05 ランクマッチ100連勝。④
メテオラ・オンユニバースを始めてから1週間が経過したけど、僕はいまだに無敗だった。
外部の情報サイトで確認しても勝率100%というのは流石に珍しいらしく、サイトのトップページに随時更新されている、ホットプレイヤーにしばらくの間、選ばれ続けていた。
日本サーバーのランク一位の人でも、勝率は67%であることを考えると、無敗というのはかなりすごい、ということを【ふうせん】は言っていた。ちなみに【ふうせん】の勝率は、82%らしい。
なんだか気分がよかったけど、この連勝は流石に低レートだから発生する一時的なものだろう。レートが上がっていくにつれて、敵も強くなるから、勝つのは難しくなると思う。
もちろん今のレート帯でも楽勝な試合ばかりでは無かった。中盤の集団戦で転びかけたり、とんでもないミスをすることもあった。中には大逆転を収めた試合もあり、【ふうせん】がいなければ連勝は途切れていたと思う。
それから意図的に敗退行為を行うトロールやAFKが味方に来ていないという運の良さなどもある。そういうプレイヤーが相手に来たこともあったから、あれが自分たちのチームに混入したら、その時点で勝つのは難しいだろう。負けた後にレポートを書いて、失った分のランクポイントを取り返すことしかできない。
様々な要因が重なっての連勝だけど、1番の理由は、デブリでリンドールを使用しているからだ。
ユニバースには三本のレーンと、その間にあるスペースデブリが存在している。同じチームにマッチングした五人にはそれぞれロールと呼ばれるがあり、デブリというのもそのロールの一つだった。
ミッドレーンで戦っている【ふうせん】など、デブリ以外のレーンプレイヤーは、敵のプレイヤーと戦っているわけだけど、デブリプレイヤーは、スペースデブリに存在する中立モンスターを狩っていく。対人要素がないから、自分のプレイングに集中することができる。
この中立モンスターをいかに効率よく狩ることができるかに、ゲームの主導権が大きく関わってくるのだけど、僕が使用しているリンドールというメテオラは、このデブリのフルクリアを、全てのメテオラで最速の3分18秒で行うことができた。
美咲が言うように、対人戦では多くのプレイヤーに負けるである僕でも、デブリを最速で回ることならできる。つまり僕がリンドールを選択した時点で、序盤の有利が確定していたのだ。
逆転の戦略がまだ少ないこの時期においては、序盤で有利を作ってしまえば、スノーボールのように後半まで成長して、そのまま勝つことができた。連勝の要因を考えたときに、これが一番大きいと思う。
というわけで【ふうせん】にデュオを誘われてから、ノンストップでランクを回して3時間が経過した。僕たちはランクマッチで8連勝をして、ダイヤモンド2まで上がる。その間は、もちろん無敗だった。
メテオラ・オンユニバースのランクは、「ウッド」「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」「プラチナ」「エメラルド」「ダイヤモンド」「マスター」「エース」に分かれている。そして、それぞれのランクでさらに「1~4」に分割される。
日本1位はマスター3に到達していた。
つまり日本サーバーでは、いまだにエース帯に到達したプレイヤーはいないということ。飛び級のようなシステムがないので、勝率を50%以上で保ちながら、コツコツと上げていくしかない。
現状、ダイヤモンド2だと日本で1383位になっている。
学校に行っている間に、どれだけ抜かされるだろうか。
【おつ】
【入学式、遅れないようにね】
戦友からの忠告に、いいねのスタンプを押してゲームを落とす。 時刻はすでに朝7時を回っていた。部屋のカーテンの隙間から、太陽の光が差し込む。僕は、ゲーミングチェアに背中を預ける。このまま、寝てしまいたい。
少し目を閉じる。
目を休めるだけで、とても心地いい。
ふと目を開けて時計を見ると、いつの間にか8時になっていた。
「……詰んだ」
お義父さんも、お義母さんもまだ寝ている。起こさないように、静かに廊下を歩き、リビングへと向かう。入学式は9時からだけど、集合時間は8時20分。急げば間に合うけど、寝不足で急いだら死ぬ。
落ち着いて身支度を整えて、なんならシャワーも浴びて、遅刻を前提に家を出た。
散っていく桜を気に留めることなく、僕は高校までの道を歩く。高校に到着したのが、8時30分。体調と相談しながら、なるべく早歩きで登校した。誰もいない校門、誰もいない生徒玄関、誰もいない廊下を歩き教室に到着する。
「ん?」
誰もいないはずだったけど、教室の前に、人がいた。
男の子?
女の子?
容姿からは判断できない。男子の制服を着ているけど、見た目は女子生徒に見えた。壁にぺったり張り付いて、教室のなかの様子を伺っている。何かに怯えているようにも見えるし、困っているようにも見える。とりあえず声をかけてみることにした。
「何やってるの?」
「しー」
生徒の目の下にはクマがあった。寝不足なのだろうか。
「なんとかバレずに教室に入る方法を探しているんだ。怒られるの嫌いだから」
生徒は深刻そうな表情で言う。男の子の声だった。
僕も教室の中の様子を確認する。後ろの方に空席が二つ。あそこが、僕たちの席だろう。先生はすでに教室のなかにいて、何やら話している。優しそうな女性の先生だ。あまり怒るタイプには思えないけど、男子生徒は怯えていた。
「……イケメンくん、何か作戦はないかな。なんとかバレないで教室に入る方法」
「まあ、あるにはあるよ」
「ホントに? 頼む。教えてくれ」
男子生徒は懇願するような目で、僕を見上げた。
「……作戦を説明する」
「はい」
「まず僕が教室の前から入って、みんなの注目を引き付ける。その隙に、君は教室の後ろから入って、バレないように自分の席に座る。名付けてベイト作戦だ」
作戦を伝えると、男子生徒は困ったような表情になる。
「そ、それだと、イケメンくんが怒られてしまうよ」
「いいよ。僕は怒られるとか、あんまり怖くない」
「……イケメンくん、性格までイケメンなんだね」
男子生徒はうるうると目に涙をにじませた。
「……その、イケメンくんっていうのやめてくれ。理由は恥ずかしいから」
「じゃあ、君の名前を教えてよ」
「
「うん。透水。オレは、
風船。珍しい名前だ。
「じゃあ、作戦通りに」
「うん!」
僕は教室の前の方に向かう。
タイミングを見計らい、目立つようにドアを開けると、教室の注目が僕に集まった。
「遅刻しました」
「……ああ、初凪透水くんですね。初日から遅刻なんて、いけませんね」
先生の視線の誘導に成功する。
教室の後ろのドアが静かに開き、風船がコソコソと入室した。
あとは、時間を稼ぐだけだ。
「昨日、遅くまでゲームして。知っていますか? メテオラ・オンユニバースっていうゲームです」
「知っています。先生もしていますから」
「ゲームとか、するんですね」
「……彼氏の影響です」
先生の言葉に、教室は盛り上がった。
チラッと教室の後ろを確認すると、風船は自分の席に到着していた。
上手くやったようだ。
「ゲームが理由なら、遅刻はいけませんね」
「ごめんなさい」
「反省しているのならいいですよ。自分の席は分かりますか?」
「はい。空いている席は一つなので」
教室の後ろにある、空席に向かう。
先生からは身体で隠れる位置で、風船にサムズアップを見せる。
風船も小さく頷いて、笑顔になった。
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