文通少女は俺と話したい。

灰原 悠

第1話 寡黙な少女



 きっかけは些細なことだった。

 教室の隅で一人小説を読みながら、クラスメイトとの会話をしていない少女の姿を度々目にしていた。


 語部 文香(かたりべ ふみか)17歳 高校3年生。

 腰まで伸びた黒髪、不健康にさえ見えてしまう白い肌、二重で大きな瞳。


 容姿だけで比べてみればクラスの中でもかなり整っていることは間違いない。

 そんな彼女が一人で読書に更けているのは性格が起因している。


 語部文香は喋らない。

 これがクラスの、彼女を知る学年の生徒の共通の認識なのだ。


 俺も3年に進学して初めてクラスメイトになった時に初めて知った。

 最初は大和撫子と表現すれば良いのだろうか、彼女に目を惹かれたがすぐに不思議な疑問が浮かんできた。


 彼女は男子女子問わず話しかけられたとしても、何も言葉を発することは無いのだ。


 皆、彼女の容姿に惹かれるものがあり、春頃はたくさんの生徒が彼女へ話しかけた。

 毎日、休み時間や放課後などの時間で彼女を囲む光景を何度も目にした。


 しかし、顔を向けて何か話すのかと待ってみても、その口が開くことは無かった。



 そんなことを繰り返しているうちに、彼女はクラスの中で孤立する存在へと変わっていくのは明白。

 中には、容姿が良いから見下しているなんて噂を流す生徒もいる始末。


 言う方も、話しかけて無視されてと感じたからこその発言だから一概に責めることは出来ないところもあり周囲も語部文香にはあまり関わらない、これが現在のクラスの暗黙の了解になっていた。



 そんな彼女のことを何故振り返るのかと言えば、俺が握っていた一枚のくじ引きが意味している。


 今日は、年に一度だけ開催される席替えの日。

 ここで決まった席で、俺達は高校生活最後の半年を過ごしていくことになるのだ。


 朝から皆が新しい席がどこになるのか一喜一憂しながら、期待に胸膨らませて過ごしていたのは言うまでもない。


 俺も、仲良くしている奴とあそこがいいなとか話しながら一日を過ごした。


 全ての授業が終わり、放課後のホームルームで先生が用意した自作のくじ引きを引きながら次々と席が埋まっていく。


 その中で、語部は窓側最後尾の席を確保していた。

 

 女子生徒の多くは、その近辺を嫌がっていたが男子生徒の中には彼女に未だに興味がある生徒も多く何人かは近くを引けるように願っている奴も多い。


 クラス替えでもないので、結果的には休み時間で友人達と話を出来ることは変わりないので、どこに教卓の目の前以外ならどこでも良いやと思い、箱の一番底にある紙を引き出して記載された数字と黒板の数字を確認する。


「……うーん」


 これは当たりなのか、否なのか。

 記された席を目で追うと語部の隣の席だった。


 彼女は早々に自分の机と荷物を新しい座席へ移動させて窓の外に目を向けていた。

 きっと、彼女も隣が誰になるのかはあまり興味が無いのだろう。


 でも、俺は少しだけ彼女に興味があった。

 そこに恋愛感情などはなく純粋な興味。


 無口な彼女だからこそ、何を考えて日々学園生活を過ごしているのか……そんなことが気になっていた。


 これはこれで面白い気がする。

 そんな期待を胸に、俺は彼女へ向けて歩みを進める。


 目の前まで近づくと、語部もこちらに視線を向けた。

 窓から入るそよ風に彼女の髪が波打ち、キラキラと輝いて見える。


 確かに、これは男子人気が密かに増えているのは分かる気がする。

 好きだろうな、この手の女子の事。


 同じ教室で過ごして半年になるが話したことも無ければ、授業で同じグループになることも無かった。

 慣れ慣れしく出来る関係値など皆無だから、短く言葉を投げかけた。


「お隣だな、あと半年よろしく」


「……」


 じっと見据えられる大きな瞳に、こちらも逸らすことはしない。

 挨拶の言葉でも返ってきたら大成功くらいの気持ちで話しかけたが……やはり語部文香は話さない。


 こんな出会い方で、聴波 章(きくなみ あきら)と語部 文香のお隣学園生活は始まった。




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