第23話 YGコーポレーション
『YGコーポレーション』 は、あらゆる職業スキルを持つ人材を応援として送り出す人材派遣会社であり、小林は以前の個人経営時代から頻繁に利用していたため、内部の人間とも顔見知りが多かった。
「お疲れ様です…小林さん…。いつもご依頼ありがとうございます。」
派遣担当者の高田が黒のスーツ姿で、四人の若手を連れて現場にやってきた。
「高田君…いつもありがとう…。内容は外装と内装の両面からリフォーム工事なんだが?」
「楽勝ですね…。奥山は内装工事全般のプロ、佐々木は外装関係の仕事で名を売ってますし、宮下は今もゼネコンからの依頼が多いのですが、小林さんの危機を救いに…。最後に古江は、小林さんもご存知の通り…。」
「フフッ、派遣社員の天才…。」
四人は声を揃えて小林に頭を下げる。
「宜しくお願いします!小林社長。」
「おいおい…もう俺は社長じゃあないんだから…あまり騒ぎたてないでくれよ。」
小林は四人の若者を苦笑いしながら制した。
「それじゃぁ、お前ら…毎度のことだが、失敗は許されねぇからな…。」
高田の言葉に、四人は「押忍っ!!」と鬼気迫る表情で業務への意気込みを見せた。
「では小林さん…今後もご贔屓に…。」
「ああ、高田君…また例の廃材処理が近々増えそうなんだ…。」
「お任せください…。どんな仕事も迅速丁寧がわが社のモットーですので…。お電話頂ければすぐに…。」
高田は改めて四人の尻に火をつけながら帰って行った。
YGコーポレーションの四人の精鋭によって山田と新倉の不在も問題なく、工事は進んだ。
「おっくん、壁面の斫り行けるか?」
「任せてください!自分、斫りは得意分野なので…。」
「良いなぁ、若者って…。見てるだけでこっちも力が沸いて来るぜ。」
「ワラさん!あちらの塗装終わりそうなんですが…次どうしますか?」
「マジ?速ぇじゃん…。そしたらさぁ、佐々木君と宮下君で足場移動してもらえる?のんびりで良いからさ…。」
「了解ッス!」
明朗な藁谷は、YGコーポレーションの若者たちとも早く打ち解けていたが、入沢はこの派遣の若者たちの器用さに疑問を抱いていた。
「YGコーポレーション?俺もこの業界は長いけど、そんな派遣会社があったなんて…。しかも全員あの若さでかなりのスキルだ…。」
「入沢さん…次は何しましょ?」
瓦礫をネコ(手押し車)で運び終えた古江が指示を仰いでくる。
「もう運び終えたの?たった一人で…。」
「ハイ…自分、こんなことしかできないですが、何かの役には立つと思うんで…。」
「そ、そうなの…。じゃあ、一先ず次の段取り組むまで待機してて良いよ…」
「ハイ。ありがとうございます」
汗だくになった古江は、水分を補給しながら懐からチキチキボーンを取り出し、塩分も補給した。
途中、現場の進行状況を確認に馬場が現れ、小林の依頼した派遣社員たちの活躍に目を見張る。
「良いねぇ!みんな若いねぇ!山田と違ってよく動くわ」
「社長…これで納期には充分間に合いますよ…。」
「さっすがコバちゃん!よっ!馬場建設の鏡!」
馬場は調子良さげに小林を誉め称えるが、小林の目は笑っていなかった。
「社長…その分費用は掛かりますので…宜しくお願いします」
「エ~!?あの子たちいくらなの?そんな高いの?」
「流石に派遣ですんで…。月内には支払いの方を…。」
「エ~!?うち今月金ないよ!山田がミスばっかするから…。」
「しかし、新倉さんまで居なくなった今、彼らの力無くしては…。」
いつも冷静な小林もさすがに本気で焦りを見せていた。
「じゃあ、少しだけ…コバちゃん立て替えておいてよ。すぐに山田と新倉さんの支払い分から追いつけるからさ。」
「そ、それは…流石に…。」
「コバちゃん!君、誰のおかげで良い暮らし出来てるの?かつて事業に失敗したお金は誰が立て替えたっけ?」
馬場の抑圧に、小林は何も言い返せなかった。
それを目にし、さすがの藁谷も笑えず、入沢はもはや我慢の限界に達していた。
「俺は知ってるぞ…。馬場は会社の金をゴルフだけじゃなく、競艇にも注ぎ込んでるってことを…。」
栄耀栄華を誇った馬場建設に、不吉な影が忍び寄ろうとしていた。
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