第27話

「森崎君」


 休み時間。

 柊が小さな声で俺に話しかけてきた。


「どうしたの?」

「うん、あのね、今日うちのお母さんが来るって話聞いた?」

「あ、うん聞いたよ。やっぱり昨日のことで心配してるのかな」

「ううん、そんなんじゃないから。なんかね、森崎君に会ってみたいって」

「俺に? な、なんでだろ」

「バイト先で仲良くしてもらってるって話したら、会ってみたいって。私、友達とか家に呼んだこともないから興味あるみたい」

「そ、そっか。でも、なんか緊張するなあ」


 それにいくら娘の仕事先が気になるからって、仕事場まで来るのはちょっと過保護なんじゃないかな?


 やっぱり昨日、うちに泊めたことを怒ってるとか。

 それに俺は男だし、娘に変なことをしていないか疑われてるとか……


「あ、あの、ほんとに柊さんのお母さんは昨日のこと気にしてなかった?」

「昨日のこと?」

「あ、いや、その……」


 チラッと周りを見渡した。

 さすがにこんな会話、誰かに聞かれたら誤解される。


「その、昨日柊さんが泊まっていったこととか」

「うん、大丈夫。よくしてくれてるんだねって」

「そ、そう。ならいいんだけど」


 考えすぎか。

 まあ、向こうの親が文句を言ってきているのなら、今朝の母の様子も説明がつかないし。


 やっぱり普通に娘のバイト先と、そこにいる同級生の存在が気になる程度のことか。


 まあ、ちゃんと礼儀正しく対応していれば何も言われないだろう。


 その後、すっかり放課後のことなんて忘れて何事もない一日が終わり。


 夕方。

 柊と二人で店に戻ると、店の隣に見慣れない車が一台止まっていた。

  

「あ、お母さんの車だ」

「え、柊さんのお母さん?」


 いつもの自分の家なのに。

 一気にそこに入るのが緊張してきた。


「……大丈夫かな」

「大丈夫だよ。ほら、早く行こ」


 柊が先に店へ。

 俺は足取り重く、後から店に入ると。


「あら、あなたが新君?」


 入ってすぐの席に、綺麗な女性がいて。


 立ち上がって俺のところに寄ってきた。


「は、はい」

「ふーん、真面目そうな子ね。あっ、私、雪愛の母です。今日はよろしくね」


 そう言って席へ戻ると、なぜか豪華な食事が並んでいて。


「新、今日はもう店は閉めるから」

「へ? あの、今日は一体」

「まあまあ、いいからいいから」


 よくわからない空気のまま、俺は柊の母の向かいに座らされて。


「ふふっ、よろしくね」


 微笑みかけられるも会釈しかできず。


 店の扉に母がクローズの看板をかけた。

 

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