2時限目 ミステリーの流れを掴んでいこう
Ep.7 ミステリーの起承転結って何ですか?
「犯人になってみるってどういうこと? 前も言ったけど、トリックなんて作れる自信なんてないわよ」
目の前にいる生徒会長は首を傾けて、不思議がっている。
自分がミステリーを書けるはずもないと、そう思い込んでいるのだ。ただ、作家であれば書けるのだ。
応用パターンさえ分かれば、全くの問題がない。
「別にトリックなんて必要ない。トリックを考えるのも確かにミステリー作家としての面白いところかもしれないけどさ。まずは犯人の気持ちになって。事件が起きたところを想像するんだ。自分なら指紋を拭きとるとか、血を拭きとるとか……警察に賄賂を渡すとか……? どんな形で事件を誤魔化すかって……そんな流れでトリックのないミステリーを書いてみて」
「書いてみて……って」
「それで自分ならこういう風にストーリーを描く。探偵のキャラをこう決めるって余裕ができた頃にトリックを考え始めてもいいかもね。逆に自分の中のこうするって、テンプレがないうちにトリックとかを考えると、こんがらがるかもしれないね」
すると、彼女はいきり立って僕に話し出す。
「私にだってテンプレ位あるわよ」
「えっ? もう作ってきたの!?」
そして何故か弁当箱を用意する始末。
「海老天、いか天、茄子天」
「ああ……サクサクして中はぷりっぷりっ、とっても美味しそう……貰っていい?」
「いいわよ!」
「塩だけでも美味しい! って違うっ! 確かに昨日まだテンプレを用意しなくてはいいって言ったし!」
「だ、だって、それって用意しておいてって前振りじゃ」
「……テンプラじゃなくて、テンプレだし」
「えっ……?」
だいたい何故僕が無意味にテンプラを用意して来いと言うのだろうか。いくら食べたくなったからと言って、テンプラを同級生に頼む輩はいないと思うのだが。
もう一度テンプレの存在から学び直す必要がありそうだ。
「説明すると、テンプレっていうのはテンプレートの略」
「略ならちゃんと正しく言いなさいよ! 間違えちゃったじゃない!」
「間違えないと思っちゃったんだよ。ええ、そうね。僕が馬鹿でした! 御馳走様! 美味しかったよ! ありがとう! テンプレって言うのは物語の流れ! ミステリーっていっても、いくつもテンプレはあるけど、自分の勧めるテンプレを最初にやった方がいいと思ったから、作らなくていいって言ったんだよ」
「で、いいテンプラって何なのよ」
「まず、食べ物から離れよう?」
彼女は厚い衣のゴボウ天をカリッと食べつつ、僕の説明を待っていた。完全に僕の解説はアニメか何かの寸劇である。ポップコーン感覚できっと召し上がっているに違いない。
「で……自分のテンプレ。よくアニメにも使われることが多い。日常、事件発生、捜査、推理ショー、解決、後日譚、的な流れだね。最初にこういうのを決めていくのがいいと思うんだ」
「つまり、言うところ起承転結?」
「起承転結にしては、二つ程多いけどね。余計なところを省くとしたら……事件が起、捜査が承、推理ショーがクライマックスだから転」
「解決シーンが
何故ケツを強調したのだろうか。そのしなやかな曲線美で大きいケツをチラ見してしまったではないか。あわやそれに潰されたいなどと、少したりとも思っていないぞ。
「しかし、この解決の結って、アニメで言うところの何処?」
彼女からの問いに僕はミステリーの大事なところでもあると伝えていく。
「動機、だね。犯人が動機を語るシーン。そこがまぁ、後日譚、オチにも繋がることが多いからね。場合によっては動機を解明するミステリーもあるから……。そこだけって分かんないけど……。後は解決した後のキャラの反応かな。今回は探偵のキャラというものを知ってほしいし。その辺の掛け合いも書いてほしいなって思うんだ。その辺りもしっかり解説したいと思うし、さ」
「な、なるほど……面白くなってきたわね」
もうそもそも、風村さん、貴方自身が結構面白いけれども、とは口には出さず。
「これで小説を書いていこうか」
「ええ。でも、ちょっとだけいい?」
「ん?」
「このテンプレを崩すこともあるの? まさか推理ショーが先になんてこと」
「少ないけど、あるにはあるよ」
「あるの!?」
彼女はだいぶ驚いている様子。
「まずそのテンプレの順番を変えることだってあるじゃない。だってこの前言ったように。死体を冒頭で転がすために。一度事件シーンを見せてから、一番最初の日常シーンを入れてもいいし。もし探偵の推理ショーを見せたい。探偵のキャラがいいって言うのであれば、探偵の推理ショーシーンを先にちょびっと見せたっていい。犯人が最初から分かってるミステリーだったら、その犯人の指名シーンまで持って行っていいし。後は普通に回想って言うのなら、後日譚から始まる物語だってあるし」
「そっか……自分の推したいポイント、得意なところを冒頭に持ってきて面白くするってこともありなのね!」
「特に捜査が面白みのあるなら……犯人が『どうして、それが分かったんだ……!』ってところから、探偵が回想してどうしてこの殺人事件の謎が解けたのかを主軸にしてもいいのかもしれない」
「面白いわね……!」
「そっ。まずはそのために基本を抑えていてほしいってところかな。まぁ、今のうちに自分の推しポイントを考えておくのはいいよ」
「見せたいのは探偵のキャラよ……! 私の場合はそれはどうしても外せないわ。格好いいバディものに憧れてるのよ」
「了解。それなら最初に書けるテンプレに支障はないだろうし、それでやってみようか」
に、してもだ。彼女はまだテンプラを食べている。弁当箱から次から次へと出しては食べている。
僕からしたら、もうそこでミステリーが生まれている。
「一体いくつ作ったんだ?」
「いやぁ、テンプラが必要だと思ったのよ。だから、二人がバンバン食べられる位には作ったのよ。しいたけにトマトもあるけど、ねぇねぇ、シャインマスカットやイチゴ、バナナのテンプラとかもあるのよ」
「……美味しいの?」
「実際美味しいらしいよ。食べてみる?」
口にした、その味はサクサクと甘味が主張される。どうやらフルーツのテンプラ。その衣がフルーツの甘さをそこまで邪魔するようではなさそうだ。
「でもまぁ、その中にどんなテーマが入り込むか、が大事だから。今回はテンプラ屋さんでいく?」
僕の提案に彼女は止まる。そして、一言。
「テンプラ屋さんで……大爆発……!?」
何が起きるか、までは決まったと。それにしても物騒すぎるよ。この生徒会長。
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