第11話 銀髪の美人教育実習生登場
「今日から3週間、教育実習でお世話になります。朝宮紗夜です」
職員室から連れてこられた女性が、教壇の前で挨拶をした。
教室がざわめく。
銀髪を後ろで束ねた、20代前半の美人。スーツ姿でも分かる抜群のスタイル。特に胸元は、はるか以上のボリュームで、男子生徒たちの視線が釘付けになっている。
「おい、見たか...」
「やばくね?モデルかよ」
「先生があんな美人とか...」
隣の席の数少ないオタク友人、山崎翔馬が俺の肩を叩く。
「結城、鼻の下伸びてるぞ」
「の、伸びてないよ」
でも確かに、紗夜先生は目を引く美貌だった。切れ長の瞳、整った顔立ち、凛とした雰囲気。まるで氷の女王のような——
その時、教室内を見回すような紗夜先生と目が合った。
一瞬、彼女の表情が変わった。驚きと、興味と、そして何か別の感情が瞳に宿る。でもすぐに元のクールな表情に戻った。
「では、今日は紗夜先生に数学の授業を行ってもらいます」
数学教師が促した後、静かに紗夜先生が黒板に数式を書き始める。流れるような板書。説明も的確で分かりやすい。
* * *
チャイムが鳴り、紗夜先生が教科書を片付け始める。
「結城くん」
突然名前を呼ばれて、ビクッとした。
「は、はい」
「ちょっと、この荷物を職員室まで運ぶの手伝ってくれる?」
教卓の上には、大量のプリントと教材が積まれている。
「分かりました」
俺が荷物の半分を持つと、紗夜先生は微笑んだ。
「ありがとう。助かるわ」
教室を出る時、はるかと目が合った。心配そうな顔をしているような気がした...
生徒たちが教室移動でざわつく廊下を、紗夜先生と並んで歩く。
「結城くん、でよかったかしら」
「はい」
「ふーん...」
紗夜先生が立ち止まった。人通りの少ない廊下の突き当りの階段下で、急に俺の方を向く。
「あなた...」
一歩、また一歩と近づいてくる。壁際に追い詰められた。
「普通の人間じゃないわね」
細い指が俺の顎に触れる。顔を上に向けさせられ、至近距離で瞳を覗き込まれた。
「魔力の匂いがする...それも、かなり特殊な」
甘い香水の匂い。大人の女性特有の色気。顔が熱くなる。
「面白い子...」
唇が耳元に近づく。吐息がかかって、ゾクッとした。
「また後で、ゆっくり話しましょう」
そう囁いて、紗夜先生はすっと離れた。何事もなかったように歩き始める。
「ほら、早く行かないと次の授業に遅れるわよ」
振り返った彼女は、また元のクールな表情に戻っていた。
* * *
授業が全て終わり、帰ろうとしていた時、紗夜先生が教室に現れた。
「結城くん、ちょっといいかしら」
クラスメイトたちの羨望の視線を背中に感じながら、俺は紗夜先生についていった。
向かった先は屋上。夕日が校舎を赤く染めている。
「あなたよね...」
紗夜先生が振り返る。夕日を背にした姿は、幻想的だった。
「和泉はるかと契約している子って」
心臓が跳ね上がった。
「な...何の話ですか」
とぼけてみるが、紗夜先生は小さく笑った。
「しらばっくれても無駄よ」
パチン、と指を鳴らす。
瞬間、周囲が暗くなった。夕方だったはずなのに、まるで夜のような闇が広がる。空には満月が浮かんでいる。
「これは...」
「結界よ。少しの間、この空間だけ時間をずらしたの」
紗夜先生の髪が、風もないのにふわりと浮き上がる。銀髪が月光を受けて輝き始めた。瞳が紫色に変わっていく。
背中から、黒い翼のようなオーラが立ち上る。
「私もサキュバスなの」
ゆっくりと宙に浮かび上がる。重力を無視した動きで、俺の前まで飛んできた。
「あなたみたいな普通の人間が、女王候補と契約するなんて...釣り合わないわ」
紗夜先生の手が俺の頬に触れる。そして——
柔らかくて大きな胸が、顔の目前まで迫ってきた。両手で頬を包み込まれ、逃げられない。
「あの子と別れて...」
甘い声が耳元で囁く。
「私と契約し直すのはどう?」
妖艶な笑みを浮かべる紗夜先生。その瞳の奥に、何か別の感情が見え隠れしていた。
【お礼】
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございます。
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