第23話


 私は今、とても幸せだ。


 大好きな新君と二人っきりで、彼の肩に身を寄せて。


 肩を抱かれて、顔と顔が近付いて、足を絡めて。


 ずっとこうしていたい。


 なんか体があったかい。

 頭がぼーっとする。

 何も考えられない。


 ぼんやり、新君の声がする……。


「柊さん?」

「あ、あれ……新、くん?」

「よかった。ごめん、今俺の部屋に運んでて。熱は……だいぶ下がったみたいだね」


 袖を捲って、額の汗を拭いながら私のおでこに濡らしたタオルを置いてくれた。


「冷たい……気持ちいい」

「ずっとうなされてたから心配だったけど、顔色も良くなってきたみたいでよかった。薬、飲む?」

「うん。よいしょっ……ううっ」

「だ、大丈夫? ほら、手、貸すから」

「……うん」


 差し出された彼の手をそっと握って体を起こした。


 さりげなく、だけど。

 初めて手を握っちゃった。


「……ごくっ。ふう、ちょっと楽になったかな」

「いやあ、急に熱出して倒れた時はどうなるかと思ったけど。あの、家族の人には連絡しなくて大丈夫?」

「今は……もう夕方、か。うん、今日は家族も出かけてるから大丈夫。それより、ごめんなさい」

「あ、謝ることないよ。俺の方こそ、早く気づかなくてごめん」

「……もうちょっと、ここでゆっくりしてていい?」

「も、もちろんだよ。じゃあ、冷たい飲み物もらってくるね。ちょっと待ってて」


 新君が部屋を出ていくと、私はすぐに布団にくるまった。


 新君が毎日寝てる布団。

 微かに、彼の匂いがする。


 彼の枕に、私の長い髪が落ちている。


 私の匂い、つけたい。

 今日、彼がここで寝る時に、私のことを思い出してくれるように。


「すう……ずっと、ここにいたいな」


 熱が出ちゃってデートは台無しになったけど。


 代わりに、もっといいことができた。


 彼に触れた。

 彼を感じながら眠れた。


 看病もしてもらって。

 幸せ。


 はあ……この後も一緒にいたいな。

 今は甘えたら、甘えさせてくれるかな。


 お母さんに連絡、しとこっ。


 今日は友達と飲み会って言ってたし。


「……今日、友達の家に泊まるかも」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る