第三十六話 次の策
夜。宿の二階、
四人は卓を囲む。茶はすでに冷めている。
「明日はどう接触するべきか、ですね」
六が口火を切る。
「人間を嫌っておるなら、伽耶が前に出るのは理にかなわんのう」
おもとが腕を組む。
「……だよね」
伽耶は唇を噛んだ。
中々進まない作戦会議。
⸻
そんな中、六が
「もしかして、同じ“人間嫌い”のハクさんだったら突破口を開けると思いませんか?」
六の視線がハクへ移る。
「……あたし!?」
ハクは目を伏せる。
「はい、共通点がある。というだけですが……私たちが話すより良いかもしれません」
「えぇ……得意じゃない。話すの、下手だから」
「どうせわしら三人が後ろにおる。適当に話せば良いだけじゃ」
おもとがぶっきらぼうに言った。
しばしの沈黙ののち、ハクはこくりと小さくうなずいた。
「渋い顔で承諾ですね」
六がわずかに笑む。
「では明朝、祠の奥へ」
⸻⸻⸻
翌朝。
約束どおり、コマは宿に顔を出したが同行はしない。「私はすでに友ですから」とだけ言い、縁側から見送った。
四人は藪の冷気を踏みわけ、昨日と同じ場所に立つ。ハクが一歩、前へ。
「……出てきて。話がしたい」
藪の奥、
「また人間の匂い」
ロッテの吐息は白く、草の先がぱき、と凍る。
「あたしは――人間が、嫌い」
ハクは正面から言った。
「だから、あんたの気持ち、少しはわかる……かもしれない」
ロッテのまぶたが、かすかに揺れた。
「……それで?」
「それでも、あたしは……いまは、この三人と一緒にいる。無理やりじゃない。自分で選んだ。選べると、少しだけ、気が楽になる」
風が止み、藪が耳を澄ます。
だが、次の一言が
「だから、えーっと……気が楽になって……だから」
ハクは混乱し始めた。
(……まずい)
一行がそう感じたその時。
ハクは懐から銭を一枚出した。
「これ、いる?」
(……)
一瞬、全員が固まる。
空気が裂けるように冷気が走り、ロッテの瞳に、拒絶が戻る。
「お前ら、一体何をしにきた」
吹き付けた寒風が土を一筋、白く凍らせる。
しかし伽耶は最後まで黙ったまま、ロッテの瞳を見つめている。
六がすぐに手のひらを下げ、合図する。おもとが踏み出しかけた足を止めた。
「……帰れ」
ロッテは短く告げ、藪の奥へ消えた。
宿へ戻る四人の背に、遅い朝日が当たる。
「なんじゃ!さっきのは!」
おもとがハクに怒鳴る。
「自分でもわからない!でも、何枚も集めれば握り飯が食える!」
「はぁ!?握り飯の前にお前を喰ってやろうか!」
「まぁまぁ、宿で次の策を考えましょう」
六が二人をなだめる。
伽耶は考え事をしているように黙ったまま歩いていた。
⸻
座敷では、湯気の立つ茶碗を前にコマが待っていた。
「様子はわかりました」
コマは穏やかに言い、いつものように情報を一つだけ差し出そうとする。
「そうそう、彼女は――蘭(オランダ)の生まれです」
「……待って」
伽耶が思わずコマの袖を取った。
「小出しは、もうやめて。ちゃんと教えて。相手のことを知らないまま“友達になりたい”なんてさ……」
伽耶は一息ついて続ける。
「それって逆に相手を傷つけるかもしれないって思う。私は、この世界のことも、みんなのことも、知らない事が多くて、本当はまだ怖い。だからさ、おもとちゃんとハクちゃんの因縁だって、いつかちゃんと聞きたいって思うし、その上でお互いを尊重したい。それが友達でしょ?だから――ロッテちゃんのこともさ、全部教えて欲しい……です」
コマは伽耶の手を見下ろし、ゆっくりと外した。その瞳に、ひとときの厳しさが宿る。
「……すべてを聞く覚悟が、ありますか」
「あ……ごめんなさい!勢いで言っちゃったけど……聞いてみないと、わからないです……」
伽耶は我に返った。
コマは縁側へと移り、春の光を背に座り直す。
「では、話しましょう。私の特別な友のこと」
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