特オタ女神の贋作世界看破
「「⁉」」
突然のノルンの宣言にディアンケトとオーディンは大いに驚き、
「……ノッチャン。根拠の提示を要求します」
オリジンはノルンの意見を切り捨てる事なく、彼女がそう考えた理由の説明を要求した。
「理由は二つあります……まず一つ目の理由……それは魂です」
ノルンはそう言いながら自分の胸に手を当てる。
「ディアン。覚えていますか? 私達が和さんの魂をサルベージした時に私が和さんの魂に違和感を覚えた時の事を」
「ええ。覚えているわよ」
「実はその時の事がずっと気になっていて、オッチャンに協力してもらって和さんが異世界転移する前に私と和さんの魂を調べたんです……そうしたらある事が分かったんです」
「ある事?」
「はい。私の魂に和さんの魂の一部が混在したままで残っていたんです」
「はあ⁉」
「なんじゃと⁉」
明かされた真実にディアンケトは目を剥き、オーディンでさえ瞠目した。
「ちょ、ちょっと待って。あんたの魂に和の魂が混じっているって事はひょっとして――」
「はい。私の魂の一部もまた和さんの魂に混じっていました」
「ま、まさか……神世界に和を召喚した時にあの子の身体が子供のものになっていたのは――」
「ノッチャンの魂の一部が 鈴木 和の魂に上手く定着していなかった影響です」
返答をしたのはオリジンであった。
「――時間経過と鍛錬で上手く定着してくれたので良かったですが、最悪、神の因子に鈴木 和の魂が壊されてもおかしいくない状態でした」
「和……地味に絶体絶命の状態だったのね」
共同生活中に何度も死にかけていたのは、鍛錬の苛酷さだけではなく、そういった理由もあったのかもしれないと、今更ながら明かされた真実に、ディアンケトは鳥肌が立った。
「どういうつもりじゃオリジン? その事は儂を始めとした最上神達も知らされていないぞ?」
「では、報告すべきでしたか? そうすれば、ノッチャン――運命の女神ノルンと鈴木 和はあなた以外の最上神達によって排除されていたでしょう」
「ぬぅ……」
「最上神の中には神相手の読心に長けた者もいます……情報が漏れるリスクを考慮するとあなたに話す訳にはいきませんでした」
「! オリジン。まさかお主、己の使命よりもノルンを守ろうとしたのか?」
「あえてその問いに答えるのであれば、イエスです。混ざっているとはいってもノッチャンと鈴木和が互いに交換した魂の一部はごく僅か……世界の秩序に影響を与える程のものではないという予測しました……なので私に気付きをもたらせてくれるであろうノッチャンとその推しの保護を優先しました」
「!」
判断に私情を挟まない筈の超越存在のまさかの行動にオーディンは面食らい、何かを言いかけたが、深い溜息を吐くと、それを止めた。
「……相分かった。この事は後で話すとしよう。今は和の事じゃ」
完全に納得はしていないようではあったが聡明な最上神は今話す内容ではないと悟ったのか、重い頷きと共に話題を戻した。
「ノルンよ。説明の続きを頼む……」
「はい! 自分の魂の一部が混在している事が分かってからは、目視などで和さんを認識した場合に私の魂の一部を感じる事が出来たのですが、今観測しているあの和さんからはそれが一切感じ取れないのです……」
「オリジンを介しての観測だからじゃないの?」
「いいえ。私の観測でも認識さえすれば、魂の一部は感じ取れるはずです……何らかの理由で鈴木 和からノッチャンの魂の一部がなくなっているのは間違いないかと」
「だが、それであの和を――観測してる世界そのものが偽物だと結論付けるのは少々飛躍し過ぎなのではないかのぅ? 何らかの要因で、和の魂が変異した――という事は考えられんかのう?」
オーディンの至極当然な問いかけに、同意見であったディアンケトも頷く。
「確かに、何らかの要因によって異世界転移者の魂が変異した前例は既に過去に幾つかのケースを確認しています。しかし一部とはいえ女神の魂を変えてしまう程の変異は少々無理があると思います」
「どちらにせよ、別のアプローチによる情報収集が必要です」とオリジンはノルンに目を向けた。
「ノッチャン。先程のあなたの要請――あなたから押収した神器での鈴木 和の観測を承認――実行します。今すぐに始めてもよろしいでしょうか?」
「勿論です! やっちゃって下さい!」
オリジンが手をかざすと、空間にテレビ型の神器が現れる。
「神器を介して観測を再度実行。映像出します――っ!」
常に冷静沈着なオリジンが現れた映像に息を呑んだ。
「な、なんですかこれは⁉」
「……嘘、でしょう?」
「これは……なんとも――」
だがそれは他の三神を同様であった。
四者四等に驚倒させた神器に映されたその光景――それは想像を絶するものであった。
人ならざる異形の者達。
それが群体となり、一人の人間を取り囲んでいたのだ。
「こ、これってさっき話に出ていた魔物とかいう奴なの?」
「……おそらくのぅ。だがそれだけではない――魔物達の中心にいる人間の顔をよく見て見よディアン」
「中心にいる人間の顔ですか? ――えっ⁉」
オーディンの指摘を受け、魔物達に取り囲まれている人間を見たディアンケトは更なる驚愕の事実に気が付かされる。
「和⁉」
そこにいたのはディアンケトもよく知る人間――鈴木 和であった。
異世界転移する直前より更に年齢を重ねており、右目に漆黒の眼帯をした青年の姿となっているが間違いない。
魔物の群体に取り囲まれている人物は、ディアンケトと多くの時間を共有し、ノルンの最推しでもあるあの鈴木 和であった。
「ノルン! あの和からは!」
「……はい。あの和さんから私の魂の一部を感じます」
「それってつまり――こっちが本物って事?」
だがそれは悪夢にも似たこの世界の光景が現実であるという事に他ならない。
「こちらでも追加の情報を獲得できました。現在観測しているこの光景は先程観測していた同世界の別位相にあります」
「同世界の別位相……」
位相――即ち空間。他にも意味がある言葉ではあるが、この場ではおそらくその事を負っているのであろうとディアンケトは解釈した。
「治癒の女神ディアンケトも言いましたが、今観測している鈴木 和にノッチャンの魂の一部があるという事は、こちらが本物の異世界ユグドラシルで、先程我々が観測していた世界は偽物という事になります……信じられない事ですが」
「なんでそんな事になってるの?」
「そんなの我々神とオリジンの目を欺くために決まっておるじゃろう」
片目を閉じながらオーディンが忌々しそうに言った。
「でなければ、ここまで手の込んだ偽装工作などは行わんじゃろう……誰が何の目的でやっておるかは分からんがのぅ」
「ともあれ」とオーディンはノルンを見た。「儂やオーディンすら見抜く事の出来なかった事によくぞ気がついたぞノルンよ。もうほぼ確定しているが、二つ目の理由も念の為、聞かせてもらおうか?」
「私の最推しがそこら辺にいる女とあんな風に仲睦まじくなるなんてあり得ません! 解釈違いにも程があります!」
「……二つ目の理由聞かなかった事にしていいかのぅ」
「……拗らせた厄介オタクみたいな事言ってるわねあんた」
ちょっとノルンの評価を見直そうとしていたディアンケトは考えを改め、やはり私の親友は駄女神であると改めて確信した。
「相変わらずなノッチャンはさておき、この一件は早急な対応が求められる程の無視できない案件です」
オリジンの一言は、それだけで今回の異常事態がどれ程の大事件なのかを如実に語っていた。その為、自然と神達の顔も険しくなる。
「本来であればこれはどう考えても最高評議会を開き、慎重に事を進める案件じゃが――そういう訳にもいかんのじゃろう? オリジンよ」
「……はい。今回の件は、この場にいる者達以外に情報の開示を行うつもりはありません」
「え?」
ディアンケトは自らの耳を疑った。これだけの大事件を、他の神達に黙っておくと言ったオリジンの意図が分からなかったからだ。
「オリジン。これ程までの規模の|異常事態〈イレギュラー〉は他の神にも相談して皆で対応するべきだと思うのだけど、それじゃあ駄目なの?」
「いいえディアンケト。あなたの言う事は正しい。本来であれば、その対応が最適解であり可能であれば私もそうしたいのですが――今回ばかりは少々事情が異なります。他の神をこの件に巻き込む事には、多大なリスクが生じるからです」
「リスク?」
「私からの観測を欺く技術があるという事実を他の神が知れば、その技術を悪用するというリスクです」
「そんな馬鹿げた事をする神なんて――」
「いないと断言出来ないのが、儂等の辛い現状なのじゃよディアン」
反射的に否定しようとしたディアンケトの言葉を遮ったのは、他でもない神の頂点にいる最上神のオーディンであった。彼は身内の恥を晒すように溜息を混じらせながら言う。
「我等の神世界は良くも悪くも、オリジンの絶対的な管理の元に成り立っておる。しかし数多いる神達の中にはその事を良しと思わず、虎視眈々とオリジンを頂点から引きずり下ろす事を狙っている神が存在する……我等最上神の中にもな……故にこの一件、対処を間違えれば我々の住まう神世界は大きく傾く事になるじゃろう」
「そんな……」
唯の一女神でしかないディアンケトからすれば、あまりのスケールの大きさに呆然とするしかない。
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょうかノッチャン?」
「状況を見るに、ノアの魂が帰還しないというイレギュラーもこの世界規模の偽装と何らかの関係があると推測できます。ではそのノアの魂の転移を担当した神は今一体何をしているのですか?」
「……確かに、状況を見るのにこの異常事態無関係とは言い難いわね」
「はい。どういう訳か、ノッチャンから渡された資料にはノアに関する一切の情報の記載がなかった為、私も知らないので、教えてもらえますか? 下手をすれば今回の一件の首謀者であることも考えられますし」
「……」
ノルンとディアンケトにオリジンはほんの数瞬沈黙しましたが、やがて「それはあり得ません」と首を縦に振った。
「どうしてですか?」
「別件で問題を起こし、既にこの神世界には存在しないからです」
「え?」
「それってつまり――和が助けてくれなかった場合のノルンと同じ結末――死を迎えたと解釈してもいいの?」
「……そうなります。彼の神の事は幾つもの禁則事項に該当するため、詳細な情報の提示は行えません……申し訳ありません」
あまりこの話題を続けたくないのかオリジンは「それよりも今は異世界ユグドラシルの事です」と強引に話の軌道を戻す。
「オーディン。私はこの案件、『特例対処』が必要な程の一件であると認識していますが、最上神としてのあなたの見解を聞かせて下さい」
「まったくの同意見じゃ。事は一刻を争う。直ぐにでも取りかかるべきだというのが、最上神としての儂の意見じゃ……しかし儂個神としては気が進まんというのが、本音じゃがのぅ」
「申し訳ありません」
どういう訳か、オーディンに対し深く頭を下げ謝罪を行うと、オーディンはノルンとディアンに顔を向けた。
「ノッチャン……いえ、運命の女神ノルンと治癒の女神ディアン」
「は、はい!」
「なにかしら?」
超越存在の真剣な視線を受け、二人の女神が自然と姿勢を正す。
「神の上位存在たるオリジンの名を持って両名に要請します――」
それを見ながら、オーディンは告げた。
「異世界転移者として異世界ユグドラシルに転移し、異常事態を解決して下さい」
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