正反対の双子
「ご紹介します! はい、お名前どうぞ!」
お揃いの制服を着る、金髪紅眼の女の子と、銀髪翠眼の男の子。
「白瀬
「……白瀬
双子なのだろう、同じ顔だが、表情が違う。
秋穂ちゃんはきらきらとした瞳で、冬樹くんは怪訝そうな瞳で俺を見ている。
「はじめまして。小街藍緒です」
屈んで目線を合わせると、秋穂ちゃんが白瀬さんの腕を掴む。
「カレシですか!」
「クラスメイトです! 今日だけ、お料理作りに来てくれたの」
ぽっかり口を開けたまま、秋穂ちゃんは俺を眺めて。
「おりょうり作れるの⁉ ハルちゃんでもできないのに!」
「そう、作れるの。ハルちゃんでもできないのに」
「すごーい!」
よほど感動的だったのだろう、ぴょんぴょこ跳ねている。
言葉の刃を受けて胸を押さえる白瀬さんはいいとして、冬樹くんはといえば。
「……うちの姉がご迷惑をおかけしました。たぶん、ケガの手当てもお兄さんが」
「い、いえいえ、とんでもないです。こちらこそ、突然お邪魔してしまって」
「冬樹さんちょっと、あたしよりしっかりしてるのやめて?」
なんだこの双子、面白可愛すぎる。同じ顔なのにあまりにも性格が正反対だ。
しかし……この二人+一人の世話を見るとなると、なるほど骨は折れそうだ。
「あたし部活行かなきゃだから、小街くんの言うこと聞いてね。仲良くできる?」
「うん!」
「だいじょうぶ」
秋穂ちゃんは元気にサムズアップで、冬樹くんは静かに頷く。
「よし、よかった、さすがウチの子たち。じゃあ二人は、着替えてこようか」
「「はーい」」
心配があったらしい白瀬さんはしかし安堵に息をつき、スマホを取り出した。
「夏凪には連絡しとくね。……あ、写真撮ってもいい?」
「ああ、俺の顔知らないもんな。いいよ」
「よし。カッコよく撮っちゃいますよ~」
言いながら俺の隣に立つ白瀬さんは――俺の腕を抱き寄せた。
「え?」
「ほい、ぱしゃりんこ」
スマホの内カメラには、俺と白瀬さんが並んで映っていた。
「え、な、なんでツーショット?」
「あたしが映ってたら信用できると思って」
理解はできる……けど、心臓に悪いにもほどがある。
学園中の生徒が近づきたくても近づけない、あの白瀬春乃がこの距離にいる。
「あはは、小街くん変な顔~。――あ。この写真、欲しい?」
驚いて変な顔をしている俺をそのまま送りやがった白瀬さんは、俺の顔を覗く。
写真が欲しいかどうか。欲しいに決まっている。だが――もし万が一、誰かにこの写真を見られてしまったら。
白瀬さんに迷惑はかけられない。
「要りません。それより、早く行かないと」
「……あ、そうだった! じゃあみんなのこと、お願いね」
心なしか、白瀬さんは一瞬だけ寂しそうな顔をして、鞄を勢いよく背負って玄関の方に走り出す。
「白瀬さん」
「ぅお――っと、なぁに?」
急に止まって振り返る白瀬さんに、俺は手を振りつつ。
「いってらっしゃい」
言うと白瀬さんは朗らかな笑顔で、俺の数倍大きく手を振る。
「いってきます! 19時には帰る!」
……余韻に浸っている場合ではない。やることをやらなければ。
野菜反対派の冬樹くんがいるなら、入れ方は工夫する必要がありそうだ。
玉ねぎは細かめに、にんじんはすりおろすことにしよう。
「いやまず、米炊いてねぇな」
危ない、オムレツだけ提出するハメになるところだった。
米も全部未開封で……『いっとうせい』……高級品じゃないか大富豪め。
「うちのキッチンに人が立ってるなんて」
「早いね。今ご飯炊いてるから、もう一時間くらい待てる?」
気づけば冬樹くんが足元にいたのでそう聞くと、彼は小さく頷く。
「じゃあお兄さん、あそぼ」
「おお、何する?」
歳相応なお誘いに逆に戸惑いながら返事をすると、冬樹くんはテーブルの方に移動し、盤を用意する。
「……将棋?」
「できますか?」
「一応。いいよ、相手になろう」
始めに選ぶのがそれならば、自信があるのだろう。
「先手、どうぞ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
小学生とは思えない風格と余裕を見せる冬樹くんは、確かに上手だった。
定石を押さえ、驚くほどミスがなく、それでいて一手にかかる時間が短い。
本気で取り組んでいる様子がうかがえるが――しかし。
「……ん……参りました」
「ありがとうございました」
わざと負けるなんて彼には侮辱になるだろう。
あごに指をあて、対局を振り返っているだろう冬樹くんは、俺を見上げた。
「びっくりしました」
「いや、こっちのセリフだよ。大人とやってるかと思っ――」
「手加減されてるのに、負けちゃったから」
「……おっと?」
最終的にこちらが勝ったにも関わらず、手加減していたと気づけるものなのか。
あからさまな動きはしていなかったはずだけど、冬樹くんの視線が怖い。
「本気で、やって?」
「ごめんなさい」
そう言われては、と準備を進める時、軽快に階段を下りる音が聞こえた。
「アオくん、おなかすいた~」
と、距離感の測り方が姉譲りな秋穂ちゃんが俺の袖を引く。
「秋穂、あと1時間だって」
「いや、何か作るよ。俺の代わりに将棋やってくれる?」
「やった! でも秋穂、しょーぎわかんないよ?」
「俺の言う通りに動かしてくれたらいいよ」
駒と数字の読み方を教えると、秋穂ちゃんは一度で完璧に理解してくれた。
白瀬家バグってないか。
「先手はまた、お兄さんでいいよ」
「はいよ。じゃあ、7八飛車」
「ひしゃー、これ! すごいとぶ」
俺は空で将棋を指しつつ、材料を用意。
マグカップにホットケーキミックスと牛乳、それから砂糖を勘で入れ、混ぜる。
レンジに放り込む。後は待つだけ。
「アオくん、見して!」
「あれ、将棋は?」
「見てきていいよって言ってくれた!」
俺の方まで来た秋穂ちゃんによればどうやら、冬樹くんは今一人で駒を動かしているらしい。それでいいんだ。
「はい、見える?」
「ん~……あ、ふくらんでる?」
秋穂ちゃんを抱きかかえてレンジの中を見せると、それはそれは輝いた瞳で俺を見てくれる。
「すごい……ふしぎ。いいにおい」
うちの子にしてもいいかな。
さて、できあがったマグカップ蒸しパンにフォークを刺してテーブルへ。
冬樹くんの正面に座ると、秋穂ちゃんは俺の膝の上に座る。
警戒心、どこに忘れてきたんだ。
「たべていい?」
「召し上がれ。――5五竜」
「いただきます。……ふぁ、おいひ~もちもち~――あ、はい、これです」
身体を横に揺らす秋穂ちゃんを支えつつ、油断できない盤を眺める。
冬樹くんは比較的長い時間考え、小さく息を吐いた。
「……6七玉」
よし、問題なく。あとは金を――
「ん、アオくんこれ、ここ?」
「そうそう7七金……よく分かったね⁉」
「ホント⁉ やった!」
駒の動かし方も、勝ち方も、教えてない。
見ながら……覚えたのか?
「参りました。……はぁ、悔しい」
「ぬへへ、フユくんに勝っちゃったもんね~」
「勝ったのはお兄さんでしょ」
「こまかいなぁ」
マグカップを差し出すと、冬樹くんは「いただきます」と蒸しパンを口に運ぶ。
途端に秋穂ちゃんのように顔を緩ませ――ひとつ、咳払いした。
「手加減はしてなかったけど、全力じゃなかった、気がする」
冬樹くんは逆再生に駒を動かしながら、分岐点で手を止めた。
「お兄さんが全力を出せないのは、ぼくが弱いからだ。それが、悔しい」
「本当に7歳ですか?」
俺が7歳の時は、勝負に負けたら泣き喚いていたぞ。
「今日中に、いっかいは、うならせて……や。勝つ」
「やれるものなら」
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