18 高校①
ドラフト会議の結果、初代コンコルド・ゼブラのチームメンバーは【騎士ドック】【ふうせん】【ヨン・タコス】【ラブ・サイダー】のドラフトによって選ばれた四人と、内定組の【遊佐明】の合計五名に決まった。
監督には財閥令嬢、赤穂麗奈。
スペシャルアドバイザーには石原抹茶が就任している。
チームアナリストやサポートスタッフなどを含めたチームであり、顔合わせは一週間後になった。今すぐにと言われても高校生だし、新潟から東京に行く必要があって無理なので、時間的な猶予があったのはありがたい。
できた時間で配信を再開することにした。多くのMOUゲーマーから注目されていたドラフト会議で、11チーム競合という話題になることがあったおかげか、配信には7000人ほどの視聴者が来てくれていた。
配信ではMOUに関する質問に答えながら、デブリフルクリアRTAに挑戦する。ランクマッチに行くのもよかったけど、配信でランクに行くにはゴースティングとかスナイプの危険があるので、無敗をキープしているうちは止めておく。
配信画面には自分の顔を映したワイプの下に、ラムネサイダーの広告を表示していた。あとは配信のコメント欄にも定期的にラムネサイダーの紹介と通販サイトのリンクが流れるようにしてある。多くの注目を集めることで、ラムネサイダーも人の目に触れる機会が多くなっていく。
ちなみに商品紹介の部分で地元南魚沼の新鮮な水が云々と書かれているので、ほとんど個人情報を開示しているようなものだった。MOUをやっているクラスメイトは多いけど、高校に行ったら話しかけられたりするのだろうか。
『みんな高校生くらいの人がプロなの?』
「MOUのプロは意外と年齢が高い人が多いみたい。あと女性も多いってさ。プロテストリーグに参加した1055人のうち122人が女性だったんだけど、そのうち17がドラフトで選ばれてる。内定組にも1人女性がいるから、プロになった60人のうち、18人が女性だってよ」
『多いか?』
「多いでしょ? 将棋とかと比べたら」
目についたコメントを拾い、喋りながらプレイする練習をする。RTAの配信をしていた時は集中して黙々とプレイすることが多かったけど、これからはコールをしながらプレイするというのが重要になってくる。プロテストリーグのときはオープンVCしか使えなかったけど、MLJではチームメイトと通話を繋いでプレイすることになる。デブリプレイヤーとしてinゲームでの指示役になることが多いと思うので、ゲームをしながら喋る練習は必須だった。
『おい! MLJでもリンドール使うのかだけ教えてくれ!』
「うーん。リーグが始まる前に調整が入ったりアプデがあったりするから、リンドールよりも良いメテオラが出てくるかも。ただデブリの周回速度が速いってでけで、集団戦で強いってわけでもないからさ」
MOUは2週間で新しいパッチが入り環境がガラリと変わる。普通な性能のリンドールが下方修正の対象になることはなかったけど、僕の活躍によってゲームバランスを崩壊させていると気づかれたので、デブリの周回性能だけを下方修正される可能性は大きかった。
そもそもバンピックで空くならイージーゴアなどのティア1メテオラを使った方が簡単に勝てる。さらに、リンドールよりも強力で、意外なメテオラが3分20秒以内にデブリを回ることができるということもあるので、様々なメテオラをデブリロールで試していくことは重要だった。
様々なメテオラを試していくなかで、【ロマンチックウォリアー】というメテオラに注目する。美咲のメインピックでもあるこのロマンチックウォリアーは、本来ミッドラインのメテオラである。デブリで使ってみると意外と周回速度が速く、何度か試してみると3分27秒という好タイムが出た。
大剣を一本
カニ前にフルクリアを終わらせることはできなかったけど、デブリを専門とする他のメテオラと比べても遜色ない、なんなら少し早いくらいのスピードでデブリを回ることができる。デブリでロマンチックウォリアーをピックできるなら、ミッドとのフレックスが期待できるので、バンピックでも優位に立てるはずだ。
フレックスの強さというのは例えば、ロマンチックウォリアーをミッドで使うと勘違いしてカウンターを当てにきた相手のミッドに、さらにこちらがミッドでカウンターを出すということができる。このように、相手のピックに合わせて臨機応変なピックが可能になり、ゲームが始まる前から勝ちに近づくことができる。
というわけで早速ロマンチックウォリアーを対人戦で練習したかったのだけど、無敗というのがかなり邪魔だった。ランクマッチ無敗とかではなく、MOUを初めてから全てのゲームで無敗だったので、どんなモードで遊ぶにしても勝敗がチラついてしまう。どこかでコロッと負けれたら楽だったけど、わざと負けるというようなこともしたくない。負けるなら華々しく負けたいという気持ちもあった。
そんなことを考えていると、配信のコメント欄に石原抹茶から一際目立つメッセージが届く。
『絶対に負けられない今の状況は、本番のような緊張感を持って練習するには最適だ。無敗でいるうちにどんどん成長していこう』
石原抹茶の素敵な言葉にコメント欄は盛り上がる。
たしかの彼女の言う通り、無敗という負けられない状況が生み出す、本番さながらの緊張感は、自分を成長させる糧となるだろう。何に記録にも残らない無敗にこだわるよりも、実力を高める努力をする方がよっぽど有意義だった。
『というわけでわたしを10連敗から救ってください』
ロビーにはいつの間にか石原抹茶が参加していた。
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