封印の剣と千年の約束〜世界を救ったはずなのに、目覚めたら俺が歴史的裏切り者扱いされてた件〜

和水

第1話 千年の眠りから目覚めた


 ――暗い。

 どこまでも、どこまでも、深く沈むような闇だった。


 勇者アレンは、永遠に続くかと思える夢の底で、意識のカケラをつなぎ止めていた。

 最後に覚えているのは、魔王との最終決戦。

 仲間たちの叫び声、焼け焦げた大地、そして――封印の剣が光を放つ瞬間だった。


「……あの時、俺は……」


 何かを思い出そうとした瞬間、眩しい光が瞼を焼いた。


「わっ……、びっくりした⁈」

「突然現れるんだもの!」

「ん?――なにが……おっ、起きたの?」


 耳に飛び込んできたのは女性の声だった。

 アレンは重たい瞼をこじ開け、上半身を起こそうとしたが、全身が石のように固まっている。

 見慣れぬ天井が視界に飛び込み、すぐ横では、ギルド受付嬢リリィがこちらを覗き込んでいた。


「えっ……、もしかして、あなたが“伝説の裏切り勇者”アレンさん?。……なんで生きてるの?、凄くない……!?」


「……は?」


 いきなり“裏切り勇者”呼ばわりである。

 アレンは寝起きの脳でゆっくりとその言葉を反芻し――すぐに叫んだ。


「裏切り者って誰がだっ!! 俺は勇者だぞ! 世界を救うために――」


「いやいや、歴史書にはそう書いてあるんです。

『勇者アレン、魔王に寝返り世界を滅亡寸前に追いやるも、仲間の手で封印された』って。

 おかげで私たち現代人は、あなたのこと“裏切り勇者”って呼んでんの」


「……なにそれぇぇぇぇぇぇ!?!?」


 アレンは勢いよく跳ね起きた――つもりだったが、足に力が入らず、転げ落ちた。


「いってぇぇ……」


「おっと、無理しないで、千年寝太郎さん」


「……千年?」


 その言葉に、アレンの動きが止まる。


「千年って、まさか……」


「はい。

 ここ、王都アステリア歴一二〇〇年。あなたが封印されたの、紀元二百年頃だから……ちょうど千年ジャスト。

 よくぞご無事で」


 リリィは軽い調子で言うが、アレンは耳を疑った。

 千年――。

 自分が眠っていた時間の長さを理解した瞬間、頭が真っ白になった。


「ちょ、ちょっと待て。

 じゃあ、魔王はどうなった!?

 俺たちは封印の剣を使って……」


「あー、魔王さん? 今、普通にパン屋やってますよ」


「パン屋ぁぁぁぁぁっ!?!?」


「“魔王ベーカリー”って名前で王都でも大人気。

 クロワッサンがめちゃくちゃ美味しいです。」


「俺の千年返せぇぇぇぇぇ!!」


 頭を抱えて叫ぶアレンに、リリィは淡々と追い打ちをかける。


「あなた、今の時代じゃ最弱クラスだからね」


「は?」


「だって、千年前のスキルなんて全部“旧式”扱いだし。

 今の冒険者は全員最強ですよ? 私でさえ、剣を振るだけで一体くらいドラゴン倒せるし……」


「それって普通じゃねぇぞ!!」


 アレンは頭を抱えた。

 世界を救ったはずなのに、千年後の世界では裏切り者扱い。

 魔王はパン屋。

 人類は最強進化。

 おまけに、自分は最弱。


「いや、これ絶対間違ってるだろ。

 俺、勇者だぞ!? 魔王を倒しかけたんだぞ!?」


「はいはい。そういう人、最近多いんです。“自称・封印勇者系”」


「あなた本物だわ!!」



 そこへ、不意に“声”が聞こえてきた。


――〈久しいな、勇者アレン〉


「……え?」


 聞き覚えのある声だった。

 周囲を見回すが、リリィは眉をひそめて「なに?」と首をかしげる。


「今の声……お前じゃないのか?」


「え、私なんも言ってないですよ」


――〈ここだ、ここ。お前の腰にぶら下がってるその剣だ〉


 アレンは慌てて脇に立てかけられた一本の剣を手に取った。

 それは――かつて魔王を封じた伝説の聖剣だった。


「……しゃ、喋ったぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


――〈そりゃ喋るわ。お前、俺と千年一緒にいたんだぞ?〉


「いやそういう関係じゃねぇぇぇぇぇ!!」


 剣はさらに続けた。


――〈よく聞け、勇者アレン。

 魔王を永遠に封じることは失敗した。

 あの封印は“魔王を倒す”ためにしたことだが……

 魔王は百年前に封印が解けちまったんだ。〉


 〈だが、魔王よりも遥かに力がある

 もっとヤバい“何か”が目覚めようとしている〉


「……どういうことだ?」


――〈千年前にも封印が解けかけたようだが、たまたまお前と魔王の戦いで封印は護られた……その名は……“虚無竜”だ〉


「虚無竜……?」


――〈世界を滅ぼす存在だ。

 そして今、その封印が……なぜか解けかけている〉


 アレンは剣を握りしめた。

 目の前のリリィがのんきに「パン食べます?」とか言っているのが信じられない。


 千年後の世界は平和そうに見える。

 だが、その裏では再び滅びが迫っていた――。


「よし、わかった。

 俺は再び勇者として立ち上がる!!」


「いやあなた、さっき最弱認定されたばかりですよ」


「……まずはパン屋に行こう」


「えっ、結局そこ?」

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