最後のチューインガム
海野ぴゅう
第1話 最後のチューインガム
「おは!昨夜英単やってて寝落ちしたー」
「ん…おは」
「元気ないじゃん」
「…寝不足」
「珍し」
登校早々に机に突っ伏していたら友人に絡まれた。
「ちょっと寝るわ」
「オヤスミ」
彼女が他のグループに入って話す声が聞こえた。
(味がない⋯)
バイトを辞める先輩が餞別にくれたチューインガムは奥歯で潰してもモタモタ形を変えるだけだ。
(梅味って。しかも開封してあって中身5枚⋯)
大学生は高校生なんて相手にもしない。
(はぁ⋯死にたい)
智香が薄っすら死に近寄っていたら背中を叩かれた。その拍子にガムは喉を滑り落ちる。彼女が固まっていると呑気な声が頭上から降ってきた。
「おい、英単語テストだぞ」
宝物は二度と戻ってこない。
智香は高校生になって随分低くなった声の主を糾弾した。
「ガム飲んじゃったじゃん!」
「⋯悪ぃ」
隣の席の今村は智香と同じく音楽を愛する男だ。吹奏楽部と軽音部を掛け持ちする彼は智香にとって愛すべき人間である。
その今村は智香に叱られて凹んでいる。
(やっちゃった⋯私ってば極悪人かよ)
ホームルームで英単語テストが赤点で返ってきた。智香は英語な上隣が気になって集中できなかった。その上常時満点の今村まで赤点だった。
翌日放課後に居残りでテストを受けたのはいつもの赤点常連と智香と今村だ。珍しいゲストに教室が浮き立った。
「今村が赤点なんて今回のテストレベル高過ぎちゃうん」
「おまえと一緒にすんな」
今村はさっさとテストの解答欄を埋め教師に渡して教室を出た。
智香は出来上がっていた解答用紙を提出し彼の後を追った。
「いまむらっ!」
中学では小さかった彼の背中が立ち止まって振り向いた。
「⋯何」
「昨日はごめん。本当にごめんなさい」
彼女が体を90度に曲げて謝ると頭上からか細い声が聞こえた。
「『死にたい』なんて聞こえたから焦った。俺もごめん」
幼稚な言動を聞かれた智香は焦って言い訳した。
「薄っすら死にたいってノリで言っただけだから⋯」
「そっかぁ⋯安心した。俺今から図書館で勉強するんだけど一緒に行かないか」
彼女は明日も英語のテストがあるのを思い出した。
「この学校ってば毎日毎日テスト地獄⋯」
智香はゆっくり失恋も噛み締められないと密かに嘆いた。
「智香は文系なのに英語苦手だろ?俺教えるよ」
「⋯今村の邪魔にならないかな」
「ならないな」
次の週の学校では学年で一番背の高い男子と一番低い女子が図書館で並んで勉強していたというニュースが飛び交った。
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