第30話


「新君、忘れ物してない? あっ、今日はお弁当ハンバーグ作ったから」

「う、うん。いつもありがと。でも、毎日早起きだけど無理しないでね」

「うん。心配してくれて嬉しい」


 柊がうちに住むようになって数日が経過した。


 朝ごはんの支度や学校の予定、夕方の予定確認まで、ほとんど柊がしてくれてる。


 もちろんそれに甘えないように俺は俺でちゃんとしているつもりだけど、母も俺ではなく全部柊に任せるもんだから、すっかり俺の方がこの家での立ち位置は下になった気がする。


 まるで家族が増えたみたいと、母は毎日喜んでいて、父も笑顔が増えた気がする。


 柊の存在はそれほどまでに我が家では大きくなっていて。


 そして俺も、新たな気持ちが芽生え始めていた。



「よう新、すっかり柊さんとラブラブだな」


 朝から田宮が冷かしてくる。


「いや、そんなんじゃないって」

「でもよー、一緒に住んでるんだろ? それってもう、嫁じゃん嫁」

「しーっ、声が大きいって。一応他の人には内緒なんだから」

「あ、すまんすまん。でもよ、風呂とかも同じ風呂に入ってんだろ? それ、柊さんはどう言ってんだ?」

「どうって、どうなんだろ。一応柊さんが一番先に入って、両親はシャワーしか浴びないから何も気にしてないみたいだけど」

「じゃあ柊さんの入った風呂に入ってんだ。うわー、えっろ」

「や、やめろよ。俺も意識しないように必死なんだから」

「なんで意識しないように必死になるんだよ。したらいいじゃんか」

「いや、それはだって」

「柊さんと気まずくなったら嫌だってのはわかるけどさ。もし向こうが新のこと好きだったら、それこそ可哀想だろ」

「可哀想?」

「ずっと一緒にいて、何も意識されてないってそりゃ傷つくぜー。たまにはよ、新から誘ってどっか行ってみろよ」

「んー」


 田宮の言いたいことはわかるけど、それはあくまで柊が俺に好意を持っている前提の話だ。


 もし何も思ってなかったら……。


「じゃあさ、柊さんが彼氏できたらどうするつもりだよ」

「ど、どうするって、何が?」

「他の男と一緒に住んでる彼女とか嫌だろうし、柊さんも出ていくんじゃないか? それ、新はなんとも思わないのか?」

「んー」


 ある日突然柊に彼氏が出来たとか言われたら……母さんたちも悲しむだろうな。


 それに俺はどうなんだ。

 柊に他に好きな人がいたら……。


 うわ、考えたくない。

 めっちゃ嫌だ。


「それは想像したくないかも」

「はは、それって好きってことじゃんか」

「好きとかそういうのはまだ……でも、頑張ってみるよ」

「そうこなくっちゃ。朗報、期待してるぜ」


 田宮が席に戻ると、ちょうどどこかに行っていた柊が戻ってきて。


 席に座るとチラッと俺を見てから、また黙り込んだ。


 どこ行ってたんだろう。

 今、俺を見て何を考えてたんだろう。


 なんで、何も話しかけてこないのだろう。


 田宮のせいで、そんなことが気になってしまう。


 そんなモヤモヤがずっと俺の中を渦巻きながらやがて授業になって。


 その間もずっと俺は、柊の様子を目で追っていた。

 

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