元魔王現旅人ののんびり紀行
葎璃蓮
第1話✤ボクがココにいる理由
「私は神龍様の使いである女神アレーティア様の願いでここにきました」
「……」
目の前の、もう命の灯が消えかけてきた女はそう言った。
「私は貴方の隙をついて、私という一パーツを貴方に組み込む為だけの存在」
「……」
どくり、どくり脈打つ鼓動は徐々に弱く、弱く……。
「さぁ、私の全てを受け取りなさい、魔王ヴィルベルヴィント。大丈夫、私は既に対価を得てます……」
「……」
それではさようなら。
あなたのこれからの生が善き旅路でありますように。
目の前の女……、アリステットはこの世界でいう『民間勇者』だという。
アリステットはそう言うと、安心して眠るように息を引き取り、光の粒となって消え去った。
その光の粒ですら、アリステットなのだろう。
それらはボクの体に一粒残らず入り込むと、目の前には何もなくなった。
アリステットが言うには、ボクはこの世界に『民間勇者』として転生する予定だったらしい。
しかし魂の転送時に時空嵐にあい魂が磁気コーティングされ、この世界の一般の素体への定着が不可能に。
苦肉の策として、魔導人形のノウハウを生かした特殊素体を作り、コーティングされた分を消費させるために時期外れの魔王を仕立て上げ、その能力で異界の城を築きそこに一時退避させた。
それがボク、【魔王ヴィルベルヴィント】という個体。
ボクを解放する手段を神託で知った聖女ハミセットは自らを民間勇者アリステットとし、ボクを探して世界中を駆け巡った。
女神アレーティアから受け取った、ボクを包む特殊な『場』を中和する『システム』の一パーツとして……。
ボクの意識はそこで途切れた……。
◆◇◆◇◆
「全てを受け取りなさいって言ってたけれどさ……」
ボクは今まで数倍の重力の渦の中で住んでいたような感覚だったのだけれど、それが嘘のようになくなり、体は羽のように軽い……。
それだけで世界が輝いて見えるようになったのだけれど、文字通り、体が軽いのだ。
「なんでボク、アリステットのちっちゃい版みたいになってるの……?」
そう、ボクの体はアリステットを受け入れ……いや、インストールされた後再構築され、見た目が15歳位の少女になっていた……。
あの人……どう見ても30代後半……だったよね……?
恐る恐るステータスを見てみる……。
すると懸念していた通りの結果が……。
「やっぱり……。ボク、女の子になってる……」
ああああああ。
生れ出たときから自分は魔王として存在しているんだなって理解して、それからひっそり魔王として、どうとでもなれって思いながら300年ほど生きてきたけれどさ……。
女の子になるとか聞いてないんだけれど……。
全てを受け取りなさい、ってそういう……コト?
『おはようございます、我が主』
「え!?」
うんうん唸っていたら突然脳内から声が!!??
「え? だれ? え??」
慌てて周囲を警戒するも、能ないから聞こえてくるのは理解しているので無意味だとは思っている。
でも、ぼっちが突然声を掛けられるという恐怖は筆舌しがたい。
『申し訳ありません、我が主。私は民間勇者アリステット……いえ、聖女ハミセットの魂を元に再構築されたサーヴァントシステムです』
「しすてむ……」
『会話もできるヘルプ機能、とでも思ってください』
「あ、はい……」
ヘルプ機能、であれば有難い……。
ボクは今の状況を軽く聞くことにした。
「ボクがこうなったのって?」
『文字通り、聖女ハミセットの全てを受け取ったためです。しかし、そのままのお姿では民間勇者アリステットはあまりにも有名な人物の為、少々若い素体をご用意させていただきました』
「だからって女の子の姿って……」
『いいえ、我が主が転生予定だった個体も女性でしたので……。その……前世が男性だったからといって転生後も同性であるとは限らず、その辺はランダムです』
「はぁ!!!???」
ボクは今までで一番、大きな声をだしたのだった……。
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