第9話 ヒロインとの関係
◇
……一週間後。
「……なあ、枝垂」
「んん?」
ゴールデンウィークが明けてしばらくした頃。放課後になって、頼人が我が家を訪ねてきた。
彼は昔からちょくちょく放課後に枝垂の家に遊びに来ては、部屋でゴロゴロしたりゲームをしたりしていた。今も国民的モンスター育成対戦ゲームで一緒に遊んでいる。
「お前、ソニアさんと付き合ってんの?」
「……なんだよ急に?」
あまりにも突拍子のない質問に、危うくコマンドを間違えそうになった。猫騙しはもう撃てないのに……無駄行動をしてしまうところだった。
「いや、だってさ。この前ソニアさんとデートしてたじゃん」
「……あれはデートじゃないよ」
厳つい猫型モンスターに暴言を吐かせて交代しようとするが、守られたせいで交代出来ず、そのまま範囲攻撃で一方的に蹂躙された。状況は絶望的だ。
それはさておき。先日のソニアとのデートを目撃されたことについては、亜加里に釈明するチャンスは訪れなかった。というか、彼女から露骨に避けられてるのだ。一応、頼人にはデートじゃないと言い張ったのだが。
「いや、さすがに無理があるだろ。本屋だけじゃなくてゲーセンも一緒に行ったんだろ? それでデートじゃないは通らねぇよ」
後続のモンスターへの範囲攻撃を防ごうとしたら、単体攻撃でサクッと狩られてしまい、そのまま敗北した。
ゲーム機を放り出し、どうしたものかと天井を仰ぐ。ソニアがゲーセンの袋を持っていたので、あの日の行動は割れている。話せていない亜加里だけじゃなくて、頼人も全然納得してくれないのだ。
「本当に付き合ってないのか?」
「出会ってひと月で付き合う程、フットワーク軽くないよ」
「長さの問題でもないと思うけどな」
ゲーム機を拾って、次の対戦を始める。今度は別のパーティにしよう。
とにかく、頼人だけでも誤解を解消したい。本当は亜加里の方もそうしたいところだが、頼人の協力がないとそれも難しいだろう。
「じゃあさ。俺がソニアさんにアプローチしてもいいのか?」
「好きにすれば?」
新しい対戦が始まって。モンスターの選出を考えながら、頼人の問い掛けにそう答えた。
決まりきっている問い掛けに対して考えることなどない。返答は片手間で十分だ。
「ほんとにいいのか?」
「僕の許可が必要な話でもないでしょ」
会話をしながらコマンド選択をする。
別に付き合ってる訳でもないのだがら、頼人がソニアに懸想しようが気にする道理がない。
「そっか。……付き合ってないにしても、実はソニアさんのことがー、とか言い出すかと思ってたわ」
「それもないよ。―――そんなことより、亜加里を何とかしてよ。あれから全然口を利いてくれないし」
「あー……ま、そっちは良い感じに言っておくわ」
亜加里との仲立ちを頼みながらコマンドを決定した。こちらの攻撃は耐性変更システムで受け切られ、そのまま殴り返されてこちらのモンスターが倒れる。
「にしても、ソニアさんのどこが良かったんだ?」
「顔と胸」
「素直だなぁ……」
そのまま後続のモンスターも倒され、またも敗北。今日はどうにも調子が悪い。
「悪いかよ?」
「いいんじゃない? 女子の前で言わなければ」
気まずそうな頼人に、ゲーム機を再度放り出しながら答えた。
「見目麗しい女性に惹かれるのは正常だよ」
「お前が言うと説得力がねぇな」
「そうかな?」
頼人をフォローしたつもりが、ジト目で睨まれてしまった。解せぬ。
「だってお前、女の趣味悪いじゃん」
「怒られるよ?」
「事実を言っただけだろ」
心外な言い分に、顔を顰めるのを我慢できなかった。
◇
……翌日。
「おはよう、亜加里」
「……おはよ」
朝。教室で亜加里と顔を合わせた。昨日までは話し掛けても逃げられたのだが、挨拶に応じてくれたのは頼人が取り成したからだろう。
「焦ったよ。なかなか口を利いてくれなかったから」
「……仕方ないじゃない。あんた、ソニアさんと付き合ってるんでしょ?」
しかし、誤解はそのままになっていた。頼人はそこまで面倒を見てくれなかったらしい。
「それは勘違いだよ」
「ふぅん?」
釈明したものの、亜加里は信じていない様子だった。
とはいえ、彼女が疑り深いのは今に始まったことじゃない。言葉を尽くすよりも、行動で信じさせるしかないだろう。
「それに、なんで付き合ってたら避けるのさ?」
「当たり前じゃない。彼女持ちの男に馴れ馴れしくするなんて、そこまで非常識じゃないっての」
今まで会話を拒否してきたのは、ソニアに対する配慮だったらしい。確かに、交際が本当だったならばその理屈も分からなくはない。
「……そういうの、止めて欲しいな」
「はぁ?」
とはいえ、理解と納得は別物だ。どんなに理に適っていようと、承服できないことはある。これはそういう話だ。
「もし仮に彼女を作るとしても、亜加里と話したくらいでとやかく言うような子は、こっちから願い下げだよ。……だから、もう二度とこういうことはしないで」
「……分かった」
真剣さを滲ませた声でそう言えば、亜加里は大人しく頷いた。これでこの件は一旦解決だ。
「じゃあ、またね」
亜加里にそう告げて、自分の席に戻った。もうすぐ授業が始まる。
「シダレ……アカリとは、話せましたか?」
席に戻ると、ソニアが不安げな表情でそう話し掛けてきた。
亜加里が余所余所しかったことについて、彼女は責任を感じていたみたいだ。ソニアと一緒にいるところを見られて以来あの調子なので、それも無理ない。
「大丈夫だったよ」
「良かったです……」
和解したことを伝えると、ソニアは安堵の息を漏らす。
幼馴染との些細な擦れ違いも解消されて、連休で弛んだ気分も平常運転に戻りつつある。
ここから先の学校生活は平和であって欲しいと、そう願うのだった。
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