第16話 忠誠と忠告
「マスター、寝込みを襲われましたぁっ」
情けない声を上げながらやってくるエスカは俺の元までやってくると弱々しく俺の側に身を寄せてきた。
戦闘中はあれだけたくましいっていうのに、俺の前に来たらこれだ。巨人族特有のプライドはどこに置き忘れてきたのやら。
「黙って俺の後についてこい、こっから出るぞ」
「はいっ、マスター」
さて、あとは問題児のそばかす女だが、この騒ぎの中で部屋から出てくる気配もねぇ・・・・・・まさか、まだ寝てやがるのか?
そう思いながらそばかす女がいるはずの部屋に入ると、ヘッドの上で素っ裸になって寝ているそばかす女の姿が見えた。
奴は、気持ちよさそうに寝息を立てながら大の字に寝転がっていた。この女、とことん規格外で異質な存在だ。
まさかこいつが、あの【オリジン】だなんて事を一体誰が信じるだろうか?
「おい起きろっ!!」
大声で叫ぶと、そばかす女はゆっくりと瞼を開き、寝ぼけ眼を俺に向けてきた。
「おい、いつまで寝てんだ、とっとと服を着ろ」
「・・・・・・あれぇ、どうしてあなたがここにいるんですか?」
「黙って自分の姿を確認しろ」
「え・・・・・・?」
そうして、そばかす女は自らの姿を確認する様子を見せると、ようやくこの状況を理解したのか、ベッドのシーツを手繰り寄せて体を覆った。
「みっ、見ないでくださいっ」
頬を赤らめて恥ずかしがるそばかす女だった
「見ないでくださいじゃねぇんだよそばかす女、とっとと着替えろっつってんだ」「じゃあ、出て行ってくださいよ、恥ずかしいじゃないですか」
「エスカ、こいつの着替えを拾って渡せっ」
「は、はい、今すぐに」
俺はエスカに着替えを任せていると、部屋の中にマスベの部下どもが押し寄せてきやがった。奴らは口々に俺の名前を叫びながら足止めしてきやがった。
こいつらも、ちゃんと俺が生きてるという認識なんじゃねぇか。
なんて事を思っていると、マドスターが部下どもをかき分けて入って来て、満身創痍といった状態で話しかけてきた。
「お、オリジンをどこに連れて行くつもりですかっ」
「どこへも何もこいつは俺の管理下に置く、だからてめぇらは大人しく道を開けろ」
「そういうわけにはいきません、我々はギルドマスターからオリジン確保の命令を受けています、ここで逃すわけにはいきません」
「そうか、マスベから命令されてんのか」
「えぇ、ですが、メフィウスさんがオリジンを置いていってくださるのであれば、これ以上の争いを失くせますが?」
「命乞いか?」
「・・・・・・そうとも言えるかもしれませんね、ですが、あなたにとって決して悪くない提案だと思いますよ」
「なんだと?」
「あなたは、私達の様な魔法使いを相手にしているから強気に出れているだけです」
「・・・・・・ほぉ」
「オリジンを連れて外に出れば、多くのギルドが間違いなくあなたを狙って襲います、そうなればあなたとはいえ、無傷ではいられませんよ」
「よくしゃべる女だ、まさか俺の心配をするとはな」
「はい、だからおとなしく」
「はぁ・・・・・・」
「なっ、何ですかそのため息は?」
ただ、あきれて出たため息にマドスターは妙に怖気づいた。そんな彼女を無視し、俺は背後で着替えの終わったそばかす女の元へと向かい、頭を掴んだ。
「なぁっ、いきなり何をするんですかっ!?」
「寝坊の罪はその身で償いべきだと思わないか?」
「なんですか?私に何をするんですか?」
「MPをよこせ」
「ま、またですかぁっ!?」
俺はそばかす女からMPを吸収し、それらをエスカに打ち込んだ。
「あんっ、マスター今日も朝からそんないきなりぃっ」
「エスカ、ここにいる奴らを始末出来たらお前を俺の側近として優遇してやる。俺の期待に応えて見せろ」
「そ、側室っ!?わかりましたやります、今すぐやって見せますマスター、私にお任せくださいっ」
何やらよからぬ勘違いをしている様子だったが、やる気になったのならそれでいい。少々見慣れた光景にもなるが、今後のためにもこいつの魔法戦士としての能力を更に見極めておきたい。
「エスカいきますっ!!」
エスカは気合十分でマスベの部下に向かっていた。
そのスピード、パワー共に戦士として申し分ないほどの能力であり、あっという間にマスベの部下どもを蹴散らす姿は相変わらず圧巻だったが、徐々にエスカの動きが鈍くなっていく様子が見て取れた。
出だしは良かったが、すぐに動きの切れが鈍くなっている様子と、それに伴って蒸気の量が減っている。
昨日の仮面の男達との戦闘でも燃費が悪いと言っていたが、それは間違いない様子だった。
そして、エスカは鈍くなった動きでいったん身を引いて俺の元へと戻って来た。
「エスカ、燃費が悪いのは相変わらずか?」
「はい、せっかくマスターにMPを打ち込んでいただいたのに」
「安心しろ、弾ならいくらでもある、お前の底力を見せてみろ」
俺は至近距離で三発のMP弾をエスカに打ち込んだ。
すると、今までで一番の叫び声をあげたエスカは、これまでよりもはるかに強い熱気を放ち始めた。
心なしか、エスカの角と牙が長くなっているような錯覚を覚えていると、エスカは再び戦場へと戻り、圧倒的な支配力を見せつけながらその場を制圧した。
その様子に俺はたまらず拍手をすると、エスカが嬉しそうにこっちを向いた。
それはまるでペットの犬のような姿であり、嬉しそうに俺の元へとやってくるエスカは暑苦しかったが、そんなことが気にならないほどの成果に賞賛の言葉が自然と出てきた。
「よくやった、想像以上だぞエスカ」
「もったいないお言葉です」
部屋には呆然とした様子のマドスターが残っており、彼女を横目に部屋を出て言おうとしていると、呼び止めてきた。
「メフィウスさん」
「おいおい、まだ何かあんのか?」
「いえ、度重なる無礼をお詫びしたいと思いまして、誠に申し訳ございませんでした」
そう言うと、マドスターは深々と頭を下げてきた。
「あぁそうか、そりゃあ最後に賢い選択をしたなマドスター、全て許してやる」
「寛大な処置をありがとうございます。では、外でマスベ様がお待ちです」
・・・・・・マスベがお待ち?
なんの事かと思いながら部屋を出ると、そこには確かにマスベの姿があった。奴は幹部連中と思われる奴らを連れながら笑顔で出迎えてきた。
「あら、おはようメフィウス、昨日はよく眠れた?」
マスベはニコニコと笑顔を見せながらのんきにそんな事を言っていたが、脇に備える幹部連中はすさまじい殺気を放っていた。
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