第26話 楽しみがなくなる
【1】夢と現実の狭間で
村上翔太(32歳)はスキーが何よりの楽しみだった。
週末になると山へ出かけ、冷たい風を切りながらゲレンデを滑る瞬間だけは、仕事のストレスも忘れられた。
しかし、現実は厳しかった。
彼は派遣社員として、劣悪な環境の食品工場で働いていた。
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【2】工場の過酷な日々
工場は衛生管理はいい加減で、重い荷物を無理な姿勢で持ち上げる作業が多かった。
安全対策は後回し。作業員はみな疲弊し、腰痛を訴えても「気のせい」と片付けられた。
翔太も次第に腰に違和感を感じ始めたが、休むことは許されなかった。
「派遣だから」と無理を重ねた。
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【3】ある日の転機
ある朝、荷物を持ち上げた瞬間、激しい痛みが腰を襲った。
冷や汗が背中を伝い、その場に崩れ落ちた。
病院で診断されたのは、椎間板ヘルニアだった。
医師はこう告げた。
「無理を続ければ、歩けなくなるかもしれません。スキーは控えたほうがいいでしょう」
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【4】失ったもの
その言葉が、翔太の心を深く刺した。
スキーはただの趣味じゃなかった。自分を保つための唯一の拠り所だった。
工場の悪環境、派遣という立場の弱さ。
彼の未来は暗く、滑走路が霧に覆われたかのように見えた。
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【5】小さな光
療養しながらも、翔太はあきらめなかった。
リハビリに励み、少しずつ体を戻そうと決めた。
同じ工場で働く仲間の中には、同じように腰を痛めて辞めていく者もいた。
翔太は「自分だけは違う」と心に誓った。
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【6】新しい挑戦
スキーはもうすぐ無理かもしれない。
でも、彼は別の方法で「滑る喜び」を見つけることにした。
YouTubeでリハビリ動画を撮り始めたのだ。
派遣社員の現実、過酷な労働環境、そして夢を失わない姿を発信することで、彼は少しずつ支えを得ていく。
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エピローグ
腰を悪くしても、翔太の心は折れなかった。
彼はスキーで滑ることはできなくなったかもしれないが、別の滑走路を見つけたのだ。
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