第18話 俺はやっぱり不老不死
「ルーク!」
飛んできた大量の火球がルークの体を燃やしていく。
火力は中々に高く顔に火が灯ったかと思ったら一瞬で全身を覆っていた。肉の焼ける匂いがする。その場にはそぐわない香ばしい匂いだった。
「…っあっつ!」
炎の中からそんな声が聞こえる。少し経つと炎だ段々と収まっていきそこから無傷のルークが現れた。
「あ、そういえば不死なんだったね」
「忘れてもらっちゃ困るな。ま、痛みは感じるがな」
最近死ぬことが中々ないためすっかり忘れていた真実である。
「不老不死だからって自分から死にに行くようなことはなくなってきたしなこの感覚すっかり忘れてた」
「うん、死んだの私達と出会って以来じゃない?」
思い返してみればそうかもしれない。これ不老不死の話なのに死んだのが2回とはどうなっているのだろうか。
「じゃルーク盾にして…シルタ行ってきて!」
「えぇ!?僕!?」
「しれっと俺を盾にすんな」
「えー別にいいじゃん死なないんでしょ?ルークを盾にしてシルタが前に出る。これって良い作戦じゃない?」
「ま、作戦としては、な。人道的かどうかは置いといて」
だが実際これが有効であり効率的であるということはわかりきっているため結局それを実行する。
「私も後ろから支援してるから!」
それだけ言ってミヤは中央の方へと走っていった。
「…はぁ、人使い荒いな…昔からあんななのか?」
「当たり前でしょ…ルークがいた森に入るときだって無理やり連れて行かれたんだから」
ルークの頭が物理的に燃え上がる。「あーあちい」と言いながら火を払う。
「初めての共闘か?」
「だね、ミヤとは昔一瞬に戦ったことあるけどルークとは初めて。」
「よし、じゃあ間近で俺の勇姿を見ておくんだな」
「ぼ、僕だって負けないから…!」
そうして燃え盛る獣族村を尻目に火炎魔法を撃ち続ける魔法使いたちに突っ込んでいった。
◇◇◇
「きゃあ!」
そんな声が後ろから聞こえる。
振り返ると幼い獣人を捕まえている男たちがいた。どうやら最初の奇襲部隊は囮らしい。こっちが本命だ。
そいつらは次々と若い獣人だけを選び捕まえ荷車に押し込んでいた。
「ちょっとあんたたち!止めなさい!」
ミヤが叫び堂々と仁王立ちをして進路を塞ぐ。
「あぁ?止めろ?ぷっ…やめれるわけねぇだろ、こんな金になることをよぉ!」
一人の男が短剣を取り出しミヤに襲いかかる。
男が短剣を振る。振るスピードは早く一瞬で眼前に剣先が迫る。顔に当たる。だがその直前にミヤは顔を引き紙一枚分の隙間ほどで避けていた。
「別に魔法使いだからこういくことが出来ないと思ったわけじゃないでしょうね?」
ミヤが苛立ちを隠せないかのように額に青筋を立て相手を睨む。
「あんた達の攻撃なんざ、一発も食らうわけないでしょ」
次の瞬間、ミヤの杖から光が放たれる。
――それは電撃魔法。雷の力を使い、光の線がジグザグと折れ曲がりながら狙った男に命中する。
「う、がぁっ…!」
変なところに力が入るのか腕や足が痙攣している。
一度魔法を止め、もう一度放つ。より高出力で。
次の瞬間、男は口から泡を吐き力なく倒れた。
「あと7匹…多いわね」
だが、ミヤは後ろから近づいてくる一つの影に気づいていなかった。
◇◇◇
「てめぇら熱いつってんだろうが!」
ルークが拳を固め魔法陣ごと魔法使いを破壊していく。致命傷ではあるがギリ死んでいない。
「こんなやつがいるなんて聞いてないぞ…」「に、逃げよう!」「俺、明日母さんの誕生日なのに…」
そう口々にしている者もいるがお構い無しに殴り飛ばしていく。
その傍ら、シルタも奮闘していた。
大剣を振るい相手を斬っていく。致命傷になるようなところを避け、なるべく痛みの多い場所を狙い突き、斬っていく。
次にシルタが大きく大剣を振り被る。最大限まで腕を上げ、一気に下ろす。その瞬間、衝撃波のようなものが生まれ周りを吹き飛ばす。
「やっぱ十分強いよシルタは」
「いや、まだまだこれじゃ大会予選ですら優勝できない」
どんな猛者だらけなんだよと思いながらも殴る手は止めない。
それから数分、相手の魔法使い達は降参した。
◇◇◇
ミヤの肩に手が置かれる。
「…っ!誰!?」
振り返ると片目に傷を負った筋肉質な獣人だった。
「私も手伝おう。この村を守るために」
その目は闘志で満ちていた。殺してやると言わんばかりの表情で立っている。
「…腕の1本、切り取ってやる…!」
次の瞬間、空に3本の腕が舞っていた。
「ひぃぃ!」「やだ死にたくない!」「無理だ!撤退!」
そうして逃げようとする者もいたが足を自慢の爪で切り裂き、腕を切り裂き、顔を切り裂き、問答無用で切りつけていた。
「終わり、か。」
この人がいれば全て終わったのではないだろうかと思ったがそうもいかないらしい。
「それ以上動くな!」
一人の男が剣を一人の少女の首に押し当てている。
「ちょっとでも動いたらこの娘の命はない!いいか?妙な真似はするなよ?」
「くっ…どうすれば」
片目に傷のある獣人が戸惑う。それを横で見ていたミヤが言葉を発す。
「【拘束魔法】」
そうして戦いは意外とあっさり終わってしまった。
◇◇◇
「それで、お前たちの目的はなんだ?まぁ、大体察しはつくが」
ミヤが捕らえたおそらく奴隷商に雇われたであろう男に尋問をかける。
「お、おれ、俺は頼まれただけなんだ!ここを襲撃して獣人どもを捕まえてこいって!」
口の軽い男である。ちょっと睨まれただけでこのざまだ。
「だろうな、で、雇い主は?」
「名前は知らない!ただ持ち帰ったらそれ相応の額を支払うって言われて」
「こいつらもか?」
「あ、あぁ、多分、そうだ。顔も名前も知らない。」
「こういうことはよくあるのか?」
「お、俺は初めてだ!だけど奴隷商ってのがあるくらいだ、よくあるんじゃないのか」
「そうかわかった。だったらこれで懲りたろう。二度とこういうことはするんじゃない。いいな」
「わ、わかりました!帰ります!こいつら全員連れて帰りますからぁ!」
そうして何人か意識を保った人たちで気絶したやつらを全員荷車で運んでいった。
「………待て、なんか嫌な予感がする。」
次の瞬間、ルーク達に大量の獣人が駆け寄ってきた。
「ありがとう!」「助かった!」「君たちがいかなったら今ごろどうなっていたか!」「ありがとう!」「ありがとう!」
そんな声でいっぱいだった。獣人たちが駆け寄ってくる傍ら、カルナの姿が一つあった。
「もういい、わかった、わかったから…もう夕方だから…」
宴会は朝から始まり昼を過ぎ、夕方になるまで続いていた。
「やっぱりすごい、ルークさん達」
カルナが隣で呟いた。
「私じゃ、なんの役にも立てないから…」
「ま、そんなの今の話だ。将来カルナの方が人々の役に立ってる可能性だってあるんだからな」
「……ねぇ、私が旅について行っても…いいの、かな?」
「何を今更、いいに決まってるだろ」
突然何を言い出すんだとシルタの時と同じような気持ちを抱く。
「うん、そう、だよね。そう言うと思った。でも、さ、今の私弱いし…このままついて行ったら足手まといだし………だし」
もごもごと言葉にならない声でぶつぶつと呟いている。
「ま、そんなの俺が決めることじゃない。カルナ自身、付いてきたいなら付いてくればいいし、嫌なら来なくていい。」
「…そう、だね…」
俯きながら首を振る。
「だが、これは"今"しか経験できないことだってことを念頭に置いておいてくれ。」
「今しか…」
「俺たちと旅ができるのも今だけだし、ましてやこの森に入るのもこれで最後かもしれない。それを悩んで行かずにいたら後悔することだってある。やらぬ後悔よりやる後悔ってやつか?いや、やって後悔はするのか…?うーん、わからん。ま、悩んでる暇があるなら動けってことだな」
「後悔…」
何かを考え決心したのかいきなりカルナが立ち上がる。
「お母さんのところに、行ってくる」
そうしてカルナは母親の元へと駆け寄った。
◇◇◇
「ねぇ、お母さん」
娘であるカルナからいきなり声をかけられる。
だがその目がいつもと、いや今日の朝とは違うものだということに気づく。
「どうしたの?」
「あ、あのね、私………ルークさん達に付いて行くのやめようかと思うの」
それはフレッタが予想していなかった言葉。そしてカルナの運命を大きく変える言葉でもあった。
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