『月影の残響』〜2人の探偵〜

@yuki232211

プロローグ

放課後の夕暮れ。校舎の窓から差し込む斜陽が、教室の机を橙に染めていた。

 黒板の前で参考書を閉じたのは、風見宇宙だった。端整な顔立ちに、どこか無造作な髪型。クラスメイトからは「勉強も運動も万能」と噂されるが、本人にその気負いはない。


「宇宙、また数学満点?」

 からかうように声をかけてきたのは小嶋瑠璃だ。すらりとした立ち姿、どんな競技でも絵になる運動神経、そして学校一と囁かれる美貌。彼女は教室の空気を自然に引き寄せる。


「たまたまだよ。……でも、瑠璃だって英語で全国模試一桁だったんだろ?」

「それは秘密にしてって言ったでしょ」

 瑠璃は笑みを浮かべ、カバンを肩に掛ける。その笑顔は明るいが、どこか翳りを含んでいた。


 校門を出る二人の足取りは軽い。けれど街の空気は、少しざわついていた。


「最近さ、変なニュースばっかりだよな」

 宇宙が何気なく口にした。

「夜の東京で、何人も斬りつけられたってやつ?」

「うん。犯人の姿を誰も見てないって……。まるで昔話の鎌鼬みたいだ」

 宇宙の言葉に、瑠璃は短く息をのんだ。


「……本当に、人間の仕業なのかな」

「どういう意味?」

「直感よ。何か、説明できない“違和感”を感じるの」


 瑠璃の瞳は街灯に照らされ、不思議な光を宿していた。

 その頃、遠く離れた警視庁捜査一課では──。


「またか……」

 デスクに積み上がった資料を睨みつける麻美一樹係長。厳しい眼差しの奥に、焦燥が滲んでいた。

「23区で三件目。被害者に接点はなく、手口も同じ。だが犯人の姿を見た者は皆無だ」

 刑事の浜辺波が口を開く。「本当に人間の犯行なんですかね?」

「迷信や妖怪を持ち出すつもりはないが……。まるで、見えざる刃に切り裂かれたようだ」


 街は確実に、不穏な気配に包まれつつあった。

 そして宇宙と瑠璃は、まだ知らない。

 この不可解な“鎌鼬事件”の渦中に、自分たちが巻き込まれていくことを──。

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