第25話 サイレント



 パヒューン・・・。



 遠くまで響くひとつの銃声。


「なんだっ?」

「どうしたっ?」

「今、銃声がっ・・・」


 アデレートはとまっている馬車へと近づく。

 運転手は無表情。


「すいませんが、この店の店主ですが、どうしてここに停車を?」


 運転手は無言。

 アデレートはすぐに見切りをつけ、入り口が開いていることに気づいた。

 ロイドとリクが先に入る。


「ルーッ」

 店の中。

 アデレートはすぐにルートヴィーズの姿を見つけた。


 * * *


 街は火の海。

 ギャング達の抗争。

 その喧騒が夜明け前に広がってゆく。


 * * *


「・・・どういうことだっ?」

 ロイドが思わず声に出した。

 そこには、最新の銃を持ったルートヴィーズ。

 倒れているのは、《キンコウセン》のナンバー2、マロイ。

 すでに死んでいる。


 ルートヴィーズはロイド達を見つけた。


 階段を降りてくる音。

 その足音。

 アデレートは二階に客が泊まっていることを思い出す。


「危険ですっ。降りてこないでくださいっ」

「あの~・・・なにがあったんですか?騒がしくて眠れやしない」


 階段の途中でマロイを見つけて、立ち止まる客。

 見聞を広めるために旅をしている、とか言っていたダグラスという客だ。

 ミツが反応して起き上がり、鎖が音を立てる。


「部屋にお戻りを」


 アデレートはなるべく冷静を努め、ダグラスに言う。

 ダグラスの表情がだんだんと変わっていく。

 にやりとした笑顔に。


「断る」

「・・・は?」 

「こんな面白そうなとこ、見逃すわけにはいかないでしょ。誰が犯人なのかなぁ?そこの〝無口″さん?」


 ルートヴィーズのあだ名だ。


 彼は口元をあげた。

「特に無口なわけじゃないんだよね」


 その場が凍りついたように、時が止まったかのように沈黙する。

 数秒の間。

 ・・・

「どうかした?」


 アデレートは唖然としている。

「・・・ルー?」

「なに?」

 ルートヴィーズは銃を上着の内側へとしまった。

 アデレートを見て、鼻笑い。


「なに、その格好・・・」

「ルートヴィーズ?」


「なに?」

「ルートヴィーズ?」


「なに、って言ってるんだけど?」

「喋れるのかっ?」


「そう」

「いつからっ?何をされたっ?」


「教えない」


 何かが変だ。

 何かが動き出している。

 なぜルートヴィーズは、毛皮を羽織っている?


「なに、その格好?」

「何をされたっ?」


「教えない、って言ってるでしょ」

 

 ルートヴィーズに近づこうとすると、その側にいたミヅチが腰の剣に手をかけた。

「それ以上、ハイネスに近づくな、下郎⦅げろう⦆」

「・・・ハイネス?」


 今気づいたが、他にも、どこの人種か分からないギャングらしき男達が立っている。

 ミヅチの部下だろうか?

 手を後ろでくんだまま、スーツの男達は無言で立っている。

 ルートヴィーズは店で一番高い酒を開けたようだ。

 ボトルがカウンターに置いてある。

 側に置いてあるグラスを取り、半分にも満たなくなった酒をあおる。


 ちらりとアデレートを見る。


「・・・どう?」


「ルー、どういうことなんだっ?」

「どうって?」


「こいつはマロイだぞっ?」

「そうだよ。《キンコウセン》・・・最近、気に入らないことばっかりするんだよね」

「何を言っている?」


「《キンコウセン》に手を出して、ただで済むと思ってるのか?」

 ロイドが聞く。


「俺に手を出そうとして、ただですむと思ってたんだよ、こいつ」

 ルートヴィーズは視線でマロイを示す。

 マロイの額に、一発だけ弾痕。

 目を開いたままだ。


「お前、誰だよ?」

 再び、ロイドの質問。

「カレオス」

 ルートヴィーズは答える。

「カレオス?」

「そう。カレオス=コクーテ」

「カレオス=コクーテっ?何言ってんだっ?」

「あははっ。びっくりした?」

「嘘なのか?」

「違うよ。本当」


 再びの沈黙。


「・・・どういうことなんだよ?」

「何を指して聞いているの?」

「どういうことなんだっ?」

「マロイが邪魔だった、それだけだよ」

「邪魔?」

「コクーテって・・・」

「そう。そのコクーテ」


「コクーテって、あのコクーテのことっ?」

 リクが声をあげる。


「まぁ、そういうこと」

「いつからっ・・・」

「生まれた時からだよ」

「違うわ。いつから喋れるの、って聞こうとしたのよ」

「ああ・・・それは教えない」

「あなた・・・」

「何?」

「タイリを殺したのも・・・」

「まさか、コクーテを潰すために手を組め、とかいう手紙っ・・・」

「あれは俺じゃない。コクーテが勝手にやった。タイリを殺してもいない」

「じゃあ、あれは・・・」


「わたくしが殺しました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る