森の呪縛〜影に消えた兄妹〜

白雪 愛琉

第1話 森の呪縛〜影に消えた兄妹〜

       目次


プロローグ — 森に消えた青年

第1章葵、兄の行方を追い森へ踏み入る

第2章藤崎直哉、館の秘密と呪われた伝承

第3章都会からの使者 北条玲司の到着

第4章木こり・真壁仁の不可解な目撃証言

第5章春原佐江、禁断の薬草と呪いの根源

第6章森の深淵に潜む「守り神」の影

第7章葵が残した最後の手がかり

第8章館の中に渦巻く疑惑と不安

第9章真壁の失踪、呪いの儀式の始まり

第10章北条玲司、迫る闇の真実に挑む

第11章生贄の儀式と森の呪縛

第12章絶望の果てに — 失踪の真相

エピローグ — 時を超える囁き




登場人物(20年前)


藤崎 直哉(ふじさき なおや)


館の初代管理人(当時50代後半)。

地元生まれで森の伝承を知る数少ない人物。温厚で落ち着いた口調だが、何か重大な秘密を抱えている。

森に関わる古い言い伝えを守り、館の管理を任されている。


北条 玲司(ほうじょう れいじ)


若き探偵見習い(当時25歳)。

都会から失踪事件の調査のために派遣される。

好奇心旺盛で大胆、時に無鉄砲な行動も目立つが、根は真面目で責任感が強い。


三上 葵(みかみ あおい)


地元の少女(当時17歳)。

兄・蓮を探すため、森へ足を踏み入れる。兄妹の絆は深く、強い意志を持つ。

失踪前、何か重要なことに気づいていた様子。


三上 蓮(みかみ れん)


葵の兄(当時19歳)。

森で伐採作業中に失踪。生死は不明。

責任感が強く、家族思いの性格。


真壁 仁(まかべ じん)


木こり(当時30代前半)。

森の奥で何か得体の知れないものを目撃したと噂されている。

その後、謎の失踪を遂げる。


春原 佐江(すのはら さえ)


植物学者(当時33歳)。

森に伝わる薬草の調査に訪れた。森の呪いの根源に気づき、事件と関わっていく。

現代編での春原の師匠的存在。


片桐 誠一(かたぎり せいいち)


30代。

藤崎直哉の養子で館の雑務を任されている。

無口だが観察力に優れ、館と森の秘密に深く関わっている。のちに現代編で重要な役割を担う。



プロローグ — 森に消えた青年


森は静寂に包まれていた。

風の音すら吸い込むように飲み込むその闇は、何十年も変わらず、訪れる者を拒んでいた。


その日、三上蓮はいつもと同じように森へ足を踏み入れた。

伐採作業に従事する若者の姿は、村の人々にとっても珍しくはなかった。

だが、その日の彼の背中には、いつもとは違う、妙な影が落ちていた。


「蓮、おい、休憩にしようぜ」

木こりの真壁が声をかける。

だが蓮は返事もせず、ただ森の奥へと歩みを進めていった。


その日を境に、蓮の姿は二度と見られることはなかった。


村に暗い噂が広がる。

「森の守り神の怒りだ」

「昔から生贄を捧げねば、森は人を呑み込む」


しかし、誰もその真偽を確かめようとはしなかった。


藤崎直哉は館の縁側に腰掛け、遠く森の闇を見つめていた。

彼の瞳には、深い哀しみと、隠された秘密の影が揺れていた。


時は動き始める。

静かに、そして確実に。



第1章 葵、兄の行方を追い森へ踏み入る


薄暗い朝靄が立ち込める村の小道を、三上葵は足早に駆けていた。

兄・蓮が消えてから、既に幾日が過ぎたのか、自分でも数えきれなくなっていた。


「あの森に入れば、きっと何か見つかるはず……」

胸の奥でくすぶる不安を振り切るように、葵は決心した。


家族や村人たちは口を閉ざし、森の話題を避ける。

だが葵の心は揺るがなかった。兄がまだどこかで生きていると信じたい一心だった。


森の入口に立つと、冷たい風が葵の頬を撫でた。

そこには、年老いた藤崎直哉の館が静かに佇んでいる。


「気をつけろよ、森は簡単に人を返さない」

藤崎の声が耳の奥に響く。

その言葉には、単なる警告以上の意味が込められているようだった。


一歩一歩、森の奥へと進む葵の背中に、何かが潜む影がひそかに蠢いていた。



第2章 藤崎直哉、館の秘密と呪われた伝承


館の古びた木製の扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んだ。

藤崎直哉はゆっくりと中へ足を踏み入れた。

その目には、長年の重荷と秘めた覚悟が浮かんでいる。


「この森には、決して口にしてはならぬ伝承がある」

彼はそう呟いた。


それは、森の守り神と呼ばれる存在の話。

村人たちは長い間、森を畏怖し、決して深く踏み込もうとはしなかった。


だが、その守り神とは、ただの伝説ではなかった。

藤崎は、その正体を知っていたのだ。


「生贄を捧げねば、森は怒り狂い、人を呑み込む」

その呪われた儀式は、秘密裏に館の奥で繰り返されてきた。


直哉は自らもその儀式の一端を担う者として、深い罪の意識を抱えていた。

彼が守ろうとしているのは、村の平穏なのか、それとも自らの秘密なのか――。


館の壁に刻まれた古い祈祷文が、闇の中でひっそりと揺れていた。



第3章 都会からの使者 北条玲司の到着


湿った土の匂いと、どこか重苦しい空気が漂う小さな駅に、一人の若者が降り立った。

北条玲司、25歳。都会の喧騒とは程遠い、この田舎の村に派遣された探偵見習いだ。


彼の目は澄んでいて、好奇心に満ちている。

しかし、その瞳の奥には、まだ見ぬ闇への無防備さが潜んでいた。


駅前で迎えに来ていた藤崎直哉と対面する。

「よく来たな、北条くん」

藤崎の声は穏やかだが、どこか隠しきれない緊張感が漂っていた。


玲司は事件の詳細を聞くうちに、ただの失踪事件では済まされない何かが、この村に根付いていることを感じ始める。


夜、館の外に立ち、玲司は森の暗闇を見つめた。

その奥から、遠くかすかな囁きが聞こえるような気がした。


「この森には、触れてはいけない秘密がある――」

玲司の冒険は、まだ始まったばかりだった。



第4章 木こり・真壁仁の不可解な目撃証言


真壁仁は、森の中で長年木を伐ってきた男だった。

彼の手は粗く、顔には深い皺が刻まれている。

村の誰もが彼の言葉に耳を傾けるほど、真壁の話には説得力があった。


だが、最近の彼は何かに怯えているように見えた。

ある夜、真壁は森の奥で得体の知れない光景を目撃したと言った。


「森の深みで、異形の影が踊っていた……」

その言葉は村の噂を大きく揺るがせた。


だが、彼が何を見たのかは誰にも分からなかった。

その後、真壁は忽然と姿を消す。


彼の残した痕跡は、森の呪いを示すかのように、不気味な符号を残していた。


北条玲司は、彼の話の真偽を確かめようと森へ向かう決意を固める。


だが、森の闇は深く、彼を待ち受けるものは想像を超えていた。



第5章 春原佐江、禁断の薬草と呪いの根源


薄明かりの中、春原佐江は慎重に森の地面を探った。

彼女の専門は植物学。だが、この森に生える薬草は、どこか異質で、常識を超えた力を秘めているようだった。


「この薬草……ただの治癒効果ではない。何かもっと、深いものが隠されている」

佐江の声は震えていた。


伝承によれば、森の呪いはこの薬草と密接に結びついている。

秘密裏に生贄の儀式で使われ、その力が代々受け継がれてきたのだ。


彼女は薬草の一部を持ち帰り、分析を始める。

だが、その夜から奇妙な夢に苛まれ、森の囁きが頭から離れなくなる。


呪いはただの迷信ではなかった。

それは、この森に根付いた“生きた闇”そのものだった。


春原佐江の調査は、やがて村の深い秘密へと彼女を引きずり込んでいく。



第6章 森の深淵に潜む「守り神」の影


森はますます深く、暗く沈み込んでいった。

そこに存在すると噂される「守り神」は、ただの伝承などではなかった。


村人たちは口を閉ざすが、真実は少しずつ形を取り始める。

「生贄を捧げねば、森はその怒りを我々に向ける」


藤崎直哉がかつて語った言葉が、胸に重くのしかかる。


北条玲司は森の奥で得体の知れぬ気配を感じ、背筋が凍った。

「この影は、生きている――」


やがて、森の闇から浮かび上がる巨大な影。

それは人の形をしているようで、しかし、どこか異様で、現実のものとは思えなかった。


「守り神」の正体、それは森の呪いそのものだった。

恐怖は形を持ち、村を覆い尽くそうとしていた。


玲司は己の小さな光を頼りに、深淵へと歩を進める。



第7章 葵が残した最後の手がかり


葵の部屋は、彼女の焦燥と決意が詰まったまま時を止めていた。

壁には兄・蓮の写真が貼られ、その隣には手書きのメモや古びた地図が散乱している。


「ここに、全ての謎の糸口があるはず……」

北条玲司はそっとそのメモを手に取った。


それは森の奥の古い祠の場所を示すものだった。

葵が兄の行方を追い、最後に辿り着いた場所。


しかし、その痕跡は薄く、まるで誰かに消されたかのように乱れていた。


葵の心の声が、紙の端に赤くにじんでいる。

「真実を知りたければ、恐れずに足を踏み入れよ」


玲司は、その警告を胸に刻み、再び森の闇へと足を進めた。


だが、その先に待ち受けるものは、想像を遥かに超える恐怖だった。



第8章 館の中に渦巻く疑惑と不安


館の中は冷たく、空気は重苦しく淀んでいた。

北条玲司が歩を進めるたびに、木の床が軋み、壁にかかる古びた絵画が彼を見下ろすようだった。


藤崎直哉の目は、どこか遠くを見つめているようで、何かを隠しているようにも感じられた。

館に漂う不穏な気配は、まるでその壁の奥に秘められた呪いが染み出しているかのようだった。


「君は本当に、この森の秘密を解き明かしたいのか?」

藤崎の声は静かだが、どこか警告を含んでいた。


玲司は疑念を抱きながらも、真実を求めて歩みを止めなかった。

館の奥、暗い地下室への扉が静かに開かれるのを彼は感じ取っていた。


その場所には、村を支配する呪いの核心が眠っている。


不安と疑惑が交錯する館の中で、玲司の運命は大きく動き出す。



第9章 真壁の失踪、呪いの儀式の始まり


森は深く静まり返っていた。

真壁仁は、いつものように斧を肩に掛け、伐採作業のために森の奥へと足を踏み入れていた。

だが、その日は違った。彼の眼差しには、何か得体の知れないものへの恐怖が宿っていた。


数日前に見たあの異形の影。

それが何なのか、答えは見つからないままだったが、確かに森の奥で何かがおぞましい儀式の痕跡を残していることだけは分かっていた。


真壁は不安を胸に、森の奥深くへと進んだ。

木々の間から差し込むわずかな光も、次第に陰りを帯びていく。


そして彼は、古びた祠の前に立ち尽くした。

そこには血の跡が点々と続き、儀式に使われたと思われる古びた縄と奇怪な文様が刻まれた石板があった。


その時、背後から低いうなり声が響いた。

振り返ると、朧げな人影がゆっくりと近づいてくる。

それは人の形をしていたが、その肌は黒く、眼は赤く光り、まるで森そのものが生きているかのようだった。


「生贄の儀式……」

真壁の喉からは、恐怖に震えた呟きが漏れた。


彼は逃げ出そうとしたが、足が地に縛りつけられたように動かない。

影は彼に近づき、ゆっくりと腕を伸ばした。


翌朝、村では真壁の姿が消えたことが発覚した。

彼の残した斧が、祠の前にぽつんと置かれているだけだった。


藤崎直哉は深い溜息をつきながら、館の奥へと消えていった。

「呪いは動き出した……」


北条玲司は森の暗闇を睨み、拳を握り締めた。

「ここからが、本当の戦いだ」


森に潜む闇は、すでに誰にも止められない猛威を振るい始めていた。



第10章 北条玲司、迫る闇の真実に挑む


真壁の失踪から日が経つにつれ、森の空気はさらに重く、冷たくなっていった。

北条玲司は館の書斎で、積み重ねられた古文書や葵が残した手がかりのメモを見つめていた。

その文字の一つ一つが、まるで血のように彼の心に染み込んでいく。


「生贄の儀式……これはただの迷信ではない。確かな証拠がここにある」

玲司の声は震えながらも決意に満ちていた。


夜が訪れ、玲司は再び森へ足を踏み入れた。

木々はざわめき、闇が彼を包み込む。だが、彼の瞳は決して揺らがなかった。


「真実を暴かなければ、誰も救えない」

そう自分に言い聞かせ、足元の落ち葉を踏みしめる。


森の奥深くで、玲司はついに儀式の跡を見つける。

黒く焦げた跡、奇妙な文様の石板、そして血の跡。

そこには、藤崎直哉が長年守り続けてきた暗い秘密が隠されていた。


しかし、そこに現れたのは藤崎自身だった。

彼は静かに、だが重い口調で語り始める。


「この森の呪いは、村を守るために生まれたものだ。生贄は避けられぬ宿命……だが、それを終わらせる鍵もまた、ここにある」


玲司は藤崎の話を聞きながら、次第に森の闇がただの恐怖ではなく、複雑な悲劇の連鎖であることを理解していく。


だが、時間は残されていなかった。

森の呪いは、今まさに解き放たれようとしていたのだ。


玲司は拳を強く握りしめ、未来を切り開くため、最も恐ろしい場所へと足を踏み入れる決意を固めた。



第11章 生贄の儀式と森の呪縛


深い霧が森を包み、静寂はまるで息を潜めた獣のように重くのしかかっていた。

北条玲司は祠の前に立ち尽くし、そこで何が待ち受けているのか、まったく予測がつかなかった。


だが、彼の眼前で起こった光景は、これまでの理解を覆すものだった。


「お前が生贄だ」


藤崎直哉の声が冷たく響いた。玲司は振り返り、驚愕した。

藤崎の背後には、三上葵の姿があった。だが、その表情はもはや少女のものではなく、冷酷で、まるで何者かに操られているかのようだった。


「葵……?」玲司は呟いた。


「私はずっと、この森の呪いに囚われていた。兄が消え、私もまたこの森の生贄となる運命だと思っていた」

葵の声は震えていたが、その瞳には不思議な輝きが宿っていた。


「でも違った。本当の生贄は……」


藤崎が冷たい笑みを浮かべ、真実を告げる。

「お前、北条玲司こそが選ばれし生贄だ。長きに渡る呪いを終わらせるために、この森はお前を求めていた」


玲司は震えながらも、その意味を理解した。

森の呪いは生きていて、犠牲者を選び、呪縛を繰り返す。

そして藤崎は、長年その呪いを管理しつつ、自らの罪から逃れるため、犠牲者を待っていたのだ。


だが葵は、そんな運命に抗うために藤崎の掌から抜け出し、玲司に真実を告げたのだった。


「あなたは森を抜け出す鍵。呪いを解くために、生贄になることは拒否して」


闇の中で、玲司は決断を迫られる。

生贄として森の深淵に沈むか、それとも葵と共に呪縛に抗い、新たな未来を掴むか――。


森の呪縛は、今、最も激しい形で彼らを襲いかかろうとしていた。



第12章 絶望の果てに — 失踪の真相


呪いの渦中で揺れ動く心。

北条玲司は、森の闇と己の運命に抗いながらも、最後の真実を追い求めていた。


葵と共に辿り着いたのは、深く隠された森の祠の地下。

そこには、失踪した三上蓮、そして真壁仁の痕跡が残されていた。


だが、彼らはもはや「人」ではなかった。

呪いの儀式によって変わり果てた姿、まるで森の一部と化しているかのようだった。


「彼らは森の守り神の一部となったのだ」

葵は震える声で告げた。


絶望の淵で、玲司は理解した。

森の呪いは生贄を奪うだけでなく、その魂を喰らい、永遠に森に縛り付ける。


しかし、呪縛を断ち切る方法もあった。

それは、呪いの根源である秘密の儀式を破壊し、森の「守り神」の真実を暴くこと。


玲司と葵は、最後の力を振り絞り、森の深淵へと歩みを進めた。


やがて、闇の中から囁きが聞こえた。

それは過去の犠牲者たちの声だった。


「ここに居てはならぬ……」


森は静かに揺れ、呪いの終焉を告げる鐘の音のように響いた。


未来は、まだ見えない。

だが、彼らは確かに一歩を踏み出したのだった。



エピローグ — 時を超える囁き


森の呪いがひとまずの終焉を迎えた後、時は流れた。


藤崎直哉の館は変わらぬ姿でそこに佇み、深い森の影は静かに息を潜めている。

しかし、過去の傷跡は完全に消えたわけではなかった。


館の新たな管理人となった片桐誠一は、古い書物と記録を整理しながら、かすかな囁きを耳にした。

それは、かつての生贄たちの魂が時を越え、未来へと訴えかける声だった。


「忘れてはならぬ、呪いは完全には終わっていない」


現代の世界に生きる彼らに、新たな試練が迫っていることを示唆するように。


片桐は決意した。

「過去の呪縛を断ち切り、真実を紡ぐために」


森の囁きは、まだ続いている。

時を超え、次なる物語へと続いていくのだ。

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