第11話 大きな乱入者
鋭く踏み込み、脚を狙って横薙ぎにナタを振るう。
しかしこれは当たらなかった。動きを読まれていたかのように刀身と頭を踏みつけられ、オレの背後へと跳んで避けられてしまった。
くそ、オレは階段じゃないぞ。そんなにポンポン頭を踏むんじゃない!
今度は位置を予測し振り向きざまに斬り付けるもこれまた当たらない。
ぐぬぬ。こいつ、オレの心でも読んでるんじゃないだろうな。
「ほいっ」
そして約束通り、攻撃の合間を縫って相手の攻撃が飛んでくるようになった。これがまた重いのなんの、すり抜けるように顔面をかすめたジャブでさえ顔が爆発したのかと思える威力だった。
痛ったあ、歯ぁ折れてないよな。
「いい動きだね、訓練された動きだ。君ってどこから来たの?」
「そんなのオレが知りてーよっ!」
圧倒的なくせにいい動きだなんてよく言うぜ。
パンチの時と違い、今度はいくら攻めてもかすりもしない。相手はいまだ余裕の表情。対してオレは疲労に上乗せしてだいぶいいのをもらっている。
……やばい、超楽しい。
とんでもない強敵との戦い、いつ死ぬかもしれないヒリついた感覚。状況的にはかなり追い込まれているのに、思わず笑みがこぼれていた。
そう言えばあいつ、オレの動きを訓練された動きだなんて言っていたな。全く覚えちゃいないけど、オレは以前から戦いに身を置いていたのだろうか。
いや、そんな事はいい。今はただ、この甘美な戦いをもっと楽しんでいたい。
ああ……でもやられっぱなしは面白くないなあ。どうにかして一泡吹かせてやりたいもんだ。
あいつはオレの動きを予測して対処しているのだろうか? だとすればトリッキーな動きで撹乱すれば予測を乱せるかな。もしくはあいつの目を上回る速度で斬り付けてやってもいい。そうだな、そうしよう。
「……ん?」
突如攻めを中断して距離を取ったオレに対し、女が不思議そうな表情をした。
「居合でもやるつもり? 構えでやろうとしてる事がバレバレなんだけど」
「いいんだよ、何をやるつもりなのかバレたってな」
理屈は簡単だ。相手が認識できないくらいの速さで斬ってしまえばいい、ただそれだけの事だ。
息を吸い、集中力を高める。この重いナタでどれくらいできるかわからないけど、やってみる価値はあるさ。
相手も余裕ぶっているのか正面から受けるように待っててくれている。勝負は一瞬、互いに覚悟の上での決闘か……最高だ。
集中力は最高潮、ぐっと脚に力を込めて弾かれるように踏み出した。そこには何の邪魔も入る事のない、二人だけの世界。そう感じられるほどの瞬間だった。
「ギガスが出たぞー!」
そう、ギガ……。え、何だって?
「うわっと!?」
しまった、急に外野から変な声が聞こえたもんだから集中が乱れた。一気に駆け抜けるつもりだったのにバランスを崩して失速、おまけに勢いそのままゴミの山へと頭から突っ込んじゃったじゃないか。
慌てて体を起こし反撃に備えたが、反撃どころかあの女の姿がない。
ええ……、一体何が起こってるんだよ?
「アカリ!?」
再び何者かが叫ぶ声が聞こえた。さっきと違い今度は明確にオレに対し呼びかけられたものだ。
声のした方に目をやると、何やら騒がしい雑踏の中からアオミがこちらへ近付いてくるのが見えた。
「よおアオミ、用事は済んだのか?」
「済んだのか、じゃないよ。どうしたの、こんな所でゴミまみれになって」
「ああ……ちょっとワケがあってな」
説明しようと思ったが相手の女が姿をくらませているんじゃあな。
「なんというか、非常に高度な駆け引きがあったというか……」
「よくわからないけど……それよりギガスが街に入って来てるんだって! わたしたちも移動したほうがいいよ!」
ギガス? ああ、さっきそんな単語が聞こえたっけな。何かは知らないが街の連中が騒いでいる理由はそれか。
「で、ギガスって何?」
「そっか、記憶がないんだったね。ギガスっていうのは――」
説明しようとするアオミと耳を傾けるオレ。そんなオレたちの上にスッと大きな影が差した。
「あ、もういい。わかった」
ちょうどのタイミングでその当事者が現れたようだ。
巨大な手が建物の屋根を掴み、その巨体をいかにも重そうに支え進む。姿形はこの間出会ったグールによく似ている。しかし微妙に二足歩行気味になったその体は、ちょっとした小屋など見下ろすほどに大きかった。
なるほど、ギガスとはよく言ったものだ。
「こいつがギガスか?」
「そ、そうだけど……どうしてこんな所に!? 聞いてた場所と違うよ!」
周囲を見ると、アオミ同様うろたえているやつらが多い。こっちに避難してきた連中もいるようだ。どうやって入ったのかは知らないが、出現場所の予測が外れたのか。
だとするとマズいな。あの巨体でグールのような狂暴性を持っているとして、避難もおぼつかないこんな場所で暴れられたら大被害もいいところだぞ。
ま、それじゃあ行くか。ちょうど体も温まっていた所だ。
「アカリ? 何するつもり!?」
「仕事するんだよ。一応、お前のボディガードだしな」
危ないとかやめとけとか言われるのが面倒だったから、それだけ言ってギガス目掛け飛び出した。まあアオミの事だ、オレが戦っているうちに避難誘導くらいするだろう。
さて、オレが心配するべきはこっちだな。
近くまで来てみると……やっぱりデカい。オレが小さいというのもあるけど、どう頑張っても膝くらいまでしか届きそうにない。
先手必勝、とりあえずナタで脛のあたりを二・三回ほど刻んでみた。
うーん、通らない事はないけれどかなり頑丈だ。何より大きさのせいで思ったよりも深い傷にはならない。
「グオオオ!」
で、こんな事をすれば当然こっちに気付くよな。
咆哮からの巨大な手による振り下ろしが、周囲の建物を巻き込んで襲い来る。想定よりも素早く強力だ。
だが悪いな、さっきまでの相手ほどじゃない。今ちょっとギアが上がってきてる感じなんでね、かわすのはそう難しくはなかった。
ギガスの何を考えているのかわからない不気味な目と目が合った。手あたり次第に暴れるよりもオレを標的として定めたらしい。
ああ、こいつは好都合だ。オレもそれに応えるようにナタを真っ直ぐに突きつける。
「来いよデカブツ、お楽しみの続きはお前にやってもらおうじゃないか」
オレを潰そうとギガスが暴れ狂う。脛を斬ったくらいでそんなに怒らなくてもいいじゃないか。それとも元々狂暴なだけか?
なんて言ってる場合じゃない。さっき斬った足の傷がもう治っている、頑丈な上に回復力もかなりのものだ。どこか刃が通る部位を見つけて一気に仕留めないとキリがないぞ。
咆哮と共にギガスの腕が横薙ぎに襲い来る。もちろんまともに喰らえば骨が折れるどころの騒ぎじゃない。そのまま潰されて一巻の終わりだろう。
だが今はチャンスだ。オレは腕の一撃を回避すると同時にその腕に飛び乗った。このまま駆け上がって頭の方へとお邪魔するよ。
途中まで駆け上がったオレはそこから大ジャンプ、ギガスの首筋に向かって体全体で回転をかけたナタの一撃を振るう。
「ギャオォッ!」
斬られた事に対してかギガスが叫ぶ。
だが……浅い。けっこう渾身の一撃のつもりだったが首もまた硬く、思ったほどは通らなかった。
そしてちょっとした誤算。首を斬った後はそのままギガスの体を踏み台にして攻撃を続けるか、仕留めきれていなければ回避するかを選ぶつもりだった。しかしギガスは着地するかどうかのところでオレを挟み込むように建物めがけて体当たりを繰り出してきた。
「うっ……ソだろ!?」
こいつ、判断が早い! オレもかろうじてぺちゃんこになるのは免れたけど、吹き飛ばされた衝撃でバランスを崩して着地に失敗した。
いてて……、豪快な投げ技を喰らった気分だ。だが骨は逝ってない、まだ動くには問題ないさ。
うん、動くには問題はないんだけどね。ちょっと攻め手に欠けるかもしれない。
あーあ、オレもマギ装術が使えればなあ。手から爆発する矢とか飛ばして攻撃してみたい。……なんてな、すぐにできない事を言っても仕方がないか。せめてもっと良い武器でもあれば何とかなりそうなんだが。
「アカリ! 大丈夫!?」
お、いいタイミングだ。ここでアオミが駆けつけてくれた。
「あのまま逃げなかったのか?」
「アカリだけ置いて行けるわけないでしょ! この辺りのみんなは避難したよ、もうすぐガードが駆けつけるからわたしたちも避難しよう!」
「そうなのか? そりゃ急がないとな」
「うん、急いで……って、あれ?」
アオミが不思議そうな顔でオレを見ている。
「ねえアカリ、わたしにはアカリがすごくやる気に見えるんだけど気のせいかな?」
「いいや、気のせいじゃないよ。そもそもオレは避難の時間稼ぎなんかしてるつもりはないぞ。初めからあのデカいのを仕留める気だったからな!」
「ええ……そんなに血が出てるのに」
そんな呆れたような顔で見ないでくれよ。
今日はちょっと興が乗ってて楽しくて仕方がないんだ。何より、いいところでお預けを食わされた弁償をしてもらわなくちゃな。多少血が出てたっていつもの事さ。
……あ、そうだ。アオミを見てたらいい事を思いついたぞ。
「アオミ、まだアレ持ってるか?」
「え、アレ……って?」
「ちょっとリュックの中を見せてくれ」
「あっ、ちょっと。ひゃあん!」
「背中に手を入れたわけじゃあるまいし、変な声出すなよ……」
気を取り直して、と。おお、凄いなこのリュック、本当に見た目以上に色々入るんだな。
それで目的の物は……。よしっ、あったあった!
「これこれ、爆発ナイフ!」
「熱溶断式ヒートナイフね」
「あと大砲みたいなボウガン」
「バネ式ジェットランチャーだってば!」
「いいじゃないか名前くらいどうでも」
そう思うのだがアオミはとても不満そうだ。そこを譲れないのが製作者のこだわりなのか?
まあいい。さて、こいつらを使って再挑戦といこうか。まずはデカボウガンのハンドルを回して発射準備っと、……やっぱ重いなコレ。
「あっ、なるほど!」
ボウガンの下準備が終わったところでアオミが声を上げた。
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