正反対の双子

「ご紹介します! はい、お名前どうぞ!」


 お揃いの制服を着る、金髪紅眼の女の子と、銀髪翠眼の男の子。


「白瀬秋穂あきほです! 7歳です!」

「……白瀬冬樹ふゆき、です?」


 双子なのだろう、同じ顔だが、表情が違う。

 秋穂ちゃんはきらきらとした瞳で、冬樹くんは怪訝そうな瞳で俺を見ている。


「はじめまして。小街藍緒です」


 屈んで目線を合わせると、秋穂ちゃんが白瀬さんの腕を掴む。


「カレシですか!」

「クラスメイトです! 今日だけ、お料理作りに来てくれたの」


 ぽっかり口を開けたまま、秋穂ちゃんは俺を眺めて。


「おりょうり作れるの⁉ ハルちゃんでもできないのに!」

「そう、作れるの。ハルちゃんでもできないのに」

「すごーい!」


 よほど感動的だったのだろう、ぴょんぴょこ跳ねている。

 言葉の刃を受けて胸を押さえる白瀬さんはいいとして、冬樹くんはといえば。


「……うちの姉がご迷惑をおかけしました。たぶん、ケガの手当てもお兄さんが」

「い、いえいえ、とんでもないです。こちらこそ、突然お邪魔してしまって」

「冬樹さんちょっと、あたしよりしっかりしてるのやめて?」

 

 なんだこの双子、面白可愛すぎる。同じ顔なのにあまりにも性格が正反対だ。

 しかし……この二人+一人の世話を見るとなると、なるほど骨は折れそうだ。


「あたし部活行かなきゃだから、小街くんの言うこと聞いてね。仲良くできる?」

「うん!」

「だいじょうぶ」


 秋穂ちゃんは元気にサムズアップで、冬樹くんは静かに頷く。


「よし、よかった、さすがウチの子たち。じゃあ二人は、着替えてこようか」

「「はーい」」


 心配があったらしい白瀬さんはしかし安堵に息をつき、スマホを取り出した。


「夏凪には連絡しとくね。……あ、写真撮ってもいい?」

「ああ、俺の顔知らないもんな。いいよ」

「よし。カッコよく撮っちゃいますよ~」


 言いながら俺の隣に立つ白瀬さんは――俺の腕を抱き寄せた。


「え?」

「ほい、ぱしゃりんこ」


 スマホの内カメラには、俺と白瀬さんが並んで映っていた。


「え、な、なんでツーショット?」

「あたしが映ってたら信用できると思って」


 理解はできる……けど、心臓に悪いにもほどがある。

 学園中の生徒が近づきたくても近づけない、あの白瀬春乃がこの距離にいる。


「あはは、小街くん変な顔~。――あ。この写真、欲しい?」


 驚いて変な顔をしている俺をそのまま送りやがった白瀬さんは、俺の顔を覗く。


 写真が欲しいかどうか。欲しいに決まっている。だが――もし万が一、誰かにこの写真を見られてしまったら。

 白瀬さんに迷惑はかけられない。


「要りません。それより、早く行かないと」

「……あ、そうだった! じゃあみんなのこと、お願いね」


 心なしか、白瀬さんは一瞬だけ寂しそうな顔をして、鞄を勢いよく背負って玄関の方に走り出す。


「白瀬さん」

「ぅお――っと、なぁに?」


 急に止まって振り返る白瀬さんに、俺は手を振りつつ。


「いってらっしゃい」


 言うと白瀬さんは朗らかな笑顔で、俺の数倍大きく手を振る。


「いってきます! 19時には帰る!」


 ……余韻に浸っている場合ではない。やることをやらなければ。


 野菜反対派の冬樹くんがいるなら、入れ方は工夫する必要がありそうだ。

 玉ねぎは細かめに、にんじんはすりおろすことにしよう。


「いやまず、米炊いてねぇな」


 危ない、オムレツだけ提出するハメになるところだった。

 米も全部未開封で……『いっとうせい』……高級品じゃないか大富豪め。


「うちのキッチンに人が立ってるなんて」

「早いね。今ご飯炊いてるから、もう一時間くらい待てる?」


 気づけば冬樹くんが足元にいたのでそう聞くと、彼は小さく頷く。


「じゃあお兄さん、あそぼ」

「おお、何する?」


 歳相応なお誘いに逆に戸惑いながら返事をすると、冬樹くんはテーブルの方に移動し、盤を用意する。


「……将棋?」

「できますか?」

「一応。いいよ、相手になろう」


 始めに選ぶのがそれならば、自信があるのだろう。


「先手、どうぞ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 小学生とは思えない風格と余裕を見せる冬樹くんは、確かに上手だった。

 定石を押さえ、驚くほどミスがなく、それでいて一手にかかる時間が短い。

 本気で取り組んでいる様子がうかがえるが――しかし。


「……ん……参りました」

「ありがとうございました」


 わざと負けるなんて彼には侮辱になるだろう。

 あごに指をあて、対局を振り返っているだろう冬樹くんは、俺を見上げた。


「びっくりしました」

「いや、こっちのセリフだよ。大人とやってるかと思っ――」

「手加減されてるのに、負けちゃったから」

「……おっと?」


 最終的にこちらが勝ったにも関わらず、手加減していたと気づけるものなのか。

 あからさまな動きはしていなかったはずだけど、冬樹くんの視線が怖い。


「本気で、やって?」

「ごめんなさい」


 そう言われては、と準備を進める時、軽快に階段を下りる音が聞こえた。


「アオくん、おなかすいた~」


 と、距離感の測り方が姉譲りな秋穂ちゃんが俺の袖を引く。


「秋穂、あと1時間だって」

「いや、何か作るよ。俺の代わりに将棋やってくれる?」

「やった! でも秋穂、しょーぎわかんないよ?」

「俺の言う通りに動かしてくれたらいいよ」


 駒と数字の読み方を教えると、秋穂ちゃんは一度で完璧に理解してくれた。

 白瀬家バグってないか。

 

「先手はまた、お兄さんでいいよ」

「はいよ。じゃあ、7八飛車」

「ひしゃー、これ! すごいとぶ」


 俺は空で将棋を指しつつ、材料を用意。

 マグカップにホットケーキミックスと牛乳、それから砂糖を勘で入れ、混ぜる。

 レンジに放り込む。後は待つだけ。


「アオくん、見して!」

「あれ、将棋は?」

「見てきていいよって言ってくれた!」


 俺の方まで来た秋穂ちゃんによればどうやら、冬樹くんは今一人で駒を動かしているらしい。それでいいんだ。

 

「はい、見える?」

「ん~……あ、ふくらんでる?」


 秋穂ちゃんを抱きかかえてレンジの中を見せると、それはそれは輝いた瞳で俺を見てくれる。


「すごい……ふしぎ。いいにおい」


 うちの子にしてもいいかな。

 

 さて、できあがったマグカップ蒸しパンにフォークを刺してテーブルへ。

 冬樹くんの正面に座ると、秋穂ちゃんは俺の膝の上に座る。

 警戒心、どこに忘れてきたんだ。


「たべていい?」

「召し上がれ。――5五竜」

「いただきます。……ふぁ、おいひ~もちもち~――あ、はい、これです」

 

 身体を横に揺らす秋穂ちゃんを支えつつ、油断できない盤を眺める。

 冬樹くんは比較的長い時間考え、小さく息を吐いた。


「……6七玉」


 よし、問題なく。あとは金を――


「ん、アオくんこれ、ここ?」

「そうそう7七金……よく分かったね⁉」

「ホント⁉ やった!」


 駒の動かし方も、勝ち方も、教えてない。


 見ながら……覚えたのか?


「参りました。……はぁ、悔しい」

「ぬへへ、フユくんに勝っちゃったもんね~」

「勝ったのはお兄さんでしょ」

「こまかいなぁ」


 マグカップを差し出すと、冬樹くんは「いただきます」と蒸しパンを口に運ぶ。

 途端に秋穂ちゃんのように顔を緩ませ――ひとつ、咳払いした。


「手加減はしてなかったけど、全力じゃなかった、気がする」


 冬樹くんは逆再生に駒を動かしながら、分岐点で手を止めた。


「お兄さんが全力を出せないのは、ぼくが弱いからだ。それが、悔しい」

「本当に7歳ですか?」


 俺が7歳の時は、勝負に負けたら泣き喚いていたぞ。


「今日中に、いっかいは、うならせて……や。勝つ」

「やれるものなら」

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