🌾第1首 秋の田の🌾

 秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ

 わが衣手は 露にぬれつつ (天智天皇)


 夜の田に、月が溶けていた。

 稲穂は白く光り、風に揺れては波のように寄せて返す。

 その真ん中に、小さな庵がひっそりと浮かんでいる。


 苫の隙間から落ちる雫は、まるで星屑が零れ落ちてきたかのようだった。

 袖を濡らす冷たさに、時間の流れが止まる。

 忙しさも、不安も、今はすべて遠くに霞んでいく。


 ただ静かに、夜の匂いと風に包まれながら、心は透き通っていった。

 ほんの一瞬だけれど、この世界に自分ひとりだけ取り残されたような、奇跡の静けさだった。


 粗末な庵に落ちる雫。

 けれどそこには、都会では得られない静けさがある。

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