第31話 再捜査⑤

大きな円卓を囲むように、パンザロールと数名の捜査官たちが立っている。

中央の机上には揺らめく水の玉――ネモリ。

その中には、ぼんやりと、顔に傷のある男の顔が映っている。


パンザロールがのけぞる。

「死体が男だった!?」

ざわめく捜査官たち。

パンザロールがギリーに向き直る。

「ギリー捜査官、ネブリカの声はサダナ子爵を裏切り者と」

ギリーは苦々しい表情を浮かべ、拳を握る。レムが黙ってその横顔を見つめている。

「その声自体は間違っておらん。ただ、ネブリカの声がリシェル夫人のものだと思い込んでしまった……」

室内がざわつく。

捜査官たちの視線が交錯する中、レムが前に出て、頭をかく。

「ま、死体はリシェル夫人の指環をつけていた。今考えるとあれは偽装工作だ。俺たちはまんまと引っかかったわけだ」

ギリーが驚いたようにレムを見上げる。

「確かに……完全にやられた……なんてことだ!」

パンザロールが拳を円卓に打ちつける。

「犯人は誰か。それを突き止めるには、焼死体になった男が誰かをまず調べる必要がある。それが、これだ」

レムがネモリを指す。

パンザロールが身を乗り出す。

「水球……これが焼死体の男の、顔……」

「ギリー捜査官の魔法によるものだ。ネモリという。これから複製をみなに配る。俺たちの調べで北西の工業地域からサダナの屋敷に向かったらしいところまではわかっている」

捜査官たちが一斉に息をのむ。

パンザロールの表情に希望が宿った。

「これはありがたいですね。人に聞いて回るのに、顔がわかるというのは効率が違いますからね。しかしギリー捜査官の魔法にはいつも驚かされますが、こんなものまで用意してくださって助かります」

「だろう!」

満面の笑みで胸を張るギリー。

レムがわざと大きく咳払いする。

ギリーがハッとして姿勢を正す。

「だが、私の魔法をもってしてもそれ以上はわからん。だから、皆の力を借りたい」

「任せてください。このネモリを持って、必要とあらばビルディア全土でも走り回りますよ。さっそく捜査員を手配します」

ギリーの表情が和らぐ。

「よろしく頼むぞ」

パンザロールが背後を振り返り、捜査官たちに声を張る。

「捜査局の本気を見せるときだな!」

捜査官たちが一斉に拳を掲げ、「おおっ!」と声を上げる。

水面の光が揺らぎ、室内が活気に満ちる。


廊下の窓の外に木々が茂っている。

レムの肩に乗ったギリーが揺れながら進む。

遠くで捜査官たちが忙しく走り回る足音が響く。

「――あれでよかったのか」

「なかなか良い上司ぶりでしたよ、ギリー捜査官」

「気持ち悪い敬語を使うな……ニヤニヤ見ておってからに」

「敬意を示したつもりだなな」

レムは笑ったあと、声の調子を落とした。

「捜査官たちはあんたの魔法に感心して、ネブリカでのミスなんて忘れてたろう? しかもいつも偉そうな魔女っ子が頭を下げてきた。連中、目の色を変えてたな」

「なんだその言い方は。やはりお前は敬意が足りんな!」

ギリーが杖でレムの頭をぽこんと叩く。

レムは微動だにせず、淡々と前を向いたまま。

「とにかくあの男についてはパンザロールたちに任せておく。その間に俺たちは別で動く」

「別?」

「サダナをもう一度、取り調べる」

ギリーが目を丸くし、レムを見た。

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