爺さんの過去には涙したし、泥沼不倫の夫婦の離婚の顛末には呆れさせられたし、痴漢で逮捕された男の自己中極まりない主張には辟易とさせられた。そして、4作目を今から読むわけだ。康太はゆっくりと画面を下にスクロールさせた。
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