20、正体

「あらぁ、頭領直々に乗り込んで来るだなんて」

 とある地下オフィスの一室。

 社長椅子に座る赤いヴェネチアンマスクの少女が笑う。

「こうでもしないと、アンタらを潰せないからね」

 私も拳銃を構えて応えた。

 ヒリヒリと肌を焼くような緊張感が、辺りを支配する。

「にしてもアンタの髪、艶やかでいい香りね。巻き上げた金で高いシャンプーでも使っているのかしら?」

「ふふっ、それは貴女もでしょう? 全身に香水なんかお付けになって。そんなに殿方を魅了したいのですか?」

 煽りの応酬が続く。

 だが、これではらちが明かない。

 私は先制することにした。

「的外れもいいところね。これはその罰よっ!」

 刹那、発砲音とともに銃弾が放たれる。

 だが、銃弾は彼女の耳元スレスレを通り過ぎ、マスクの紐を断った。

 これで彼女の正体が分かった。――はずなのに、私は素直に喜べなかった。

「なん、で……」

 知りたくなかった。

 目の前で微笑みながら涙を流す少女が、親友だなんて。

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