第21話 リストラ
精神的に追い詰められた山田隼人は、馬場より休暇を許されていたが、自分のために新たな現場交渉までしてくれた小林にこれ以上苦労をかけまいと、三日目で復帰を目指した。
「隼人、まだ無理しない方が?」
妻の由香子は夫の体調を心から気にかけたが、山田はこれ以上の欠勤は更なる減給に響くと、身を奮い起こして出勤しようとする。
「由香子…君のためにも行かなくちゃならないんだ…。俺は馬場さんにも長年尽くし、真面目にやってきた…。このまま終わるわけにはいかない…。」
山田は意味深に由香子に告げた。
「隼人…絶対に無理はしちゃだめよ…。」
「ああ、今夜は君のもつ煮が食べたいな…。」
「分かったわ。腕によりをかけて作ってあげるね!」
山田は笑顔を妻に返し、会社へと向かっていく。
今日も街中を捜索するパトカーが多く走っていたが、休暇の間も失踪事件に動きはなかった。
会社に辿り着いた山田を迎える新倉、藁谷、入沢、峯岸夫妻。
小林は現場責任者として先に現場に直行しているようだった。
「おはようございます、皆さん。すみません…大変ご迷惑をお掛けしました。今日から心機一転、仕事に取り組もうと思います。」
山田の挨拶と謝罪に対し、藁谷はいつも通りに笑い飛ばす。
「ヒャッハッハッ!山ちゃん…よく来たねぇ!」
片や新倉はアズキバーを片手に苦笑いを浮かべる。
「山ちゃん…もうちょい休んでても良かったんじゃないか?」
入沢は何も声をかけず、逆に山田を睨みつけるような態度だった。
「山ちゃん…あ、あのさ…。」
事務員の由紀は切なそうに言いかけるが、夫の峯岸が彼女の肩を叩いてそれを制した。
山田は彼らの態度を不信に思いながらも馬場の待つ社長室に向かう。
馬場は、ゴルフクラブを手に素振りをしていた。
「おはようございます…社長…。社長のおかげで心身共に休養を取ることができました。」
「あ、そう…。良かったじゃん…。」
馬場は山田の目を見ることもなく、素振りを続ける。
「二度とあのような失敗がないように…今日から仕事に打ち込んでいくつもりです!」
山田は深々と頭を下げながら馬場に謝罪を示すが、馬場はいきなりゴルフクラブを山田に向けた。
「もう頑張らなくて良いよ…。お前の席はうちにはもう無いから…」
馬場の言葉を山田は一瞬理解できなかった。
「し、社長…それはどういう意味ですか?」
「どういう意味ってそういう意味だよ…。会社の利益にならない奴はうちには要らん。」
「そ、そんな…。急にそんなこと言われましても…私にも生活が…。」
山田は取り乱すが、馬場は冷酷に続けた。
「お前の生活?俺はお前の生活のために会社立ち上げたんじゃないんだよ。そんなに生活苦しいなら、昼夜バイトでもするんだな…。」
「し、社長!もう一度チャンスを!自分はずっと社長に尽くしてきたじゃないですか?」
山田は土下座して馬場に縋るが、彼はゴルフに行く準備を済ませ、捨て台詞だけを吐いて出ていった。
「今までご苦労だったな…。良い会社が見つかるように祈ってるよ…。じゃあな!」
馬場が出ていき、山田は社長室に取り残された。
「ふ、ふざけるな…。ほ、本当に殺したいのは…お前なんだ…。」
山田は社長室に残されたゴルフクラブを手にしたが、冷静さを取り戻し、妻である由香子を想った。
「こ、今夜はもつ煮が待ってる…。グフフ、もつ煮食いてぇぇ…。」
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