デジタルネットワークの魔法使い
🐉東雲 晴加🏔️
デジタルネットワークの魔法使い
『今日も暑いね、溶けそう』
『お昼のケータリング、めっちゃ美味しかった。咲と食べたい』
『今休憩中。虹が出てたよー』
既読がつかないと解っていながら恋人のトーク画面にまた文字を打ち込む。
俺は俳優業なんていう特に時間に不規則な仕事をしているから、大学生の恋人とのコミュニケーションはもっぱらスマホだ。
とは言え、自分は筆まめだけれど、残念ながら恋人はとても筆まめとは言えない。しかも相手は大変真面目な性格であるから、授業に集中したいと返信は朝の通学時か昼休憩、授業が終わってから。
授業中はもちろんの事、間の短い休憩中にもスマホを開くことは、ない。
ただ、恋人の返信を待つだけでは一日メッセージのやりとりすら皆無……なんて事になってしまうから、一方的だと解っているけどメッセージを送る。
なんてことの無い自分の呟きに、昼休憩になったら付く既読の文字。たまに返ってくる短い返信に満足してるなんて……自分でもびっくりだ。
恋人からは既読が付いても返信があったりなかったり。……けれどそれは相手が自分に対して冷たい、と言うわけではない事は知っている。
だって、最近気がついてしまった。
「あ」
撮影の合間に開いたスマホの画面。恋人とのメッセージを開いたら、いつもなら学校の時間なのにすでに既読になっている。
既読になっている事には触れずに、今飲んでいる缶コーヒーを写真に撮った。
『この珈琲美味しかった』
暫くしたら、返信はないけれど既読の二文字。相手はまさか、今自分がスマホを触っていると言う事が俺にバレていると言うことに気が付いていないのだろう。
……言う気もないけれど。
『もしかして咲も今休憩中?』と書きたいのをぐっと我慢して、今日のスケジュールを確認する。今日は会う予定はなかったけれど……19時に帰宅は厳しそうだが、20時ならなんとかなるか。
『今日さ、20時には帰宅できそうなんだけど……会えない?』
そう文字を打ってスマホをしまった。
仕事が終わってスマホを開くと、短く『行く』の文字。
唇の端が自然と上がって帰路に向かう足が早くなる。
マンションについてエレベーターが上がる表示のスピードを早く早くともどかしく見つめながら、ドアが開いて自宅のドアの前に恋人の姿を見つけた時には駆け足みたいになった。
「咲!」
息を弾ませながら思わず待ちきれなかったようにぎゅっと抱きつく。外でこんな事をするといつもは嫌がる恋人だけど、予想通り「どうしたの」と可笑しそうに今日は許してくれる。
「……今日は来てくれてありがと。どうしても咲に会いたくなっちゃって」
そう言った俺に恋人は一瞬びっくりしたような顔をして「光ってさ……たまに魔法使いみたい」と柔らかく微笑んだ。
そりゃそうさ、だってスマホに魔法をかけたからね。
悪い魔法使いはさっとドアを開けて恋人を家の中へ閉じ込めた。
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