貞操逆転世界で女の子を挑発し続けたら取り返しがつかなくなった
矢筒
第1話 プロローグ
この世界では、男は宝だ。
人口の男女比率は三十対一。女が溢れ、男は希少。だからこそ、男は保護され、優遇され、尊重される。
そんな世界で俺、武田浩太は、生まれつきちょっと変わっているらしい。
この世界では、男は神様扱いだ。
数が少ないから仕方ない。どこへ行っても女子に囲まれ、持ち上げられ、褒められる。
同年代の男子は揃いも揃って尊大で、女子に「水持ってこい」「ノート貸せ」「肩揉め」なんて平気で言っている。
女子も女子で「はいっ!」と嬉しそうに従うから、余計に男どもは調子に乗る。
――が、俺は違った。
幼い頃から気づいていた。
俺はどうやら、女子に叱られるのが好きらしい。
女子達に優しくして距離を縮めながらも、宿題をわざと忘れ、姉に「だらしないわね!」と説教される。
服を裏返しに着て、妹に「お兄ちゃん、恥ずかしいよ!」と眉をひそめられる。
無防備な言動を繰り返して母の小言を引き出す。
その一つひとつが、なぜか心地よかった。
世間的には男は王様のように振る舞って当然。
だが俺にとっては、叱られたり、女性の方から引っ張ってくれる方が、よほど楽しかったのだ。
もっとも、ただ受け身でいるだけでは退屈だ。
だから俺は成長するにつれ、自然と「挑発する」癖を身につけた。
中学のとき。
授業中にわざと居眠りし、女子から「しっかりしてよ!」とノートを突きつけられる。
俺は目を細めて笑い、「俺のこと、ずっと見てたの?」と返す。
相手は顔を真っ赤にし、「ち、違うってば!」と声を裏返す。
――その瞬間、俺の勝利だ。
挑発して、相手にムキにさせる。その反応を楽しむ。
ただそれだけなのに、なぜか女子たちは「彼は私を特別扱いしているのかも」と勘違いするらしい。
そして高校一年。
クラスの男女比は三十対一。男子は俺ひとり。
普通なら、俺は誰よりも尊大に振る舞い、女子を従わせる立場だ。
だが俺が選んだのは、やっぱり挑発とからかいのスタイルだった。
「浩太くん、ちゃんと黒板写して!」
「へえ、俺のこと気にしてくれるんだ? 優しいな」
「ち、ちが……っ! そんなんじゃなくて!」
授業のたびにそんなやり取り。
女子たちは「どうしてこの子は普通の男子みたいに偉そうにしないの?」と首を傾げつつも、
俺の挑発に翻弄され、気づけば赤面している。
結果、休み時間にはお弁当を差し出され、下校時には「駅まで一緒に」と腕を掴まれ、
「彼はきっと私を選んでる」と誤解する女子が続出していた。
家でもカオスだ。
母は俺を見るたびに「昔のように今日は一緒に寝ましょ~」と迫り、
姉は「弟の生活は私が管理する」と言って勝手に進路を調べ、
妹は「お兄ちゃんは絶対に変な女に捕まっちゃだめだよ」と隣に張り付いて離れない。
そんな彼女たちに対しても、俺はつい挑発してしまう。
「母さん、僕の服を洗濯してる時だけなんか顔赤くない?」
「なっ……あんたの気のせいに決まっているでしょ!!」
「姉ちゃん、俺が勉強サボっても許してくれる?」
「許すわけないでしょ! 私が監視する! ……でも、ちょっとくらいなら一緒いいわよ…」
「美央、今日の俺の服装ダサい?」
「ださ……っ、いや、その……! お兄ちゃんは何着てもかっこいいけど……でも……!」
怒る、慌てる。
その反応が、俺には最高のご褒美だった。
ただ、ここ最近は雲行きが怪しい。
挑発を繰り返したせいで、家でも学校でも女子たちが本気になりすぎている。
母は俺の弁当箱にGPSを仕込み、姉は「恋愛関係は許さない」と断言。
妹ですら「お兄ちゃんは私が守る」と妙な覚悟を決めている。
学校では、クラスの女子同士が「誰が一番近いか」でバチバチ。
俺にとっては遊びの挑発が、いつの間にか本気の争奪戦に化けてしまっていた。
俺は別に、世界をひっくり返すようなことがしたいわけじゃない。
ただちょっと叱られたくて、ちょっと挑発したかっただけ。
なのに――気づけば俺の学園生活は、母と姉と妹と、クラスメイトの女子たちによる仁義なき戦いの舞台と化しつつある。
……もしかすると、俺の性癖は取り返しのつかない爆弾だったのかもしれない。
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