最年少Sランク探索者の少女は泡沫配信者と出会う〜今更ですが冒険を楽しんでみようと思います〜

スグリ

第1話「異界に呑まれた街」

 40億年かけて紡ぎ上げてきたこの星の生命の歴史は、一夜にして否定された。




 


 大阪異界、深域。


 異形の草木に覆われ廃墟と化した街で、小さな天使の羽根が生えた一人の少女が巨大な怪物と対峙しようとしていた。

 

「ゴアアアアアアア!」


 咆哮を上げる怪物、ロックワイアーム。岩の鱗に覆われた巨大な蛇が牙を剥き、少女へと襲いかかる。

 

「殺す……」


 肩までかかる茶色がかった黒髪で学校の制服を身に纏う、羽根以外はどこにでもいるような普通の女子学生といった姿の少女は、身の丈よりも大きく歪な大剣を手にロックワイアームの前へと飛び出した。


「ウォーターエンチャント」


 魔法を発動、剣に強烈な水流を纏わせ斬りかかる。狙うは喉元。ロックワイアームは身を捻り鱗で受け止めるが、水流の刃は鱗を構成する岩の深くにまで浸透し粉砕する。


 だがその刃が肉を断つ寸前、無数の鱗が蠢き刃となって少女へと向けられた。


「っ……!」


 瞬間、無数の岩の刃がシャワーのように放たれた。少女は剣を盾にするが防ぎきれず、いくつかの刃がすり抜けて少女の皮膚を、肉を切り裂いてゆく。


 痛みに意識が持って行かれたその刹那、ロックワイアームの薙ぎ払う尾の一撃が直撃し、少女の小さな身体を吹き飛ばした。


「があっ……!」


 ビルの外壁に叩きつけられ、血を撒き散らしながらどさりと墜ちる少女。


 全身の骨は砕け、肉は裂け、ドクドクと血が流れ出て息も絶え絶えの中、少女は震える手でポーチに手を伸ばし小さな瓶を手に取る。


「くっ……ふぅ……」


 そして中の液体を飲み込むと、全身が淡く光り出し傷が癒え、再び少女は立ち上がって剣を持ち上げた。


 魔法万能薬エリクサー。ひと瓶であらゆる傷や病を瞬時に癒やすがひと瓶1000万円は下らない、非常に高価な奇跡の薬である。


「わたしは、止まれない。止まるわけには、いかないの!」


 呼吸を荒くしながらさらに身体能力増強、回復力増強のポーションを飲み干し、剣を構える少女。


 ロックワイアームが鱗を再生させ、再び迫って来る中、少女は大地を踏みしめ、空気の爆ぜる音と共に凄まじいスピードで飛び出した。


「ウィンドエンチャント!」


 岩の鱗の砲撃を剣にまとった暴風で弾きながら避け、斬撃。鱗の再生途中の皮膚に重い刃を食い込ませる。


「ウォーターエンチャント!」


 さらに高圧水流の追撃。鱗の再生を阻害すると共に傷口を抉りながら剣を引き抜き、高々と振り上げた。


「これでトドメぇーっ!」


 最後に渾身の力を込めたトドメの一太刀。水流を纏った鋼鉄の刃がロックワイアームの肉を、骨を断ち、首を切り落としてその息の根を止めたのだった。


 水魔法で付いた血を洗い流した剣を背負った少女は、ナイフでロックワイアームの死骸から魔石を抉り出すと再び歩き出す。


 異界化した街の中心部。ビルよりも高く、天高くそびえ立つ巨大な木の元を目指して。




 


  2030年7月10日。この日、世界は一変した。


 太陽活動の異変が観測されたのと同時に、各地で未曾有の災害が発生したのだ。


 ビルは異形の草木に覆われ、街にはモンスターが溢れて人々を襲い始めた。自衛隊や各国の軍が果敢に応戦したものの、強力なモンスターの前には現行兵器ですら歯が立たず、敗走を余儀なくされた。


 そうして人類が放棄した都市はまるで異世界の森林のような様相と化し、その中心には高層ビルよりも巨大な樹が根付き、我が物顔でそびえ立つ。


 異界化。そう呼ばれるようになった災害は、初の発生から20年経った今でも人々の安寧を脅かし続けている。






 だが異界化による影響を受けるのは土地だけではない。この世界の植物や、動物も影響を受けてその姿を変えてしまう。それは、人間も例外ではなかった。


 覚醒者。異界化の影響を受け、身体が突然変異した人間をそう呼ぶ。エルフや獣人、魔族といった様々な種族に姿を変えた覚醒者たちは常人の域を遥かに超えた能力を発揮し、ひとたび剣を振るえばその力は機関銃をも超え、魔法の行使すら可能となった。


 やがて覚醒者たちはその力を振るい、異界に立ち向かう事になる。異界化した土地は、未知の物質がそこかしこに溢れる宝島。有益な物を手に入れる事ができれば、その価値は億に達する事もある。


 ある者は一攫千金を夢見て。ある者は生計を立てる為。命を懸けて異界に挑む者たちを、人は探索者と呼んだ。


 2050年。

 

 空を飛べない小さな天使の翼を持ち、巨大な剣を振るう15歳の少女、涼川ちせもまた、そんな探索者の一人である。






 京都府、第二東京市。


 東京の異界化に伴い首都機能を移転された日本の新たな首都であるこの街の異界化探索者協会ビルを、探索を終えたちせは訪れていた。

 

「買い取り、お願いします」

「それでは探索者証をお願いします」


 目的は異界で手に入れた魔石などの資源の買い取り。その前にちせは、探索者としての免許や身分証明書となる探索者証をスタッフに提示する。


 異界素材は軽く6桁から10桁もの金額が動く市場。不正取引を防ぎ、命懸けで戦う探索者たちに正当な報酬を与える為にも取引における身元確認は厳格に行われているのだ。

 

「Sランクの涼川ちせさんですね。お品物をお願いします」


 Sランク。そう聞いた周囲の探索者たちは一斉にざわつき出す。


 探索者は強さや実績に応じてGランクからA、Sランクまでランクを付けて評価され、中でもSランクというのは日本に5人しかいないとされる最強の探索者の証である。


 そして大剣を携えた未成年にしてSランクの少女となると、一人しかいない。


「屑鉄の天使だ……」

「噂には聞いていたが、本当に普通の女の子だな」


 屑鉄の天使。未成年故に詳しい情報が公表されておらず、屑鉄の塊のような大剣を振り回す姿が噂として広まったが故の通り名がこれだ。


「さ、査定お願いします!」

「完了次第連絡致しますね」


 そんな屑鉄の天使がここにいると聞いて人だかりができ始め、居心地が悪くなったちせは手に入れた素材の入った袋をスタッフに渡し、そそくさとこの場から立ち去っていった。

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