第4回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト お家でつくるチャーハンは焼き飯だ ミルクティーを許せない 個包装をめぐるアレコレ ほか番外編

キシケイト

第一話 お家でつくるチャーハンは焼き飯だ(2025/09/18更新)第4回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト

 はじめに

 この作品は『第4回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト』提出用のシナリオ形式の作品です。

 小説とは少し違うのでご留意ください。


 ◇

 ユリカ(ナレーション)「ガチャリ、とリビングの扉が開く。あたしこと、大沢おおさわユリカは学校が終わり、昼下がりに帰宅をした」


 ユリカ「ただいまー。お母さーんいるー?」


 杉浦「おじゃましまーす」


 ユリカ「あれ? お母さんいないや」


 杉浦「ほんとだ。誰もいないね」


 ユリカ(ナレーション)「横にいるのはけーくんこと、杉浦すぎうら月下げっか。幼稚園からの幼なじみ。背が高く、綺麗な顔立ちは遠くからでもよく目立つ、同い年の男の子。あたしとは恋人同士だ」


 杉浦「ユリカちゃん、ダイニングにメモがあるよ」


 ユリカ「え? 本当だ。えーと、なになに。『休日出勤になったのでお仕事行ってきます。お昼ご飯代を置いておくので買って食べて下さい。母』だって」


 杉浦「予算は千円。どーするの?」


 ユリカ「このお金で……ふたりでカラオケ行く?」


 杉浦「えー。このお金はご飯代でしょ? お昼、何食べるの?」


 ユリカ「冷蔵庫にある物でテキトーに済ませようよ。あたし何か作るから。材料あるかなー?」


 ユリカ(ナレーション)「あたしはパカっと冷蔵庫を開いた。中身はそれなりに充実しており、慣れた手つきでいくつか食材を取り出す。台所の作業場には卵、ご飯、ハム、長ネギが並んだ」


 杉浦「冷蔵庫の食材、勝手に使って怒られない?」


 ユリカ「へーきへーき。家は後で報告すれば大丈夫なの」


 杉浦「そうなんだ。僕の家は、使った分だけ買い足さないと怒られるや」


 ユリカ「へー。大変だね。材料は卵、ご飯、ハム、長ネギ。これならチャーハンが作れるよ」


 杉浦「キムチ無いの? 僕、キムチチャーハン食べたい」


 ユリカ「無いよ」


 杉浦「そっかー。残念」


 ユリカ「納豆はあるよ」


 杉浦「僕、納豆にがて」


 ユリカ「そういえば、そうだったね。じゃあ、ハムを沢山入れようか」


 杉浦「わーい! ハムハムー! ……ってこのハム! 御歳暮とかお中元でもらう良いやつじゃん!」


 ユリカ「うん。お母さんが大事にし過ぎて、賞味期限が切れちゃいそうだから使う」


 杉浦「……そうなの? 色々と大丈夫?」


 ユリカ「半分はチャーハンで使うよ。もう半分はハムステーキにする。夕ご飯のおかずにすれば、皆んなハッピーだから大丈夫!」


 杉浦「そっか。僕はこの立派なハム食べられればいーや」


 ユリカ(ナレーション)「そう言って、彼はハムを愛おしそうに撫でた。あのね。けーくん、それハムスターじゃないんだよ。これから食べるハムだから」


 ユリカ「じゃあ、作ろうか。手伝ってくれる?」


 杉浦「オッケー。何すればいい?」


 ユリカ「材料刻んでくれる? 皆んな同じ大きさのみじん切りで。これ、エプロンどうぞ。使って」


 杉浦「りょ」


 ユリカ「よろしく。手をしっかり洗ってね」


 杉浦「はいハーイ」


 ユリカ「あたしはご飯を電子レンジで温めるよ」


 ユリカ(ナレーション)「彼がエプロンを着けるのを横目に通り過ぎる。あたしは電子レンジに、冷たいご飯を入れて温めて始めた」


 杉浦「ユリカちゃーん。見てみてー」


 ユリカ「ん? ハンドソープのモコモコ泡で作った犬? 可愛いね」


 杉浦「そう。可愛いでしょ」


 ユリカ「うん。可愛い。写真撮って良い?」


 杉浦「どーぞ」


 ユリカ(ナレーション)「あたしはショルダーストラップで肩から下げていた、スマートフォンで写真を撮った。泡の間から見え隠れする、けーくんの指先の爪は、天の川みたいな色のネイルが輝いて綺麗だった」


 ユリカ「ありがとう。お腹空いたから早めに支度してね」


 杉浦「あっ! そうだね。ごめん、ごめん」


 ユリカ「レンジ終わった。ご飯温まったかな——。うん、良い感じ」


 ◇

 杉浦「フンフンフーン♪」


 ユリカ「鼻歌うたうの好きだよね。でもその歌の通りに作ったら、チャーハンじゃなくてコロッケが出来上がりそう」


 杉浦「そうかも。まあ、みじん切りするリズム取りだから、歌詞は関係ないよ」


 ユリカ「そうなんだ。じゃあこっちで卵を炒めようっと」


 ユリカ(ナレーション)「そう言ってあたしはコンロの上にフライパンを置いて、油を敷く。ガスの火を点けて、フライパンを温めた。しばらくしたら、卵を入れて軽く炒める」


 杉浦「わー。卵とごま油の良いにおいがするー」


 ユリカ「ねー。ジュワッと焼ける音もそそるー。でもつまみ食いは我慢。次はハムステーキを焼くよ。これはつまみ食い分があるから」


 杉浦「やったー」


 ユリカ(ナレーション)「彼は無邪気に笑う。その表情と話しかたのせいか、実際の年齢と比べると、少し幼い印象がする。——こう言うのは失礼かもしれないけれど。普段がアホ丸出しなので、彼の顔立ちがエグい程に整っているのを、周囲は案外知らなかったりする」


 ◇

 ユリカ「ハム焼けているの、良い匂いだなー。そう言えば。知ってた?」


 ユリカ(ナレーション)「ハムが焼けて脂がぱちぱち跳ねる。その音をBGMに会話が弾む」


 杉浦「何を?」


 ユリカ「市販のハムってね。そのまま食べられるんだって」


 杉浦「そうなの⁈」


 ユリカ「うん。ほら、パッケージに書いてある」


 杉浦「マジだ。そのままでも召し上がれます、って書いてある! へー」


 ユリカ「お、焼けたかも。お皿とってくれる?」


 杉浦「はい、お皿。ハム、こんがり焼けてて美味しそー」


 ユリカ「ありがとう。上手く焼けたよね」


 杉浦「ハムとかベーコン、そのままで食べられるなら……。一度で良いからお中元とか御歳暮のやつ……丸かじりしてみたいな」


 ユリカ「それなら、親に頼んでみれば?」


 杉浦「うーん。どうしよっかな。僕さ、昔似たような事してて、失敗してるんだよね」


 ユリカ「一体何をした」


 杉浦「クリスマスの鶏の丸焼き」


 ユリカ「……それは」


 杉浦「丸かじりは無理だったよね。おとうさんにめちゃ怒られたからさ」


 ユリカ(ナレーション)「……鶏一匹丸ごとは無理でしょう。喉まで出かかった言葉を飲み込む。彼もそれを分かっていたのか、黙って材料を刻む作業に戻った」


 ◇

 杉浦「長ネギ目に染みる、痛い」


 ユリカ「長ネギも目に染みるんだ。初めて知った」


 杉浦「あっ。痛っ!」


 ユリカ「どうしたの?」


 杉浦「指切った。うわ、血ぃ出てきた」


 ユリカ「どれ、見せて。あらら、結構出てる。ちょっと失礼」


 杉浦「え?」


 ユリカ「んっ……ちゅっ」


 杉浦「ちょ、離して! 僕の指、口から出して!」


 ユリカ「ぷはっ!」


 杉浦「何したの? 今、僕の血吸っていたよね⁉︎」


 ユリカ「——何でもないよ。ご馳走様。ふふっ」


 杉浦「大丈夫? 目つきが……ちょっと妖しいよ」


 ユリカ「大丈夫。大丈夫。それより、血は止まった?」


 杉浦「え? ああ、止まってる。じゃあ僕、手洗って絆創膏貼ってくるね。材料はもう、切り終わっているから」


 ユリカ「うん。後はあたしがやるよ。手当が終わったら、ダイニングで待っていて」


 杉浦「……うん」


 ユリカ(ナレーション)「この時、明らかにあたしの様子はおかしかった。でも、その事に気がついたのは、もうしばらく後の話——」


 ◇

 ユリカ「材料に火が通ったよ。味付けどうしようか?」


 杉浦「味? 普通でいいんじゃない?」


 ユリカ「普通? それならお醤油かな」


 杉浦「醤油? 中華だしと仕上げにソースじゃないの?」


 ユリカ「ソース?」


 杉浦「うん。ウスターソースをジャバって入れるの。家のおとうさんが作るのはいつもそう」


 ユリカ「へー、ソース。焼きそばみたい。美味しそうだね」


 ユリカ「あなたはどっちを食べたい?」


 杉浦「そうだな、僕は……」


 ◇

 ユリカ「はい。お待たせしました。どうぞ」


 杉浦「ありがとう。ユリカちゃんも座って。早く食べようよ」


 ユリカ「うん。冷めないうちに食べちゃおう」


 ふたり「いただきまーす」


 杉浦「ん? 醤油チャーハン、こんがりして、美味しい」


 ユリカ「仕上げにね、醤油を鍋肌に沿わせて入れるの」


 杉浦「へー。達人の技みたい、熱くて美味い」


 ユリカ「こっちは、スパイシーでいい香り。ソースいいかも」


 杉浦「ハム、いっぱい入れて良かったね。口の中が幸せだー」


 杉浦「両方作って良かったね。食べ比べ、楽しいや。ふふっ」


 ユリカ「いや、本当。こういう時間っていいよね」


 ◇

 ユリカ「痛て。スマホ落とした」


 杉浦「ユリカちゃん、半分寝てたよ」


 ユリカ「ふぁーあ。眠いかも」


 ユリカ(ナレーション)「食事が終わり、あたし達は、リビングのソファで微睡んでいた。窓から降り注ぐお日様の光が、ポカポカとしていて、なんとも心地が良かった」


 杉浦「眠いね……」


 ユリカ「ね。お腹いっぱいになったら眠くなってきた」


 杉浦「カラオケ……」


 ユリカ「今日は行かなくて良いかな……」


 杉浦「そっか、僕もうダメだ。おやすみ……なさい」


 ユリカ「んー、おやすみ……」


 ユリカ(ナレーション)「彼は目を閉じると、ほぼ同時に寝息を立てて夢の世界へ旅立った。あたしはそれを見送ると、彼の胸に身を預けて目を閉じる。そうして、彼の心臓の音を子守歌に眠りについた」


 ◇

 詩音(しおん・ユリカ母)「ただいまー。ユリカちゃん、ごめんね。急に仕事が入っちゃって……あら」


 詩音「けーくんいらっしゃい。ふたりとも、よく寝ているわね。自然に起きるまで待つか」


 詩音「さて、わたしは台所でお茶でも淹れて、優雅にティータイムでも洒落込みますか。よいしょ、と」


 詩音「……ちょ」


 詩音「うわ、何これ! 台所ぐちゃぐちゃじゃない!」


 ユリカ「……う……ん?」


 ユリカ(げげっ! お母さん帰ってきた! まだ片付けしていないのに……!)


 杉浦「…………(寝息)」


 ユリカ(とりあえず、寝たフリしよ。——千円札は、ポケットに入れてあるし!)


 詩音「ユリカちゃん、起きなさい! ちょっとコレ、どうしたの!」


 詩音「ユリカー!」



 第4回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト 第一話お家でつくるチャーハンは焼き飯だ・おしまい

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