016 直樹は光一と対面する。ロマンティックなんか関係ありません。




 咲子さんに告白をして数日後、噂の鷹野光一に呼び出された。

 大事な話があるそうだ。

 供述書に書かれた通りの、女好きでクズなのか。

 それとも、咲子さんの話の通り、幼馴染と恋人を身を挺して守るような男なのか。

 どちらか、見極めようじゃないですか。

 咲子さんの心を弄ぶクズなら、痛い目を見てもらうしかないですけどね。


「……フッフッ……」

「――直樹さん、どうしたの?」


 咲子さんがおっとりと僕を見上げる。変な顔をしていなかっただろうか? 僕は表情を引き締め直した。


「はるちゃんの家、素敵なレストランなんだよ」


 今日の咲子さんは秋色のワンピースに茶のブーツ。柔らかく揺れるショートヘアー。

 身長は僕の胸ほどしか無いから百五十センチちょっとだろう。

 そして、アーモンドのような瞳は、今日もウルウルと輝いている。可憐だ。


 ――癒されるなぁ。


「咲子さん、寒くない? 胸元が空きすぎている」

「大丈夫だけど、そんなに寒そう?」

「風邪を引いたら困る」


 彼女が手にしていたカーディガンを受け取り肩にかける。本当はその白い肌を誰にも見せたくないという本心もあるが、ここでは隠しておこう。


 気が付いたら、僕の歩調に合わせようと、咲子さんは少し小走りになっている。大変だ。

 その健気さが愛おしい。

 抱き上げて運んでしまいたい衝動を抑え、歩幅をゆるめて彼女に合わせた。


 駅から少し歩くと下町通りに出た。

 古い木造の建物が並び、その奥に家庭的な雰囲気のカフェレストランが見えてくる。

 彼女は「こっちなの」と言いながら裏手に回り、バックヤードの階段を上った。


「光一の家は三階だよ」


 彼女がインターフォンを押すと低い男性の声が返ってくる。


「咲子か? ちょっと待って」


 玄関のドアが開いた。

 ――出て来た青年を見て、僕は少し驚いた。

 初対面の印象は咲子さんの証言が優位だ。


 整った顔立ちに、人好きのする笑顔。すこしやんちゃな印象はある。

 身長は自分と同じくらいだから、百八十はゆうに超えているだろう。

 肌は白く、瞳と髪の色は薄い。もしかしたら、欧米人の血が少し混じっているのかもしれない。


「長谷川さん? 鷹野光一です。はじめまして」


 挨拶も礼儀正しい。好青年ではあるな。


「初めまして。咲子さんから話はよく聞いているよ」

「俺も咲子から惚気話っぽいのを聞かされています。直樹さんでいいですか? 今日はお呼び出ししてすみません」

「ぜひ。僕も聞きたいことがたくさんある」


 光一君は爽やかに笑った。だが、その瞳の奥には強さが見え隠れしている。

 意志の強いタイプだ。


「咲子。悪いけど、春菜と一緒に下にいてくれ。すぐ終わるから」

「いいけど……喧嘩とかしないでね」

「元自衛官殿には勝てそうもないから、……安心しろ」

「……刑事さんから聞いたよ。相手のほうがひどい怪我だったって? 複数人相手に、――やるね」

「また……、勘弁してくださいよ」


 そうは言うが瞳は挑戦的だ。負ける気など、さらさら無いのだろう。

 だが、咲子さんを守ってくれたことには、感謝をしている。


 直感というものだろうか。

 なんだか、彼なら――友人になれるような気がした。



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