未完成の恋模様

第30話「僕は君とは釣り合わない」

1. □ 夏休みの補習で登校した教室は、静かなはずなのにざわめいていた。入り口から、明日香と一緒に現れた一人の男子に視線が集まる。

2. □ 背が高くて笑顔が爽やか。誰とでも気さくに話せそうな雰囲気。その自然さが、僕には眩しすぎて直視できなかった。

3. □ 明日香が「久しぶり」と笑った。男子は「元気そうだな、明日香」と返す。そのやり取りだけで胸がざわつき、呼吸が浅くなった。

4. □ タブレットに《だれ？》と打つ。明日香は「あ、紹介するね。中学のときの同級生で…元カレだった人」とあっさり言った。

5. □ 画面が滲んで見えた。元カレ。その響きが頭にこびりつき、胸を締め付ける。

6. □ 男子は「よろしく、水城くん」と手を差し出した。僕は震える手を伸ばすが、掴めなかった。

7. □ 彼は気にせず笑って「また遊びに来るよ」と言った。その自然体が羨ましくて、悔しくて、涙が込み上げた。

8. □ 明日香が僕の様子に気づいて「蓮、大丈夫？」と覗き込む。僕はタブレットに《だいじょうぶ》と打った。

9. □ でも誤字で《だいじょうぶぅ》になった。男子が「面白いな」と笑った。悪気がないのは分かっても、胸が抉られた。

10. □ 明日香が「蓮は一生懸命なんだよ」と庇った。僕は《やめて》と打ちたかったが、指が動かなかった。

11. □ 休み時間、明日香と男子が楽しそうに話している。笑顔を見せる彼女が、遠くの存在に見えた。

12. □ タブレットに《たのしそう》と打つ。誤字で《たのしそぅ》になった。涙が画面を濡らした。

13. □ 明日香が戻ってきて「蓮も一緒に話そう？」と言った。僕は《いい》とだけ打ち、画面を閉じた。

14. □ 胸の奥で「僕なんか」と声が響く。嫉妬と自己嫌悪が絡み合って、息が苦しくなる。

15. □ 補習が終わって帰ろうとした時、男子が「明日香、また連絡するな」と言った。その言葉が刃となって突き刺さった。

16. □ 明日香が「うん」と笑顔で返す。僕の足は止まり、呼吸が詰まった。

17. □ タブレットに《……》と打ったが、消した。涙で文字が見えなかった。

18. □ 明日香が「蓮？」と声をかける。僕は背を向けて歩き出した。

19. □ 《君とは釣り合わない》その言葉を打ち込んで、送信する直前に消した。心の奥では叫んでいた。

20. □ 夕焼けの帰り道、涙が止まらなかった。誤字でも何でもいい。ただ《いらない》と打ち込みたい衝動が胸を焼いていた。

21. □ 明日香の声が背中を追いかけてきた。「蓮、待って！」けれど僕の足は止まらない。涙が視界を滲ませ、世界が揺れていた。

22. □ タブレットに《いらない》と打ち込みかける。けれど送信する前に消した。指が震え、心臓が痛むほどに脈打った。

23. □ 「蓮、本当に大丈夫？」明日香の声が近づく。僕は画面に《だいじょうぶ》と打つ。でも誤字で《だいじょぅぶ》になった。

24. □ 彼女は「無理しなくていいんだよ」と囁いた。その優しさが刃となって胸を突き刺した。

25. □ 僕は思わず《やめて》と打った。送信してしまった瞬間、明日香の目が揺れた。

26. □ 「ごめん、私…」彼女の声が震えた。僕は俯いて歩き続けた。

27. □ 校門を出ると蝉の声が喧しかった。誰の声も届かず、ただ涙が頬を流れていった。

28. □ 家に帰る道で、タブレットに《君とは釣り合わない》と打った。画面が光り、文字が胸を締め付けた。

29. □ 送信ボタンに触れる指が震える。結局、消した。けれど心の奥では確かに叫んでいた。

30. □ 帰宅すると母が「顔色悪いよ」と心配した。僕は《ふつう》とだけ打った。涙が隠せなかった。

31. □ 夜、布団の中で《ぼくはいらない》と打って消す。画面に残ったのは《ごめん》だけ。

32. □ 涙で枕が濡れた。呼吸が荒く、胸が苦しかった。

33. □ 翌朝、教室に入ると明日香と元カレが談笑していた。笑顔の彼女が遠くに見えて、胸が引き裂かれた。

34. □ タブレットに《いらないんでしょ》と打ち、机の下で消した。涙がにじんで文字が歪んだ。

35. □ 休み時間、クラスメイトが「お似合いだな」と冗談を言った。胸が砕ける音がした。

36. □ 明日香が「違うよ！」と慌てて否定する。その必死さに救われるはずなのに、胸は苦しくなるばかりだった。

37. □ タブレットに《ぼくは？》と打つ。誤字で《ぼくゎ？》になった。彼女は真剣な顔で「蓮が一番だよ」と言った。

38. □ でも信じられなかった。涙が勝手に溢れていく。

39. □ 授業中も視線は彼女と元カレに吸い寄せられる。ノートは滲み、何も書けなかった。

40. □ 放課後、昇降口で彼女が追いかけてきた。「蓮、待って」僕は振り返れなかった。

41. □ タブレットに《どうせ》と打って消した。涙が止まらなかった。

42. □ 「私、蓮と一緒にいたいの」彼女の声が震えていた。

43. □ 僕はタブレットに《でも釣り合わない》と打った。誤字で《でも釣り合ゎない》になった。

44. □ 彼女の表情が凍った。涙が彼女の頬にもにじんでいた。

45. □ 「そんなことない！」彼女が声を張り上げた。教室の窓にその声が反響した。

46. □ 僕は俯き、タブレットを閉じた。涙が床に落ちた。

47. □ 夕焼けの中、僕は一人で帰った。足元が震えて、影が歪んでいた。

48. □ 家に着くと母が「何かあったの？」と聞いた。僕は《ふつう》とだけ打った。

49. □ 夜、机に向かい《ぼくはここにいらない》と打った。画面が光り、胸が潰れた。

50. □ 送信先はなかった。ただ保存だけして画面を閉じた。

51. □ 涙で視界が真っ暗になった。布団に潜っても嗚咽が止まらなかった。

52. □ 翌朝、鏡に映る顔は腫れ上がっていた。学校に行くのが怖かった。

53. □ 教室に入ると明日香が待っていた。「蓮…」その声に胸が震えた。

54. □ 僕は視線を逸らし、タブレットに《なに》と打った。

55. □ 彼女は「昨日のこと謝りたいの」と言った。

56. □ 僕は《悪いのはぼく》と打った。誤字で《悪ぃのはぼく》になった。涙が滲んだ。

57. □ 「悪くないよ」彼女が必死に否定する。その声に心が揺れた。

58. □ でも胸の奥では「やっぱり釣り合わない」という声が鳴り響いていた。

59. □ 放課後、元カレが明日香に「また連絡するな」と言った。その瞬間、胸が引き裂かれた。

60. □ タブレットに《もういい》と打ちかけて消した。

61. □ 明日香が「蓮！」と振り返る。僕は涙を隠すように走り出した。

62. □ 廊下を駆け抜け、息が切れても止まらなかった。

63. □ 胸が苦しくて、喉が詰まって、声にならない叫びが込み上げた。

64. □ 「蓮、待って！」彼女の声が追いかけてきた。

65. □ でも振り返れなかった。涙があまりに重くて。

66. □ 校門を飛び出し、夕焼けの道を一人で歩いた。

67. □ タブレットに《釣り合わない》と打った。指が震えて文字が歪んだ。

68. □ 送信先はなかった。ただ画面を閉じた。

69. □ 家に帰ると母が「どうしたの？」と心配した。僕は《ふつう》とだけ打った。

70. □ 夜、布団に潜り《いらない》と打ち込んで消した。涙が溢れた。

71. □ 心臓が痛むほどに鼓動していた。呼吸が荒くて眠れなかった。

72. □ 《ぼくはここにいない方がいい》そう打っては消した。

73. □ 涙で画面が濡れて文字が滲んだ。

74. □ それでも、消せなかった言葉が一つだけ残った。《ありがとう》

75. □ 翌朝、目の腫れが酷かった。鏡に映る自分が嫌いで仕方なかった。

76. □ 学校を休みたいと思った。でも明日香の顔が浮かんだ。

77. □ 教室に行くと彼女が立ち上がった。「蓮！」その声が胸を揺らした。

78. □ 僕は視線を逸らし、タブレットに《しらない》と打った。

79. □ 彼女が驚いた顔をして「本当にそう思ってるの？」と聞いた。

80. □ 僕は《うん》と打った。誤字なく届いた。涙が溢れた。

81. □ 彼女は俯き、唇を噛んでいた。

82. □ 胸が締め付けられた。でも言葉は戻せなかった。

83. □ 放課後、一人で帰る。蝉の声がうるさいほど鳴いていた。

84. □ 涙が止まらなかった。

85. □ 家に帰り、机に《ぼくはここにいらない》と打った。

86. □ 画面が光って、胸が抉られた。

87. □ それでも消せなかった。

88. □ 布団に潜り、涙が枕を濡らした。

89. □ 《君とは釣り合わない》その言葉だけが頭で響いていた。

90. □ 夜、スマホに通知が鳴った。明日香からのメッセージだった。

91. □ 『昨日はごめん。でも私は蓮と一緒にいたい』

92. □ 涙が止まらなかった。

93. □ 画面を見つめ、指が震えた。

94. □ 《ぼくはここにいらない》と打って消した。

95. □ 代わりに《ありがとう》と打った。誤字なく届いた。

96. □ 送信ボタンを押す。涙が溢れた。

97. □ すぐに返事が来た。『私は蓮がいないと困る』

98. □ その文字に胸が震え、涙が滝のように流れた。

99. □ 布団の中で泣き笑いした。未完成でも、確かに繋がっていた。

100. □ 第30話「君とは釣り合わない」──すれ違いの夜は、涙と共に終わり、次の朝へと続いていった。