文芸部のコヨミちゃんの絶対ハピエン作戦~熱烈文学少女に改変される、僕の物語のバッドエンドについて~

いち亀

序:バッドエンドのモノローグ

「その物語にバッドエンドがふさわしいのは、なぜか。

 受け手を悲しませる選択をあえて貫く以上、作者は確固たる答えを持たねばならない」


 僕の尊敬する小説家はそう述べていた。仲間を守り世界を救うために戦い続けた主人公が、平和な未来を目前に倒れる、痛ましくも胸焦がす最終巻のあとがきで。


 その小説をはじめ、名作と呼ばれる多くの物語には、その理由が確かに宿っていると僕は思う。


 例えば、虚構の悲しみで現実の悲しみを癒やすために。

 例えば、暴力の理不尽や災害の恐怖を、真摯に伝えるために。

 例えば、守る者と守られる者の責任を、克明に描き出すために。

 例えば、永訣を越えて受け継がれるものを、証明するために。


 それらを受け取った僕は、彼らの選択を支持している。尊重している。

 だから、物語にハッピーエンドしか認めないという意見には、頑なに異を唱えたい。


 翻って、僕はどうだろうか。

 僕は、僕の生み出した彼に、ふさわしい理由を手向けられるだろうか。

 僕の分身として、大切な人たちのために戦い続けた君に。自己犠牲の末に世を去るという結末は、本当に必要だっただろうか。


 もっともらしい理由をいくつ並べても、結局は本音に行き当たる。自分のことだからよく分かる。

 つまるところ、当てつけだ。八つ当たりだ。

 好きな人に裏切られたなんてありふれた挫折に対する、幼稚な憤りの代償に。

 僕は、大切なキャラクターを犠牲にした。


 間違いだったとは言わない、僕にとって必要な一歩だったことは間違いがない。

 けど。物語が望む正しい結末だったと、胸を張ることもできない。



 だから、救われたのだ。

「お前の選んだ結末が気に食わない」と叩きつける、創作者への禁忌を。読者の分際で、素人の身で、侵した彼女に。

 

 さて、じめっとした前置きが長くて失礼。


 謹んで本題に入ろう。


 これは痛々しい青春のバッドエンドを、覆そうと戦うヒロインの話だ。

 とびきり可愛くてだいぶ強情でものすごく頑張り屋、そんな女の子の話だ。


 愛しいキャラクターに、大好きな小説に、大切な人たちに、ハッピーエンド以外は認めない。

 そんな信条を貫いた、彼女の名前は鼓詠こよみちゃん。


 どうか安心してほしい。

 これは恋が叶う話で、友情が結び直される話だ。

 青春をハッピーエンドに書き換え、その先まで一緒に歩き出す話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る