第5話 探索者の説明
翌日、藤堂遼は大学の裏庭に来ていた。
普段は誰も寄りつかない芝生の広場。ベンチに座って待っていると、スマホに貼りつけたニュースアプリがひっきりなしに通知を送ってくる。
「“新宿ダンジョン”とかいう呼び名ついてし
……俺、昨日の雑魚男でスレ立ってるし……」
頭を抱える。
“雑魚男”“奇跡の一発”“運ゲー探索者”。掲示板では完全にネタキャラ扱いだ。
そんな惨状にめげていると、背後から声がした。
「……来たわね」
振り返れば、香坂真琴。
黒髪を後ろでまとめ、今日は大学のブレザー姿だ。昨日の戦闘が嘘のように涼しい顔をしている。
「お、おはよう……いや、昨日ぶり?」
「挨拶より大事な話があるわ」
真琴はスマホを取り出し、遼に見せた。
【探索者管理システム】
公式認可アプリ:削除不可
「これ……やっぱりアンタのにも入ってるわね?」
「入ってるどころか、俺の人生乗っ取ってるわ」
遼は自分のスマホを掲げる。
すると同時に、画面が勝手に切り替わった。
> 【探索者:藤堂遼(Lv2)】
所属:未登録
階級:Fランク探索者
次回更新まで:7日
「うわっ、勝手に出てきた!」
「昨日の戦闘で探索者として正式に認定されたのよ」
「いやいや勝手に就職させんな! 俺バイトの面接すら落ちてんのに!」
遼が必死に抗議しても、真琴は冷静だった。
「探索者は、あの“穴”……ダンジョンを攻略する存在。放っておけば、怪物はどんどん外に出てくる。昨日のも、その第一波にすぎない」
「……マジか」
遼は背筋が冷えるのを感じた。
新宿駅の惨状。血の気の引いた群衆の顔。
あれが“始まり”に過ぎないとしたら――。
「政府もいずれ公式発表をするでしょうね。だけど、それまでに混乱は広がる。だから探索者の存在は不可欠なの」
「でもさ、俺なんて……ステータス雑魚だぞ? “力5”だぞ? 家の犬より弱いんじゃね?」
「スキルがあるじゃない。あの《アビリティジャック》。危なっかしいけど、潜在的には強力よ」
「……コピー能力、か」
遼は思い出す。昨日、真琴の氷槍を“借りて”怪物を仕留めた瞬間を。
確かに、あれがなければ今ここにいなかった。
「でも、使用条件が“瀕死”って時点で、もうギャグ枠じゃん」
「そこは……慣れでどうにかするしかないわね」
「いやいやいや! 死ぬ練習とかどうやんの!?」
遼の必死のツッコミに、真琴はわずかに口元を緩めた。
「……でも、昨日のアンタ、ちょっとはカッコよかったわよ」
「へっ?」
思わず聞き返したが、真琴はすぐに視線を逸らす。
「勘違いしないで。背中を預けるなら、せめて逃げない奴であってほしいだけ」
そのとき――スマホが再び震えた。
> 【新規探索依頼:新宿西口・第一階層】
期限:24時間以内
成功報酬:探索ポイント+100
「……探索依頼?」
「やっぱり来たわね。穴の中に入れってことよ」
「マジかよ……俺、昨日やっと生還したんだぞ!? もう一回とか鬼畜ゲーだろ!」
遼が悲鳴を上げる横で、真琴は淡々とウィンドウを操作する。
「行くしかないわ。もし放置したら、怪物が外に溢れる」
「……はぁぁぁ……俺の大学生活、終わったな」
遼は頭を抱えながらも、心のどこかで覚悟を固め始めていた。
もう引き返せない。
この世界は――変わってしまったのだから。
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