第5話:Lady in Red ─ 白いワンピースの君へ

あの夜、彼女は白いワンピースを着ていた。


けれど、僕の目には、Chris de Burghの《Lady in Red》そのままに映っていた。


“I’ve never seen you looking so lovely as you did tonight...”


彼女は高校の同級生だった。


華やかな存在で、笑顔が魅力的で、地元でも有名な家の娘だった。


けれど、それ以上に、人としての美しさを感じさせる女性だった。


クラスも違い、話す機会はほとんどなかった。


けれど、彼女の声や笑い方が、なぜか記憶に残っていた。


—————


数年後、同窓会で再会した。


かつての憧れは、やがて友になり。


そしてある夜、劇団四季の《アイーダ》のミュージカルを観た帰りに。


僕は小さな向日葵の花束を手に、彼女に想いを告げた。


アイーダとラダメス──立場の違いを越えて、死を選んでまでも共に在ろうとした二人の姿に、僕たちは何を重ねていたのだろう。


あの時、彼女は笑って頷いた。


白いワンピース姿のその人。


まぎれもなく、僕にとっての Lady in Red だった。


—————


その後、彼女は妻となり、家族ができた。


事業を立ち上げ、走り続けた20代と30代。


時には余裕を失い、心に擦れ違いも生んだ。


でも、忘れられない瞬間がある。


結婚式で流したのは、Commodores の《Three Times a Lady》。


──“You're once, twice, three times a lady… and I love you.”


誓ったのは、あの時の僕のすべてだった。


Once … 少女として

Twice … 恋人として

Three times … 妻・母・人生の伴侶として


それでも、人生はまっすぐには進まなかった。


歩幅のズレは、次第に埋められない溝になり、僕たちは互いの幸せを願って、別々の道を選んだ。


けれど、今も《Lady in Red》が流れると、あの夜を思い出す。


白いドレスのまま、僕の心の中で踊り続けている彼女。


たとえ記憶の中だけでも、あの瞬間は永遠であってほしい。


もう隣にはいないけれど、心から願っている。


彼女が、今も、あの笑顔のままで。


どうか幸せでありますように。

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