第12話 山田の秘密
山田は何事もなく朝を迎える。
昨夜は小林の計らいで美味しいもつ煮を食し、良い酒を呑んだ記憶が過る。
「美味しい…もつ煮だったな…。」
小林の優しさに山田は感謝を思う反面、彼は豹変と共に小林を襲撃した記憶を失っていた。
一日の休日を明け、翌週の馬場建設は朝から張り詰めた空気ではなく、安堵の空気に包まれていた。
「すいません、社長!ご心配おかけしました!」
山田に怪我を負わされながらも小林は朝から出社し、笑顔で馬場に頭を下げた。
「おい、こばちゃん!どこで何やらかしたんだ!怪我したって聞いたぞ!」
小林が怪我をした事を新倉から聞いた馬場は、小林が無事に出社してきた事に目を丸くした。
「ハハ、大したことないですよ。山田と飲みに行った帰りに、酔っ払って転んじゃって。大したことないのに新倉さんたらオーバーだなぁ。」
「なんだ、そういうことか!それなら良いんだ…。今の現場こばちゃんに抜けられると厄介だからなぁ…。」
新倉から話を聞いた藁谷、入沢、そして峯岸夫妻も、小林の無事な姿に心から安堵していた。
「小林さん無事で何よりです。あそこの現場は小林さんが居ないと大変ですからね…。」
「ああ、何気に元請けが何かと細かいしな…。」
入沢と藁谷は顔を合わせて小林が穴を空けなかった事に安心する。
そして、そこに山田隼人が何事もなく出社してきた。
「どうしたんですか、小林さん!?」
小林の顔の傷と足を引きずる様子を見て、山田は声をかけた。
「山ちゃん…覚えてないのか?」
小林の問いに、山田は首を傾げる。彼の様子から、もつ煮を食べると記憶が飛ぶことを確信した小林は、笑いながら山田に話しかけた。
「いやいや、それだけ楽しんでくれたなら良いんだよ。今度、先日話した最高級のモツを食べに行こうな。」
「す、すいません…。俺も酔っ払って小林さんを送った記憶がなくて…」
「山ちゃん、こばちゃんに奢ってもらっといて何やってんだよ!入院でもする大怪我だったら洒落になんないぜ。」
新倉は山田を攻めるも、小林が庇うように説明する。
「まぁ新倉さん、呑みの席は自己責任だから転んだ俺が悪いんですよ…。山ちゃんに責任は無いんで。」
小林の優しさに、山田は深々と頭を下げた。
会社の面々も、山田の無責任さに呆れながらも小林の何気ない態度のおかけで彼の狂気が皆にバレずに済んだ。
「お前ら!小林が帰ってきたんだ!今日からまた気合い入れて働くぞ!」
馬場の号令に、社員たちは再び仕事に勤しみ始める。山田はただ一人、小林への感謝の気持ちとどこか拭いきれない違和感を抱えながら、作業車に向かった。
しかし、途中で山田の脳裏を過る知らない記憶。
夜のトンネルで足を負傷した小林が逃げる映像。
山田は今一度、その記憶に不信を抱くのだった。
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